230)白き神
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ツェツェンが眼前の異様に驚き呟いた時だった。豪炎の中から異形の白い手がぬっと差し出される。
それを見たツェツェンは死を予感し、前方に居た仲間である商人風の男をグイッと引き寄せ自分の体と入れ替わった。
炎の中から突き出された異形の白い手は、グッと握り締める仕草を見せた。すると……。
“バキバキィ!”
「ううぐぅええ!!」
ツェツェンの仲間である商人風の男が……突如、苦悶の叫び声をあげながら倒れる。
鋼の様な肉体を持っていたその男は、ぞうきんを絞るかのように体をひしゃげさせ……穴と言う穴から大量に血を流して、絶命していたのだ。
余りの死に様に、敵である筈のティアやソーニャ達も青い顏をして絶句している。
ツェツェンが商人風の男と入れ替わって無ければ、死んでいたのは彼の方だった筈だ。
蠱毒の儀を浴びる程、繰り返した結果……ツェツェンという男には人間らしい情や感傷は全く残っていない。
自分が助かる為に長年連れ添った仲間を切り捨てる事等、何の躊躇いも無く出来た事だった。
ツェツェンは死んだ仲間を何の感傷も無く、見つめた後……炎に包まれたレナンの方を向くと、彼を焼いていた炎が消えた。
爆炎が消え去り現れたレナンは全くの無傷だ。良く見れば彼の体は白く光っており、その光が障壁となって爆炎を防いだのであろう。
ぞうきんを絞るが如く無残な死に方を見せた商人風の男を見て……ツェツェンの仲間が恐怖で暴走する。
「お、大人しくしろ! この女がどうな……」
彼は近くに居たティアに刃をかざして恫喝しようとしたが、その目論みは叶わなかった。
男が叫びながらナイフをかざそうとした際……。
“ザシュ!”
嫌な音と共に、男は肩口から斜めに斬り裂かれて簡単に崩れ落ちた。恫喝されようとしたティアや、近くに居たマリアベル達が防ぐ一瞬の間も無い事だった。
ツェツェンがレナンを見ると、彼は白く光りを放つ異形の右手を斬り裂かれた仲間の方に向けていた。
何をしたのかツェツェンには全く見えなかった想像が、音よりも早い斬撃を仲間に放ったのだろうと予想した。
あっという間に死んだ自分の仲間達……。そればかりか逃走用のギガントホークも二羽が簡単に殺されている。
しかもツェツェンの攻撃は全く通用せず、レナンは息をするより簡単に自分を追いつめている。
ロデリア最強の黒騎士マリアベルをも倒したツェツェンの力は、白き神であるレナンには何の意味も無かった。
「……与えられた力も……煉獄の中で手にした技も……白き神の前では無意味か……。所詮、僕も……唯の人間って事だね……。それを知っていたから、祖国の神は僕に力を与えたのか……使い易い道具として……。だけど、このままでは終われない……!」
ツェツェンは悔しそうに呟いた後……自身の足元に黒い粉を撒いた。そして……。
“バガン!”
ツェツェンが撒いた黒い粉は火薬だ。彼はそれを自身の周りに巻き、発火能力で爆発させた。
爆音と共にもうもうと土煙が上がり、ツェツェンの体を包む。
「じ、自爆したのか!?」
その様子を見たバルドが驚いた声を上げたが、そんな中……予想外の事が起こった。
ギガントホークの一羽が突然、土煙の中に飛び込んだのだ。そして大きな羽を羽ばたかせると土煙は吹き飛ばされ……ギガントホークに跨るツェツェンがそこに居た。
「ツェツェン様!」
ギガントホークに乗るツェツェンを見たフェルディが彼を見て叫ぶ。先程この男はレナンの右手で薙ぎ払われ吹き飛ばされたが、どうやら復活した様だ。
ツェツェンはフェルディの叫びに無視して、空へ逃げようとギガントホークの羽を大きく広げた。
ギガントホークが今まさに飛び立とうとした時、フェルディは脱兎の如く駆け寄り……ギガントホークの足にしがみ付いた。
そしてギガントホークに乗ったツェツェンはフェルディと共に大空へ逃げ去ってしまった。
「ああ! 逃げちゃったよ! レナン、何で放って置くの!?」
「……あんな連中より、皆の安全の方が大事だ。ティア、怪我はもう大丈夫か?」
飛び去ったツェツェンを見てティアが、レナンに大声で問うが……対する彼はティアの身を案じながらツェツェンの事はどうでもいい様に答えた。
しかし、レナンの力により癒されたマリアベルは彼の考えに異を唱える。
「レナン……奴を逃せば、別な場所で罪を繰り返すだろう。奴だけでは無い、共に逃げたフェルディと言う男も同じだ。そいつがどんな男か、お前も此処で知った筈だ」
「…………」
マリアベルの言葉を受けたレナンは、黙って彼女の意見を聞いていたが……ぐるっとティアやソーニャやパメラ達を見渡して呟いた。
「……確かに……このまま、見過ごす訳にはいかないね」
レナンは犯され、殺されそうになった彼女達を見回し、逃げたツェツェン達を始末する事を決めた。
だが……すでに彼らはギガントホークで高い空の上へと逃げ去った後だ。
「でも、レナン君……彼らは、既に空へと逃げ去りましたが……」
どこか他人事の様に呟いたレナンに対し、白騎士隊のリースが現状を伝える。
「そうですね、リースさん。彼らはこの魔獣を使って逃げた……。ギナル皇国の者達は、どうやら魔獣を操る事が出来るみたいです。ツェツェンと呼ばれた男も含めて……」
リースに答えたレナンだったが、どうもその言葉は緊迫感が無い。
何故なら彼は、一羽残ったギガントホークの首を優しげに撫でながら話しているからだ。
そして恐ろしい筈の魔獣も、何故かレナンに抗わず大人しく従っている。何処か、心此処に非ずと言った様子のレナンにティアが静かに問う。
「……だったら、どうするの? レナン?」
「彼らが……出来た事なら……多分、僕にも同じ事が出来る筈……」
そう言ったレナンは異形の右手を白く輝かせる。右手は甲高い音を立てて眩い光は放った。
“キイイイン!”
「……我が意に従え、羽を持つ獣よ……」
右手を光らせ、そう呟いたレナンに対し、ギガントホークは……ズズンと音を立て蹲り、レナンに頭を下げるのだった。
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