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231)蟲毒の終焉

 

 「……レナンに……従った……?」

 


 レナンの前に跪いたギガントホークを見てティアは驚いた声を上げる。



 「ダイオウヤイトの時も……ギナル兵達は魔獣を操っていた。理屈は分らないけど……そこには操る方の意志が在ったと思うんだ。だから……右手を介して意志を送れば……何となく……出来るかなって思って……」

 


 ティアの驚く声にレナンは、何かを思い出す様に呟いた。レナンは知らなかったが……操られる魔獣の体には“受信機”となる特殊なリングが埋め込まれていた。


 そしてツェツェン達ギナル兵は対となるリングを持っており、これに指示を念じれば手足の如く操る事が出来た。



 もっともレナンと同じ種族である白き神と呼ばれた存在は、対となるリングを使わなくとも、強力な想念により魔獣を操る事が出来た。



 レナンが感覚でやって見せた、ギガントホークの掌握も、レナンが白き神と同じ種族……“ヴリト”である為に難なく出来た事だ。




 レナンは優しげに操っているギガントホークを撫でてやると……恐ろしい羽の魔獣は借りて来た猫の様に目を細め気持ち良さそうにしている。




 「……行けるのか、レナン……」


 「ああ、この魔獣は……僕が支配している……だから、大丈夫だ」



 静かに問うマリアベルに、レナンは確信に満ちた声で答える。そして頭を垂れたギガントホークの背に乗った。



 「僕は奴らを追う。ティア達は戻って傷を癒してくれ。悪いけどバルド、後は頼んだ!」

 「任しとけよ、相棒!」


 ギガントホークに跨ったまま、レナンは地上に居るティアやマリアベル達を見渡し告げた後……頼れる親友のバルドに声を掛け、対するバルドは力強く答える。


 「済まない、さぁ行くぞ!」


 “キシャアア!”




 レナンの声に応じ、ギガントホークは大きな翼を羽ばたかせ、空へ舞う。レナンを乗せたギガントホークはあっと言う間に遠くへと飛び去った。




 「……奴等を蹴散らすだけでは無く……魔獣まで操るとは……相変わらず底が知れん男だ」


 「ええ……ですが、あのツェツェンという男が言っていた“白き神”とは……一体何なのでしょうか?」



 規格外の能力を見せつけるレナンに、マリアベルは感心しつつ呆れた声を漏らす。


 そんな彼女にソーニャはツェツェン達が言っていた“白き神”と言う言葉が気になり、マリアベルに問い返した。



 「クマリ……お前は何か知っている様だな?」


 「まぁねー。ギナルではキチガイみたいに崇められてるけど……その実態は、最悪最凶のクソ神さ……。そいつらの所為でギナル皇国の民は何万人も殺されている……。それも気分次第でね。このロデリア王国の侵攻も……その“白き神”って奴が指示したって話だよ。だからこそギナルの連中は損得も見返りも無しに気が狂った様にこの王国に攻め入るんだろう? もっともギナル皇国の連中も……魔獣と一緒で操られてんのかも知んないけど」


 「その神が元凶と言う訳か……」



 問いに答えたクマリの言葉にマリアベルは頷き呟くが、二人の会話を聞いていたティアは、自分に言い聞かせる様にキッパリと言い切った。


 「……白き神か、何だか知らないけど……。そんなのレナンと何の関係も無いわ! どんなに強くても……不思議な力を使えても……レナンはレナンよ!」


 「そうだな……お前の言う通り。レナンはレナンだ……。ギナルに居る奴らとは関係無い」



 マリアベルはティアの声に素直に納得し……レナンが飛び去った方を見ながら呟く。



 「……後は頼んだぞ、レナン……」





  ◇   ◇   ◇




 一方、ギガントホークに乗ってギナル皇国へ向かうツェツェン。前方には故郷への目印となる山脈が並んでいる。


 ギナル皇国へ飛んで帰るには、山を避け谷を抜けて飛ばねばならない。



 谷への経路へ方向を変えながら、ツェツェンは此処までくれば流石に大丈夫だろうと、漸く逃げられた事に安堵しながら呟く。



 「……何とか……逃げる事が出来ましたか……。国王を殺すと言う任務は失敗に終わりましたが、隠し財産を回収する事が出来ましたので30点と言う所でしょう……。要らぬお土産が付いてきましたが……」



