224)苦戦
ツェツェンが投げた黒塗りの短剣は、ティア達の背後に飛び……突如爆発し、森を炎に包む。
火力が強い事より、ティア達を追いこむ為に予め火薬を仕込んでいたのだろう。
「……さぁ、これで逃げ場は無くなりました! みんな、仲良く死んで下さいね! ああ、そうそう……女性の方は運が良ければ、フェルディ君のペットとして生かして差し上げましょう!」
「ふざけないでよ! 誰があんな男なんかに! 虫唾が走るわ!」
「……珍しく貴女と意見が合いましたね、ティア。あの男だけは私も絶対に御免です」
ツェツェンの言葉にティアが吐き捨てる様に大声で拒絶し、珍しく彼女の意見にソーニャも同意する。
「貴女達に選べる権利が有るとでも? 貴女達の人生は此処で終わらせますから」
そう言ってツェツェンは黒塗りの短剣をティアの足元に投擲した。
「!? ティア、飛べ!!」
短剣の爆発を懸念したバルドがティアに向け叫ぶ。対して彼女は横に転がり地に刺さった短剣から距離を取るが……短剣は爆発しない。
「ば、爆発しない!? 偽物だったの……」
「はい、ボーン!」
“ドドン!!”
短剣を避けたティア。しかしツェツェンの掛け声の後、突然地面が爆ぜた。
地中に隠された爆弾だろうか、ティアは炸裂した衝撃で吹き飛ばされてしまう。
「ぐぅう!!」
「ティア様!」
「ティアちゃん!」
悲鳴を上げて転がったティアに、ライラやミミリ達が駆け寄る。
「木端微塵にならず、運が良かったですねティアさん! やはり貴女はフェルディ君のペットに相応しい! 巻き添えを懸念して火薬を減らしていたのが幸いした様です。でも、ノンビリなんてさせませんよ!」
「うぐ……ね、寝ぼけないで!」
ツェツェンは小馬鹿にした態度で挑発するが、ティアはライラ達に支えて貰いながら言い返す。
「寝ぼけてるのは貴女達でしょう? まぁ、馬鹿だから分んないか……。所で、一ヵ所に集まってると危ないですよ。こんな風に」
そう言ったツェツェンは小さい黒い球を、ティア達の元に投げた。彼からソレを投げられた瞬間、危険を感じてティア達は飛び退いたが、次の瞬間……。
“バアアン!!”
投げられた小さい黒い球は炸裂し、ティア達は回避が間に合わず衝撃で吹き飛んだ。吹き飛んだ彼女達のすぐ傍には、燃える木が並ぶ。
「ミミリ!!」
恋人の危機にバルドがすぐさま駆け寄ろうとするが……。
“バガン!”
突如、彼の背後で爆発が生じ、バルドは地面に叩きつけられる。
「はいはい、余り見せ付けないでねー」
地面に転がるバルドに、ツェツェンは小さい黒い球を御手玉の様に手で遊びながら呟く。
ツェツェンが動揺したバルドの隙を見て、黒い球に形作られた爆薬を彼の背後に投げたのだろう。
爆薬の衝撃で倒れたティアやバルド達。生きているが、受けたダメージが大きく直ぐには立てない様だ。
「あんまり、動き回らないでねー。もしかしたら、そこら中に爆薬埋まってるかも知れないし。それに隙を見せたら何が飛んで来るか分んないよー」
「くっ! 忌々しい奴め!」
倒れたままのティアやバルド達を助けようとリースが動こうとしたが、ツェツェンがすかさず挑発する。
彼の言う通り地中には爆薬が予め埋められている可能性が高い。そして迂闊に動こうものなら爆薬や火薬を投げられるだろう。
ツェツェンの言葉通り、仲間が地に倒れていても動く訳に行かなかった。
その状況にマリアベルは悪態を付く。
ツェツェンの攻撃に翻弄されるマリアベル達。発火能力を持つ彼は、火薬や爆薬を用いて強力な攻撃を効果的に行う。
爆薬は投げるだけでは無く、地中に埋められているのもあり……どのタイミングで、尚且つどこで爆発するのか全く分らなかった。
ましてや広範囲に火薬を撒くなど……ツェツェンの攻撃は変幻自在だ。
自分達が置かれた拙い状況に、クマリは歯噛みしながらツェツェンに問う。
「……お前、それ程の力が有りながら……何で真っ先に国王を殺さなかった? お前なら、如何とでも出来ただろう?」
「ク、クマリさん! その言葉は余りに不敬です!」
クマリの言葉に、近くに居たリースが慌てて制止するが、元より国に対する忠誠心など欠片も持たないクマリは、手を上げてリースを制する。
「……貴女は確か、高名な特級冒険者の方ですね……。ああ! そう言えば聞いた事が有ります! ギナル皇国軍の将官を逃した冒険者の事を! アレは貴女の事ですね。成程……ティアさんの右手は、貴女の仕込みですか。納得、納得!」
「だったら、どうだって言うんだ? そんな事より、質問に答えろ」
「まぁ、アクラスの秘石に関しては白い神様案件なんで、僕にはどうでも良いです。ですので……貴女の問いには答えましょう! 貴女の言う様に、僕はその気になれば……見るだけで人を燃やせますし、火薬や爆薬を使って如何とでも出来ます。でもねー、王様は流石に簡単じゃ無いですよ! 僕の発火能力は、皆さんも体験した通り、そんな強力じゃ無い。周りに人が居たらすぐ消されちゃうし。ロデリアの王城周りに爆薬をこっそり埋めて一斉に大爆発! ってのも面白そうですけど……逃げられちゃったら意味無いしね」
真実を言い当てられ怒りながら問うクマリに、ツェツェンはあっさりと真実を話す。
「だから、確実に殺せるよう……武術大会でギガントホークを使ったんだ。あの襲撃の最中……火でも放ったら全員確実に殺せたのに……まさか、神様出て来るとはなー。あんな隠し玉が居るなら諦めるしかないさ!」
「……神様? 何の事?」
「ハハハ! 本当に傑作だ! 相手が何か知らないで首輪なんて巻かせてるんだ!? 不敬でどうなっても知らないよ!」
ツェツェンの言葉を聞いたソーニャが問うと、彼は可笑しくて堪らないとばかり笑いながら嘲笑する。
「……まさか、レナンの事か……」
「今更、何を知っても貴女達には無駄でしょう? ……さぁ、残りは5人ですか……。随分と減りました! でも、僕一人に対して5人は酷いでしょう? だからね、こんなのは如何かなって思います」
ツェツェンが言う“神”が誰の事か分ったマリアベルは、思わず呟く。そんな彼女を無視し、嬉しそうに言い放った後、突然教会の方を見た。
すると突然……。
“ボボン!!”
ツェツェンが教会を見つめた途端、音を立てて教会の周りに火の手が上がった。恐らく火薬を撒いていたのだろう。
「……さぁ、どうしますか? 教会が燃えていますよ? 誰か助けに行かないと……中の人質、死んじゃいますねー。でもティアさん達は倒れたままだし、絶対絶命ですよー」
ツェツェンは火の手が上がった教会を背に手を広げて問うのであった……。
いつも読んで頂き有難う御座います! 出張中の為 ご迷惑をお掛けします。一応11/30の月曜日には戻る予定ですので、その後は予定通り行かせて頂きます。
次話は12/2水投稿予定です、宜しくお願いします!




