229)驚愕
突如現出した圧倒的な破壊を前に、言葉を失う一同。彼らはレナンが現れる前は命懸けの攻防を行っていたが、余りの状況に押し黙るしか無かった。
そんな中、レナンはティアから離れ……組み伏せられているソーニャの元へ歩を進める。
レナンが進む中……ソーニャの周りに集まっていた囚人達は、歩むレナンを恐れて後ずさりして、彼に道を譲った。
暴虐を行って来た囚人達にも……目の前の白い少年には絶対敵わない事が流石に分ったのだろう。
しかし、愚かなこの男は違った様で……大声を上げてレナンを止める。
「き、貴様! だだだ誰だよ! 何様だ!?」
レナンの前に立ち塞がったのはフェルディだ。彼は剣を手にレナンに向け叫ぶ。
「……彼は?」
「コイツはフェルディ……史上最低最悪の男よ……」
「そうか……この男が……」
行く手を阻むフェルディを前に、レナンはティアに問うと……ティアは心底嫌悪した様子で呟く。
対してレナンは、フェルディがティアを酷く傷付けた男だと理解すると、冷酷な眼差しで睨む。
「お、お前達、怯まずやってしまえ!」
睨まれたフェルディは激しく恐怖を感じ、囚人達に指示するが……怯えて誰も動かない。
「……邪魔だ」
「ぶぎゃ!!」
レナンはオロオロと狼狽し立ち塞がるフェルディに、軽く右手で薙ぎ払う。
薙ぎ払われたフェルディはみっともない悲鳴を上げ……後ろに控えていた囚人達と纏めて、地面に叩きつけられた。
レナンは軽く右手で払っただけだったが、3人程の男が吹き飛ばされた。
直接地面に叩きつけられた囚人は衝撃で気を失っているのかピクリとも動かない。フェルディは囚人達に埋もれながら痛みに悶えていた。
レナンはそんなフェルディ達を見ようともせず、ソーニャの元へ進む。彼女を押さえ付けていた囚人達は、近付くレナンを恐れ、我先にと飛び退いた。
仰向けに横たわったソーニャの傍らにレナンは寄り……凌辱されそうだった恐怖の中、気丈にも抵抗したソーニャの手をそっと握った。
「……レ、レナンお兄様……私……」
「良く頑張ったね……大丈夫、今すぐ……全員助けるから」
ソーニャにそう囁いたレナンは、スクッと立ち……右手をあげ叫ぶ。
「……癒されよ……!」
“キイイイイン!!”
レナンが叫ぶと右手から白い光が広がり……周囲を照らした。すると……攻撃を受けて倒れていたマリアベルやクマリ達が癒されたのだった。
「こ、これは……レナンの力か……」
「レナン君、助かったよー!」
レナンの光で癒されたマリアベルとクマリは立ち上がって声を上げる。もう完全に復活した様だ。
マリアベルやクマリだけでなく、ライラやバルド達、そして白騎士のベリンダも元気になっている。
駆け付けたレナンによりティアの仲間達は全員復活し、形勢は逆転した様だ。
「……お、おい、ツェツェン……。奴、いや彼は……まさか……?」
「ええ、そのまさかですよ……。彼は白き神が一人です……多分ね」
レナンの力を目の当たりにしたツェツェンの仲間は狼狽えながら、彼に問うが……当のツェツェンは、他人事の様に答える。
「お前!? 彼の存在を知っていたのか!?」
「……ギガントホークの襲撃を阻止したのは彼だ……。襲撃により、ロデリア王の傍から離れない、と踏んで黙っていたのですが……予想とは違ったようです。王以上に、彼女達の方が大切だった様ですね。いやー失敗、失敗」
慌てる仲間を他所に、ツェツェンは平然と言い放つ。そんな中、復活したマリアベルが彼らに迫った。
「……レナンが来た以上……もはや、戦況は覆らない。降伏しろ」
大剣を向けツェツェンとその仲間に言うマリアベル。白騎士のベリンダやクマリやライラ達も臨戦態勢で刃を彼らに向けた。
全員を癒して助けたレナン自身も剣を構え、ツェツェンの方へ向ける。
「確かに……神様相手に勝てる気がしません。ですが……逆に言えば、その御方さえ何とかすれば僕の勝ちです!」
復活したマリアベル達に囲まれたツェツェンだったが、動じずにレナンに迫った。レナンもツェツェンの前に歩み出て彼と一人対峙する
彼はレナンに向け、自身の発火能力で火を放った。途端に火に包まれるレナン。
「レ、レナン!」
「「「レナン!」」」
突如火に包まれたレナンを見てティアとマリアベル達は叫んだ。しかし、燃えているレナン自身は全く動じなかった。そして……。
「……これが、何?」
レナンを燃やしていた火は自然に収まり、焦げた衣服から白い肌を見せたレナンは鬱陶しそうにツェツェンに向け呟く。
ツェツェンの発火能力ではレナンの肉体には何のダメージも与えないようだ。
「くっ! ならば、これだ!」
「ツェツェン、貴様! 不敬だぞ!」
ツェツェンの仲間も制止するが、彼は無視して手持ちの黒塗りの短剣を全数レナンに向け投げた。
レナンは投げられた短剣は全て彼の足元に突き刺さった。ツェツェンが敢えて狙った様だ。そして……短剣に仕込まれた火薬が一斉に炸裂した。
“ドドン!!”
複数の短剣が爆発し、地響きと共にレナンは爆炎に包まれる。
ツェツェンは次いで間髪入れず、黒い球状の爆薬も爆炎の中へ大量に投入し、自分は爆発に巻き込まれない為、後ろに下がって距離を取った。
“ドガガガン!!”
自身が持つ全ての爆薬を、レナンを殺す為だけに使ったのだ。
「これだけの爆発なら、流石に死ぬだろう。……うん? 何かおかしい……」
ツェツェンが豪炎に包まれたレナンを見て違和感を感じた。アレだけの爆薬を投入したにも関わらず、爆発の衝撃波と炎は広がらずレナンの周囲だけに留まっている。
ツェツェンは自分以外の人間が、例え自分の仲間であっても放り込んだ爆薬で吹き飛ばされても構わない心算で全ての爆薬を使った。
にも拘らず爆発の影響は明らかに予想より小さすぎたのだ。よく見れば、レナンを取囲む様に白い光の壁が展開され、その中で爆炎は収まっている。
恐らくレナンが持つ異能の力で、爆発の威力を抑え込んだのだろう。
「……そんな、馬鹿な……」
ツェツェンは予想を超えたレナンの力に戸惑い、小さく呟くのだった。
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