 そう言ってツェツェンは魔獣の足にしがみ付いているフェルディを忌々しそうに見る。



 「……彼では、散ってしまった仲間の代わりには為らないでしょうが……精々役に立って貰いましょう……」



 そんな風にツェツェンが呟いた後、ふっと後方を見ると黒い小さな点が見えた。



 「何だアレは……?」



 彼が背後に見える小さな点を凝視していると、それはどんどんと大きくなり……ある見覚えのある形を見せた。



 それはギガントホークだ。



 「……あれはギガントホーク……帰巣本能で戻っているのか? うん? 誰か背に乗っている? まさか……!?」



 徐々に近づくギガントホークを見ていたツェツェンは、その背に乗っている者を見て驚愕する。


 ギガントホークに乗っているのは、銀髪に白い肌を持つ少年……レナンである。ツェツェンの戦闘力を持っても、全く敵わなかった恐るべき白き神だ。



 「馬鹿な! なぜ彼がギガントホークに! と、とにかく逃げるしかない!」



 此処に来てまさかレナンの姿を見ると思っていなかったツェツェンは、大慌てで遠ざかるべく操るギガントホークに指示を送った。


 それによりツェツェンの逃げる速度はぐんと上がったが、レナンが操るギガントホークはどんどんと距離を縮める。



 「くっ! ならば、此れです!」


 ツェツェンはグングンと追い上げてくるレナンに攻撃を仕掛ける。


 ツェツェンの乗るギガントホークは山脈に近付き、眼下には深い森が広がっていた。隠れる様な場所も無く、ツェツェンは迎え撃つしかないと判断したのだ。


 だが、狙うのはレナン本人では無い。彼に自分の攻撃が効かない事を理解しているツェツェンは移動手段であるギガントホークに向け、発火能力を発動させる。



 “ボウ!” 


 “キシャアア!”


 狙い通り、レナンが操るギガントホークの体に小さい炎が纏わり付き、熱さで戸惑った魔獣はバランスを崩して速度が大幅に落ちた。



 「成功です! 今の内に脱出を……」



 自らの策が成功し、珍しく興奮して叫んだツェツェンだったが……動きが乱れたギガントホークの背に……レナンが自分に向け右手を差し出して立っているのを確かに見た。



 “ヤバい!!”


 本能的に危険を感じたツェツェンはレナンから離脱しようとしたが……。



 “キュン!!”



 甲高い音と共に、レナンの右腕が眩い光に包まれ、真白い光を放った。



 その光は刃の形となり、音よりも早くツェツェンを通り抜け……山脈に広がる森へ命中する。そして鬱蒼とした森の木々を彫刻刀で抉るかの如く延々と削り取った。




 「……ハハハ……神の力……凄すぎ……」



 ツェツェンは光の刃が削った山脈の森を見ながら、呟いたが……それ以上言葉が続かなかった。レナンが放った光の刃は、先にツェツェンの体を貫いていたからだ。



 ツェツェンは口から血を吐き崩れ落ちる。だが……崩れ落ちたのは彼の上半身だけだった。胴から下は今だギガントホークに跨っている。



 (バラバラになって……死に至るとは……蟲の様だ……蟲毒から生まれた……僕に相応しい……最後……)



 ツェツェンは臓物と血を垂れ流す己が下半身を見て……自らの死に様を皮肉りながら、地に向かって真っ逆さまに落下したのであった。


 蟲毒の闇から生まれた最悪最凶の男の……哀れで無様な最期だった。


いつも読んでいただき有難うございます! 次話は1/17日 投稿予定です、よろしくお願いします!

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