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235)茨へと進む乙女

 「ふは! ははは! 何とも健気な事よの! レナンを超えて見せると言うか! そなたの戯言、意表を突かれたわ! 良かろう、そなたがレナンを超えた暁には……彼の者のアルテリアへ返すと約束しようぞ」




 国王カリウスはティアの“レナンより強くなる”と言う言葉を聞いて、思わず笑ってしまった。



 “そんな事が出来る筈は無い”とカリウスは分り切っていたので、ティアの荒唐無稽な問いに対し、軽い感じで合意したのだ。




 しかし……ティアは本気だった。




 国王カリウスがレナンを縛るのは彼の恐るべき力を手元に置く為だ。


 ティアがレナンより強くなれば、国王の興味は彼から自分へ移るだろう。そう考えての言葉だった。



 レナンがティアにしてくれた様に、今度は自分が彼の身代わりになれば良いと思ったのだ。



 この事はティアがレナンを取り戻すと決めた当時から口にしていた事で……その度、周りに居た者達に諌められた。



 友人のバルドやミミリだけで無く、臣下のライラまで強く止めた。



 そればかりか師匠となったクマリに関しては、出会った頃“レナンやマリアベルより強くなる”と言った事で本気で痛め付けられたのだ。




 確かに今のティアは強くなった。秘石の力を借りているとは言え、武闘大会でマリアベルとマトモに戦え合うぐらいに。



 しかし、レナンは……レナンだけは別次元だ。



 ティアは知る由も無かったがレナンの規格外の強さは、彼がヴリトと呼ばれる人とは異なる種族だからだ。従って人であるティアが彼より強く事等、最初から不可能だ。



 だが、ティアには関係無かった。無理難題はレナンを取り戻すと決めた時から分っていた事。



 今の彼女に取っては“出来る出来ない”が問題では無い。大事なのは“やるかやらないか”と言う事だけだ。


 だとすればティアの選択は最初から決まっている。レナンを取り戻す為に最善を尽くして行動するだけだ。




 対して“レナンより強くなる事は絶対に不可能”そう、分り切っている国王カリウスはティアの願いを聞いて笑い飛ばして、軽く了承した。


 絶対に出来ない事をティアは国王に願った。だから本気にする必要も無いと考えての事だ。




 「確かにそなたの願い聞き届けた、ティアよ。そなたがレナンより強くなる事……心待ちにしておるぞ? ククク……では、下がって良い」


 「……はっ」




 カリウスは小馬鹿にした様に鼻で笑った後、犬を追い払うかのようにティアに下がる様指示すると、ティアは形だけの礼を行い玉座の間から出ようと歩き出す。



 彼女の内心は、この玉座の間に居る者達へ怒りと悔しさで一杯だったが……唯一人自分を庇ってくれたレナンの事を想い、何も言わず立ち去るしかなかった。



 立ち去る時、一目だけレナンを見ると……彼もまた、ティアを案じ心から心配そうな表情で真っ直ぐ見つめ返す。



 そんな彼に今すぐ抱き締めたかったが、グッと堪えてティアは重い足取りで玉座の間から出た。





 ティアが去り……何とも言えない気まずい空気の中、カリウスは他人事の様に呟く。



 「……レナンより強くなる等、馬鹿げた夢見がちの田舎娘であったが……重ねて功を成したのも事実……武闘大会でマリアベルと引き分ける事も成しえた。本人が辞退したとは言え、余が褒美を与えんと為ると……他の者への示しが付かんな。ふむ……ならば……予てから考えておったアルテリア伯爵家の陞爵(しょうしゃく)を持って褒美とするか……。その方等、異論はあるまいな」


 「ぎょ、御意に御座います」「……御心のままに」



 国王カリウスは軽い調子でレナンとティアの実家であるアルテリア伯爵家の陞爵を決め……周りの側近達に同意を求める。


 カリウスの怒りを目の当たりにした側近達は、以前とは異なり……異を唱える事も無く国王の言葉に従った。



 「ならば、その様に取り計らえ。レナン、その方と姉のティアの功績を持って……アルテリア伯爵家の陞爵させようぞ。喜ぶが良い」


 「……有り難き、幸せ……」 



 国王カリウスはレナンに向かい、尊大に言い放つ。カリウスとしてはアルテリア伯爵家の陞爵は以前より考えていたが……恩を被せレナンを縛り付ける為に、このタイミングで指示を出した。



 レナンは国王カリウスの真意が分っていたが、頭を垂れて礼を言う。一見真摯な態度だったが……喜ぶべき名誉な事である筈にも関わらず、彼の心は上の空だった。



 何故なら悔しさを滲ませて足を引き摺る様にして、玉座の間から出たティアの姿が脳裏に焼き付いていたからだ。



 そんなレナンの様子を、マリアベルは複雑な心境で見つめるのであった。




   ◇   ◇   ◇




 国王カリウスとの謁見を終えたティアは重い足取りで回廊を歩む。



 そんな彼女に大声で呼び止める者が居た。



 「ティア! ちょ、ちょっと待って!」


 ティアに声を掛けたのはソーニャだった。



 沈着冷静な彼女には珍しく息を切らしている。どうやらティアを追って回廊を走って来た様だ。




 そんなソーニャに対しティアは……。




 「……何の用?」



 底抜けに明るいティアとは思えない様な冷たい声で、ソーニャに問う。



 「あ、貴女……これから、どうする心算なの?」


 「……あの場で言った通りよ。レナンを取り戻す為、死力を尽くすだけ」


 「でも! あんな事出来る訳無いでしょう! レナンお兄様より強くなるなんて!」


 「アンタには関係無いわ。敵であるアンタにはね」


 「…………」



 ソーニャに迫られたティアは、冷淡な口調で言い放つ。そんなティアの様子に流石のソーニャも言葉が出なかった。



 「アンタやマリアベルだけが悪い訳じゃ無い事は分ってる……。でもね、私にとってはアンタ達は皆、同じよ。今日の事ではっきり分った……。どいつもこいつも、レナンを奪って行った連中である事に変わりは無いわ! 色んな事が有って……ちょっとアンタ達と仲良くなった所だけど……もう、私には話し掛けないで」



 ティアは言うだけ言うと、固まっているソーニャを置いて歩き去る。



 対してソーニャは、そんなティアの後姿を……黙って見つめる事しか出来なかった。



 こうしてティアは孤独な戦いへと挑む事になる。


 

 そんな彼女には底抜けに明るく無邪気な残念令嬢の面影は……もはや何処にも無かった。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は2/14(日)投稿予定です、宜しくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、御作を読みました。  ティアちゃん達、一気に亀裂が入ったなあ。  ソーニャは負い目があるから追い縋れないし。  いえ、元はといえば最初にやらかしたのはティアちゃんですが、それで…
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