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22)姉妹

 ソーニャの報告を聞いてレナンが恐るべき強者である事を知り喜ぶ黒騎士のマリアベル。


 そんな彼女にソーニャは問う。


 「……アルテリアが怪しいと言われた、お姉さまの予想通りでしたね? ……お姉さまはどうして、この地に白き勇者が居ると思われたのですか?」


 『王城からの白き勇者確保の信書を受け取った後のトルスティン伯爵の動きが色々と不自然過ぎた……。 まず、長女ティアと(くだん)のレナンの婚約発表を報せた姿絵……普通姿絵は、良縁を求める子息子女が使う物。それを婚約発表の為だけに使う事自体がおかしい。

 そしてトルスティン伯爵の隠居……これらは信書が届いてから間髪入れずに行われた……私にとって疑うには十分過ぎる……そして、今日疑惑は確信と為った』


 ソーニャの問いに静かに説明するマリアベル。対してソーニャは質問を続ける。



 「トルスティン伯爵は一体どういう心算で白き勇者の事を隠蔽(いんぺい)したのでしょうか? まさか……王国に対する反逆を企てて……!?」


 『いいや、違う様だ……アルトやレテ市で伯爵について調べて見たが……彼は純粋に養子のレナンを全力で守ろうとしているのだと思う。恐らくレナンが王国の道具とされる事を懸念した様だ。

 伯爵の行動は親としての想い故だろう……もっとも婚約自体は長女のティアから言いだしたとの事らしいが』



 黒騎士マリアベルの言葉に、何故かソーニャは青い顔をして何やら呟く。


 「……義理の……父が養子を守る……? なら……私は……どうして……捨てられた? 何故……私は……違ったの……?」


 頭を抱えて震えて呟くソーニャを見たマリアベルが優しく話し掛ける。


 『ソーニャ……嫌な思いをさせて済まない……この任務、お前にとって辛いなら……王都に戻っても……』


 「!……だ、大丈夫ですわ、マリアベルお姉さま……確かに私は実の親に捨てられた身。しかしその私をお姉さまが救って頂いた……その事こそが私の喜びであり全てです。だから何も問題はありません」


 気丈にも涙を湛えながらソーニャはマリアベルに言い切った。対してマリアベルはソーニャに声を掛ける。


 『ソーニャ……余り無理をするな……』


 「……はい、有難う御座います、お姉さま……所で……お姉さま、陛下の下知とは言え……本気で白き勇者と……?」


 『案ずるな、ソーニャ……私の考えを陛下には伝えてある。例え、予言に(うた)われし白き勇者とは言え下らぬ男なら夫婦どころか、切って捨てるとな……何より私より弱い男等、我が夫には相応しくない』


 何とか気を取り直して話したソーニャは、国王がマリアベルに命じた事について、恐る恐る(たず)ねた。


 しかしマリアベルはソーニャの気持ちとは裏腹に快活に答えた。


 「……やはり……本気で拝命されるお心算なのですね……何故、陛下はあの様なご無体を……」



 ソーニャががっくりと肩を落として呟く。彼女が落ち込むのは無理も無い事だった。


 黒騎士マリアベルはロデリア王国国王カリウス フォン ロデリア直属の懐刀として、国王に長らく仕えてきた。そのマリアベルが国王カリウスより、とある下知を賜った。



 その内容とは……。



 「寄りにも寄って、お姉さまと白き勇者の婚姻を命ずる等と……。ましてや、こ、ここ子を……は、(はら)め、だなんて! 陛下は、この国の英雄であるお姉さまを下賤(げせん)な女と同じく考えておられるのかしら!?」


 ソーニャが我慢出来ず、憤り叫ぶ。対してマリアベルは苦笑しながら答えた。


 『……落ち着け、ソーニャ……それ以上は不敬だぞ? さっきも言っただろう、下らぬ男なら切り捨てると。陛下の御心としては、この国難において一時の兵力増強ではなく代々続く強い血を望んでおいでだ。

 お前も知っての通り、私は荒ぶる一族の血を引いている。そこに白き勇者の血が混じれば、このロデリアを長きに渡り守る強力な盾となろう……それを陛下は望んでおられるのだ』


