227)希望を信じて
「く! 此処まで来て!」
ツェツェンの叫びと共に舞い降りた4羽のギガントホーク。しかも、その内2羽の背にはツェツェンの仲間が乗っていた。
予想外の増援にティアが悔しそうに歯噛みしながら叫ぶ。
「……一体何を遊んでいる、ツェツェン。待たされたかと思えば、急に魔獣ごと呼び出すとは。道楽が過ぎるぞ?」
「いやー、確かに遊び過ぎちゃって……思いの外、粘られてねー。でも別に君達は呼んでないよ?」
降り立ったギガントホークの背から降りた男達の内、商人風の服を着た男がツェツェンに問うた。
対してツェツェンは面倒臭そうに答える。
「馬鹿言え、俺達は教会の裏側でお前が来るのを、まだかと待っていたんだ。そこへギガントホークが飛び立とうとしたから慌てて飛び乗ったのさ。他の連中は本国に向け先に行ったぞ?」
「……ここは待っててくれて有難うって言う気持ちになるべきでしょうけど……生憎、僕にはそんな感情は有りませんのでね」
「構わんさ、お前にそんな返しは求めていない。それより……そこに倒れているのは黒騎士か……白騎士も、冒険者共も居るな。残っているのは小娘達だけ……どうやら詰めの様だが……そいつら相手にギガントホークを持ち出したのか?」
「いい加減しぶといので面倒臭くなりまして……、叩き潰してから始末しようと思いまして……」
商人風の男の問いにツェツェンが答えた時だった。教会の方から声が響く。
「……お待ち下さい、ツェツェン様! その女共を殺すと言うなら……どうか我々にお任せください!」
やけにテンション高い声に、一同が教会の方へ眼を向けると……ティアに殴り飛ばされ、のたうち回っていたフェルディが、囚人達を引き連れて現れた。
フェルディの鼻はティアに殴られた為か、赤く腫れ鼻血を流していた。バルド達によって縛られていた筈の囚人達も、フェルディに解かれたのか自由になっていた。
「おや、しぶとい事で……本当に君はゴキブリ並みにたくましいな! うん、面白いね! いいよ、彼女達は君に免じて差し上げよう……。但し、僕も少しムカついたから……捻り潰してからね!」
「ヒヒ! 有難うございます!」
無様な姿を晒しながらも嫌らしく笑いながら、媚びるフェルディを見てツェツェンは面白そうに答える。
ツェツェンだけでも厄介なのに、ギガントホークの群れとツェツェンの仲間達。
そしてフェルディと囚人達も加わり……ティアとソーニャ達だけでは圧倒的に不利だった。しかも、パメラ達戦えない者達も居る。
絶望的な状況の中……ティアは歯噛みしながらも諦めなかった。彼女には有る理由が有ったからだ。
「……ソーニャ……私がツェツェン達に突っ込むから……アンタはマリアベルと師匠を起こして。……きっと、何とかなるわ」
「!? 冗談じゃないわ! 貴女一人にそんな真似を!」
「単純に戦力の問題よ。アンタより、マリアベルとタメを張れる私の方が強いのは間違いないわ。それじゃ、お願いね!」
ティアはカバンから補給用の携行お菓子を、ボリボリと食べながら叫ぶソーニャに言うだけ言うとツェツェンに向け駆け出した。
「あ! ちょ、ちょっと待ちなさい! ええい、仕方ない! リース、私はお姉様達を! 貴女は彼女達を守って!」
「は、はい!」
単独で斬り込んで行ったティアをソーニャは制止したが、ティアは止らない。ソーニャは諦めてリースに指示を出し、自分もマリアベルの元へ駆け出した。
しかし……。
「……行かせねぇぜ、性悪女!!」
マリアベルの元に向かおうとしたソーニャの前にフェルディと囚人達が立ち塞がる。
「そこを退きなさい! 今は貴方になんか、用は無いわ!」
「そっちには無くても、こっちは大有りなんだよ! てめぇには死ぬまで俺のオモチャになって貰わねェとな! あのティアも、他の女もだ! キヒヒ、嬉しくてたまんねーぜ!!」
「誰が! お前のオモチャになど! 死んでもゴメンだわ!!」
「馬鹿が、こうなる事はすでに決定事項なんだよ! お前達、そのクソ女を取囲んで押さえ付けろ!!」
フェルディの言葉を全力で拒否したソーニャに対し、彼は周囲に居た囚人達に指示を出した。
囚人達はワラワラとソーニャを取囲み、あっという間に彼女を押さえ付ける。
「は、放しなさい! ちょっと止めて!」
「ソーニャ!? だ、大丈夫!?」
囚人達に押さえ付けられて叫ぶソーニャを見て、ツェツェンに相対していたティアは振り返って叫んだ。だが、その隙をツェツェンは見逃さない。
「……余所見をするとは随分と余裕ですね? でも、貴女も終わりですよ」
“ダン!”
ツェツェンは余所見をしたティアを蹴り飛ばして倒した。派手に音を立てて転んだティアにツェツェンはギガントホークによる追撃を指示する。
“キシャアア!”
「うぐ!!」
転んだティアに、ギガントホークは右足を乗せ踏みつける。ツェツェンの指示で加減してる様だが、全身の骨が砕けそうな痛みにティアは声を漏らす。
ソーニャは欲情した囚人達に押さえ付けられ動けそうにない。このままでは彼女は死より辛い目に遭わされるだろう。
リースとパメラ達の所にはギガントホークが囲む。リースが果敢に剣でパメラ達を守ろうとしているが、追い詰められている。
マリアベルもクマリも、そして他の仲間達もツェツェンの攻撃を受けて倒れたままだ。
最後に残るティアも……ギガントホークの足に踏まれ、一歩も動かない。
ティアが痛みに苦しみながら顏を上げると……ツェツェンと彼の仲間達が彼女を下らなそうに見下ろしていた。
「……み、皆を……あぐ! はぁはぁ……は、放しなさい……」
「本当に……無駄な時間を過ごさせて頂きましたね……。無意味な頑張りでしたが、その見返りとして、皆さんを生きたままフェルディ君に差し上げましょう……。彼に掛かれば、ちょっとずつ身体を切り刻まれて小さくなるでしょうが……暫くは死なないでしょう! 良かったですね!」
「ククク……良い趣味だな」
ティアは息も絶え絶えにツェツェンに言うが、彼は虫けらの見る様な目で突き放して嘲笑した。
ツェツェンの仲間も彼の言葉にくぐもった笑いを浮かべる。
もはや逆転は有り得ない。ティア達に待っているのは緩やかで残酷な地獄だろう。
明確な揺るぎ様も無い現実に……ティアは諦めなかった。
何故なら……彼が来るからだ。
(……もうすぐ、もうすぐ……アイツが来る! その為にも……頑張らないと……アイツは……レナンは……絶対に来てくれる!!)
ティアはレナンが助けに来てくれる事を確信していた。だからこそ……彼女は希望を捨てなかった。
レナンさえ来ればどんな絶望も希望に、真黒な世界から真っ白な世界に変えてくれる……そう知っているティアは、レナンを信じて諦めなかったのだ。
いつも読んで頂き有難う御座います! 今月は飛び飛びと成りますが次話は12/20(日)投稿予定です。宜しくお願いします!