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232)ハイエナ退場

 上半身を切断され、地に落ちて行くツェツェン……。



 「ツェ、ツェツェン様ー!! あああ、何てことだ!」



 その哀れな姿を見たフェルディは、自らの後ろ盾が居なくなった事に絶望し大声で叫ぶ。


 そんなフェルディだったが、彼自身にも危機が迫っていた。



 主であるツェツェンを失ったギガントホークが、制御不能となり……自らの脚に掴まっているフェルディを振り落とそうと暴れ出したのだ。


 

 「う、うわぁ! おお、落ちる!?」


 暴れるギガントホークの脚に必死にしがみ付くフェルディだったが、更なる危機が背後から迫っている事に気が付き凍り付く。


 遥か後方から追い付いてきたギガントホークが、振り落とされそうなフェルディに狙いを定める様にぴったりと追尾する。



 そのギガントホークの背には銀髪の少年、レナンが乗っている。




 「あいつ……次の狙いは僕なのか!?」


 フェルディはその少年を見て忌々しそうに叫ぶ。レナンの力はフェルディの目にも焼き付いている。


 マリアベル達を圧倒したツェツェンさえ……レナンの前では無力で、形振り構わず逃げたにも関わらず……枝を切るかの如く、体をちょん切られて絶命した。



 ツェツェンを殺した、その光の刃は山脈の森を延々と長く削り取る程の威力だ。



 そんな力を放つレナンに、ギガントホークにしがみ付くだけのフェルディは如何する事も出来ない……狩られるだけの存在だった。


 しかしレナンはフェルディに攻撃せず、ギガントホークで近付いて来る。恐らくは生け捕りする考えなのだろう。



 「つ、捕まってたまるか! 捕まったら、もう一度……あの地獄に! それだけは! それだけは絶対に嫌だ!」



 ギガントホークにしがみ付いたままフェルディは叫ぶ。彼の中では地下牢で味わった仕打ちを絶対に味わいたく無かった。


 “絶対に掴まる訳に行かない!”その考えしか無いフェルディは近付いて来るレナンに対し、大声で罵声する。



 「こ、こっちに来るな! ロデリアの犬め! 死ね!」



 完全に冷静さを欠いているフェルディは大きな声で罵声を続け、遂には腰に掛けていた剣を投付ける。


 追い詰められたこの状況で、悪足掻きするだけ無駄と言う事が、この男には分っていない様だ。



 ツェツェン同様に先制攻撃を仕掛けたフェルディに対し“降伏する気無し”と理解したレナンは、ギガントホークに跨りながら右手を彼に向け差し出した。


 すると……フェルディの光の輪が生み出された。この光の輪はロックリノの頭蓋を貫いた光の矢を生み出す魔法だ。



 (な、何だコレは!? 何か分らないけど……コレは絶対に拙い!!)



 自らの背後に現れた光の輪に、強烈な脅威を感じたフェルディは……光の輪から逃れようとギガントホークの背によじ登ろうとした。



 “キシャアア!”


 ツェツェンの制御から離れているギガントホークは、自分の体に纏わりつくフェルディと言う異物が我慢出来なくなり、ムチャクチャに暴れた。


 

 その結果……。



 「あぁ!? うわああああぁ!!」


 暴れるギガントホークから振り落とされ……フェルディは地上に落下する。そして、そのまま森の中に姿を消した。


 フェルディを振り落としたギガントホークは、狂った様に暴れながらも……本能の成せる術か、故郷のギナル皇国へ向けて飛んで行った。



 一人となったレナンは、操るギガントホークで旋回しながら、フェルディが落ちた森の方を見て呟く。



 「……落ちて……しまったか……」


 振り落とされて深い森の中に落ちたフェルディを見て、レナンは小さく呟き……異形の右手を眼下の森に向ける。



 “キイイイイン!”



 異形の右手は真白く輝き、光を溜める。レナンは落ちたフェルディを右手の力で森一帯と共に消滅させようと考えたのだ。


 彼はティアやソーニャを傷付けた、フェルディを許す心算は無かった。だからこそ毛髪一本すら残さず吹き飛ばして、完全に滅ぼうそうと考えたのだが……。



 「この高度から落ちれば生きてる筈も無い……。森の中に……誰か居ないとも分らないのに、破壊するのは流石に拙いか……」



 怒りと憎しみで我を忘れ、大規模破壊を行なおうとした自分に、レナンは戒める様に呟いて……ロデリア王国の方へ針路を取り、飛ぶのであった……。


 ◇◇◇


 一方、森の中に落ちたフェルディだったが……。


 「……い、生きてる……。お、おお俺は! 生きてるぞ! ハハハ! う、うっぎぃ! ひぃ、ひぃ……いい痛い!」

 

 深い森に聳え立つ、高い木の枝に引っ掛りながら、フェルディは歓喜と痛みで……叫び声と悲鳴を上げる。


 ギガントホークから振り落とされたフェルディは、運よく木の枝がクッション代わりとなって衝撃を吸収し、何とか一命を取り留めた様だ。


 だが、流石に無傷とは行かず……腕はおかしな方向を向いて折れ曲がり、体中傷だらけだった。


 「ふぅ、ふぅ……、い、いい痛い、痛すぎる!! ふぐぐ……。ひ、ひひぃ……ひひ、ひひひ! あははは!!」


 激しい痛みに苦しみながら苦悶していたフェルディだったが、突如笑い出した。


 「ひ、ひぎ……! ひぃひひ……。お、俺は生きている! 生きているんだ! こ、今度こそ、自由だ!」


 死に掛けたフェルディは、自分が生き残った事に歓喜し叫んだ。


 (ツェツェンって野郎は、可愛そうだったが! 俺は助かった! あの化け物野郎から逃げ出せたんだ! あんな化け物が居る故郷には戻らねェ! 今の所はな……! 先ずは、生きて……生き延びて……機会を待つ! そして力を溜めて……必ず、あのソーニャって女に復讐してやる!)


 歓喜の叫びの中、フェルディは醜い顏を愉悦で歪ませながら……強い復讐心を滾らせる。それは自分を陥れ地獄へ突き落した、ソーニャに対してだった。


 こうしてフェルディと言う醜く最低なハイエナが、鎖にも繋がれず世に放たれる事になったのであった。


いつも読んで頂き有難う御座います、次話は1/24投稿予定です、宜しくお願いします!


追)段落を見直しました!

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