 「……ですが、その事とお姉さまご自身の事情とは別なお話です……此れではお姉さまが余りに御可哀そう……」


 ソーニャはそう言って(うつむ)いて涙を(にじ)ませる。対してマリアベルは明るく答えた。


 『それは違うぞ、ソーニャ……私はな、陛下からのこの拝命……少し楽しみなのだ』


 「?……どういう、事ですか? お姉さま」


 マリアベルの言葉にソーニャは驚いて顔を上げて問う。


 『ハハハ……ソーニャ、この私はな……祖より授かった荒ぶる血と、(たゆ)まぬ鍛練により気が付けば王国最強の騎士等と呼ばれる様になった……。そんな私に言い寄ってくるのは陛下への取り次ぎを期待した下らぬ馬鹿男か、ちょっと小突けば腰を抜かす軟弱者ばかり……。

 何より私の素顔を見れば言い寄ってくる男共は興味を無くすだろう。そんな男等此方から願い下げだが。とにかくそんな訳で元より婚姻等、諦めていた……。

 しかし予言で(うた)われし白き勇者……彼の者の強さが本物であるならば……是非に会って仕合うて見たい。そして私より強い男なれば……私はその男を夫に迎えたいと思うのだ……』



 そう言い切るマリアベルの言葉より、彼女が意外に本気である事を察したソーニャは肩を落として溜息を付き呟いた。


 「ハァ……マリアベルお姉さまが、その気なら……私は何も言えません……」


 『まぁ、そう腐るな。ソーニャ……所でそのレナンと婚約したという義理の姉ティアについて……お前は良く知っている、という事だったな?』


 「良く知ってると言うか……王都の学園の同学年、と言うだけの存在です」


 マリアベルの問いに半ば投げやりに答えるソーニャだったが、マリアベルは問うた。


 『その少女は学園ではどう過ごしてる?』


 「……そうですね……一言で言うなら、頭が軽く軽率な五月蠅(うるさ)いだけの残念な御令嬢ですわ。口を開けば……王国(おうこく)(いち)の騎士や特級冒険者になる等、実力の伴わない事を語る大言壮語のお馬鹿さんです」


 ティアに対する印象を辛辣(しんらつ)に語るソーニャに対し苦笑しながらマリアベルは答える。


 『ククク……全然一言では無いな……だが……その令嬢には酷な事を私達は強いる事になるだろう』


 「……どういう事ですか?」


 『私が調べた限り……ティアと言う少女は幼い時から(くだん)のレナンを連れ回していたらしい……。彼との婚約も彼女自身が言いだしたとの事だ……私達がしようとしている事は、そのティア嬢から大切な者を奪う事になる』


 静かに事実を語るマリアベルに対し、ソーニャは暗い目をして呟いた。


 「……あのお馬鹿さんにはいい薬になりますわ……自らの立ち位置が虚ろで、大切な者など簡単に去る事を、いい加減知るべきでしょう。……そして……この世界が如何に残酷で理不尽か、という事も……。」


 『……ソーニャ……』


 「とにかく……ティア嬢とレナンの婚約については私が手を打ちますわ……婚約済の二人を無理に引き裂けば、流石に外聞が悪く王城への非難も起きましょう。

 不本意では有りますが……お姉さまが本気で白き勇者との婚姻を考えておいでなら、その下準備を行うのは私の役目……どうかお任せ下さい」


 静かに話すソーニャの瞳に影を感じたマリアベルは釘を刺す。


 『余り酷い事をするなよ、ソーニャ……』


 「あら、お姉さま。私は何も致しません……私はただ“(ささや)く”だけ……踊るかどうかは本人達次第ですわ」



 忠告した姉に対し、暗い瞳で淡々と語るソーニャだったが……この数年後、レナンとティアを引き裂いた事を心底後悔する事になろうとは、この時彼女は夢にも思わなかった。


 そしてその時……ソーニャ自身が、この世界が如何に残酷で理不尽かを、再び思い知る事になる事のであった……。

 


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話投稿は明日の予定です。宜しくお願いします!


読者の皆様から頂く感想やブクマと評価が更新と継続のモチベーションに繋がりますのでもし読んで面白いと思って頂いたのなら、何卒宜しくお願い申し上げます! 精一杯頑張りますので今後とも宜しくお願いします!


追)一部無直しました!

追)一部見直しました!

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