226)窮鼠の一撃
ツェツェンの攻撃によって倒れたマリアベルとクマリ達……満足に立って戦えるのはティアとソーニャだけだった。
そこに撒かれた黒い火薬の粉……ツェツェンの発火能力で撒かれた範囲のどこでも爆発させる事が出来る。ティア達は極めて拙い状況に追い込まれたのだった。
「ソーニャ様!」
ツェツェンと対峙するティアとソーニャの下に教会の火を消していたリースが戻って来る。人質にされていたパメラと侍女のナタリアも共に来た様だ。
「……おやおや、人質も連れて来ましたか……。どうなっても知らないですよ?」
「よく言うわ……教会に火を放って殺そうとした癖に! アンタの仲間になったフェルディ達も哀れなものね!」
「いやー、別にフェルディ君は仲間でも何でも無いですよ? ただ、面白そうってだけで……。そもそも僕には仲間とか、そう言った概念が疎くてね……。誰が死のうが悲しくも何ともないんですよー。僕にとって大事なのは面白いかどうかです!」
「……何て奴……」
ツェツェンの人間性の欠片もない言葉に、ティアは恐怖と嫌悪感から吐き捨てる様に呟く。
「……教会をちょっと炙って戦力を分散させようと思いましたけど……火を消されちゃったら仕方ないですねー。……仕方ないから、人質ごと貴女達も爆発して貰いましょうか?」
「ソーニャ! パメラ達を下がらせて!」
「貴女に指図される迄も無いわ! リース、お願い!」
ソーニャの指示でリースは距離を取り、パメラ達を背後に下がらせた。
何としてもパメラ達を守り、倒れている仲間達を救わねばならない。そう決意したティアは何とか活路を見出すべく必死で考えた。
(……倒れている皆を回復させる間は無い。皆を連れて脱出させるにも森には、火が……。教会の火みたいに消せないか……雨でも降れば良いのに……。うん? そうか、雨か!)
妙案が浮かんだティアはソーニャに向け耳打ちする。
「ソーニャ……今からやって欲しい事が……」
「!? そんな事上手く行く筈が……でも仕方ない、打つ手は無いしね……」
「……何をゴチャゴチャ言ってるんですか?」
「アンタを倒す、相談よ!」
小さな声で話し合うティアとソーニャに向けて、小馬鹿にして問うツェツェンにティアは……右手の秘石を発動しながら剣で斬りかかる。
一方のソーニャはリースの元へ向かい、彼女に何か囁いてから手を差し出し詠唱を始めた。指示を受けたリースはパメラ達と共にソーニャから離れ、同じく詠唱を始める。
「成程……剣と魔法による二段攻撃ですか! 面白そうですね!」
「今に! 見てなさい!」
“キイイン!”
秘石を発動したティアは目にも見えない速度で、ツェツェンに連撃を与えるが……。ツェツェンには無駄だった。
紙一重で躱し、黒い剣でいなし……ティアの攻撃はカスリもしない。
秘石で強化された連撃を繰り出したティア。
「この、チョコマカと!」
「……秘石の力を使っても、その程度ですか……うんざりです」
彼女は攻撃を全て躱すツェツェンに悪態を付いたが、対するツェツェンは余裕で躱しながらつまらなそうに呟く。
“バン!”
すると……ティアの側面から小さな爆発が生じ、彼女は地面に叩きつけられる。
浮遊していた火薬をツェツェンが爆発させたのだ。
「う、うぐ!」
「アクラスの秘石を発動させた為か……存外に頑丈ですね。でも爆薬入りこの剣で突き刺して爆発させたら如何でしょう?」
地面に叩きつけられたティアの元に、いつの間にかツェツェンが忍び寄っていた。
「アンタって本当に悪趣味……でも、もう終わりよ……。ソーニャ、リースさん!!」
黒塗りの短剣を手に薄ら笑いしながら挑発するツェツェンに対し、ティアは軽蔑しながらも希望は捨てず、魔法を詠唱しているソーニャとリースに向け叫ぶ。
「「“源なる水よ 集いて全てを切り裂く白銀の刃となれ!”」」
ティアの叫びと同時に二人は中級氷魔法を同時に放った。
「……二人同時ですか? だから如何だって話……おや?」
放たれた魔法を見てツェツェンは下らなそうに吐き捨てかけたが……放たれた氷魔法の軌道を見て困惑した。
放たれた中級氷魔法は岩をも切断する巨大な氷の刃を生み出す魔法だ。ツェツェンは詠唱時間より上級魔法では無い事を認識しており、敢えてソーニャ達を見逃していた。
広範囲・高威力の上級魔法なら対応が面倒な為、放たれる前にソーニャ達を始末する心算だった。
しかし、違う方向から同時に放たれた中級氷魔法はツェツェンの真上上空へ向かったのだ。
自分を攻撃すると思われた魔法の狙いを外すとはツェツェンも予想外だった。
「……失敗して外れた? いや、最初からか!」
「そう! 狙いはアンタじゃ無い! ……“火砕!“」
ソーニャとリースが同時に放った巨大な氷の刃は、ツェツェンの頭上で衝突した。
衝突した巨大な氷の刃は破片を伴いながら大きな氷塊となって落下する。
そこへ、タイミングに合わせて放ったティアの火炎魔法が氷塊にぶつかった。
すると……氷塊は炎の熱で融けて、ツェツェンを中心に雨となって降り注いだのだった。
「やった! これでアイツの火も爆薬も使え無い筈よ!」
「す、凄い……本当に成功した……」
「……良くぞ、こんな場当たりな作戦が成功したわね……」
降り注いだ雨を見てティアが喜ぶと、彼女の作戦が半信半疑だったソーニャとリースが成功を驚く。
「場当たり結構! リースさんが火を消してる所を見てたら……子供の時にお父様から聞いた雹の話を思い出してね! 後はアドリブよ!」
「……ハハハ! やってくれましたね!」
胸を張って声を上げるティアに、氷が溶解した水でびしょ濡れになったツェツェンが賞賛する。
「どう? 得意技が使えない気分は?」
「確かに……僕の技は水に弱く、濡れてしまうと発火能力も、爆薬の着火も困難です。これでは火薬を散布しても、埋めていた爆薬も……満足に使えないでしょう」
自身の攻撃手段が失われた事をツェツェンは何の感情も込めず……他人事のように呟いた。
「……なら、後はアンタを叩きのめすだけね!」
そんな彼の態度に気持ち悪いモノを感じながらティアは剣を向けた。ティアに合わせてソーニャもリースも同じく剣を向ける。
「……ククク……火や爆薬が使えない? そんな事、僕にとって大した事では有りません……。要は勝てばいいのですから! 策が成って喜んでいる所、申し訳ありませんが! 貴女達の負けは揺るぎませんよ! 来なさい、ギガントホーク!!」
追い詰められた筈のツェツェンは、大声で叫ぶ。すると……彼の叫びに答え、複数のギガントホークが突如舞い降りたのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)一部見直しました!