222)忌まわしい褒美
教会の入り口でツェツェンと対峙するマリアベル達。
たった一人で大勢の騎士達に囲まれるツェツェンは、何の狼狽もせず……自らが与えられた“褒美”について話す。
「……その小さな火が何だと言うのだ? 唯の魔法なら珍しくも無い」
「いや、違うぞ、ベリンダ……。この男、詠唱をせずとも火を出した……。まるで息をするより容易い様に……」
「流石は名高い黒騎士様……僕は褒美を授かった日から、炎を思うだけで生み出す事が出来る様になったんだ。生み出す炎自体は大した火力じゃ無い……だけど使い方によっては、最強の武器になる。例えば……こんな風にね」
ベリンダに答えたマリアベルに、感心したツェツェンは、隠す事無く自身の能力について話しながら……右手を差し出した。
すると、マリアベルの背後に居たリースが突然炎に包まれた!
「キャアアア!」
「リ、リース!?」
炎に包まれた白騎士のリースは、叫び声を上げて地に転がり火を消そうと悶え苦しんでいる。
周りのベリンダやクマリ達が慌てて水魔法で水を掛けたりして、何とか火を消火した。
突然の事で混乱したマリアベル達。そんな隙をツェツェンは見逃さない。
「はい、チャーンス!」
仲間のリースに火を付けられ動揺したマリアベルの間合いに、あっさりと入ったツェツェンは黒塗りの剣を突き出す。
「チッ!」
“ギン!”
マリアベルは舌打ちして大剣で受け止めるが……。
「はい、次行きますよー」
“ボン!”
マリアベルと剣を交えたツェツェンは間の抜けた声を上げながら、マリアベルを一瞥すると……彼女の体に突然、炎が発生した。
「!? うおお!」
「マリちゃん! “源なる水よ!”」
炎に包まれたマリアベルを見て、クマリは大慌てで初級の水魔法を唱え、彼女の炎にぶつけた。
「ハァ、ハァ……済まん、クマ……」
“バガン!”
クマリに火を消して貰ったマリアベルは肩で息をしながらクマリに礼を言う最中、彼女の背後で小さな爆発が生じた。
「ぐぅ……!」
「……弱いねー、本当にロデリア最強?」
突然生じた爆発により、マリアベルは吹き飛ばされ教会の玄関前に倒れた。そんな彼女にツェツェンは小馬鹿にしたように呟く。
「マリアベル様!! おのれぇ!」
「……はいはい、馬鹿みたいに騒がないでー。近付くと死ぬよ?」
マリアベルを吹き飛ばしたツェツェンに対し、ベリンダは激高し剣を向けた。彼女と同じくクマリも彼を囲む。
そんな彼女達にツェツェンは、両手を広げて呆れた口調で話す。
ちなみに回復したリースはマリアベルの元へ駆け寄り、彼女が起き上がるのを助けていた。
「……み、見ただけで着火するとは……確かにお前の魔法は危険だ。だが、その時間を与えず猛攻すれば、対処出来るだろう」
「確かに、一度に攻められたら困るなー。僕の技を一回喰らっただけで、対処策を練るとは流石は黒騎士様だね!」
立ち上ったマリアベルは爆発のダメージに耐えながら大剣を掲げ、静かに答えた。対してツェツェンは心底感心したとばかりに声を上げる。
「何処までもふざけた奴め……。だが、もう終わりだ! お前達、タイミングを合わせて一斉に掛かるぞ!」
「あー皆で来られたら、迷うなー。でも……全部無駄だけど……」
マリアベルの号令を受け、その場に居た皆は一斉にツェツェンに斬りかかろうと構えるが、対して彼は小馬鹿にして呟いた後……何かを投げる様に右手を動かした。
すると……その右手の動きと合わせるかのように黒い小さな粉が、撒き散らかれる。
「な、何だ……この黒いのは?」
「!? 危ない、皆! 下がれ!」
ツェツェンからふわっと撒かれた黒い粉に、ベリンダが首を傾げて呟く。近くに居たクマリが黒い粉の正体に気が付き、大声で叫んだ。
慌てるクマリの様子を見たツェツェンは、ニッコリと微笑みながら、差し出した右手より炎を生み出した。すると……。
“バガアアン!!”
ツェツェンの炎は辺り一面に広がり、轟音と共に爆発した。
その爆発にツェツェンを取囲んでいたマリアベル達は吹き飛ばされてしまう。
爆発により教会の入り口近くに居たマリアベルは、玄関ドアに激突した。
広く散布した火薬の粉によりツェツェンの炎で爆発を起こしたのだろう。
激突した衝撃で教会の玄関は破壊され、マリアベルは教会内に倒れ込んだのだった。
そして、時は戻り現在……教会の玄関を破壊し、転がり込んできたマリアベルを見てソーニャは叫ぶ。
「お、お姉様!?」
彼女はティアに叱咤され、気力を取り戻したソーニャはツェツェンと戦うマリアベルの元へ向かう所だった。
「……ソ、ソーニャか……そ、その顔は、怪我をしたのか……」
「わ、私の事なら大丈夫です! とにかく今は治療を……!」
ソーニャに抱き起されたマリアベルは、大切な義妹の顏にアザが有る事を見て……彼女の身を案ずるが、ソーニャはマリアベルに構わず治療魔法を唱える。
「おやおやー? 人質さんが自由に動けているって事は……フェルディ君達はやられちゃったみたいですねー。まぁ烏合の衆でしたから仕方ないかー」
そんな二人の背後から、嫌に明るい声が響く。ツェツェンだ。
「……この場は危険だ……わ、私の後ろに下がっていろ……」
「しかし、お姉様……!」
「仲が良くて麗しいですねー。……所で黒騎士様の鎧の中身は、やっぱり女性だった様でしたか……。何となく“匂い”で予想はしてましたが……お二人の会話を聞いて確信しましたー。これは、フェルディ君が喜びそうな事実ですよ! 何せ、お土産が増えましたからねー」
「……薄汚い下郎め……貴様達等にこれ以上ソーニャを触れさせん!」
「弱い貴女が? この僕に勝てるとでも?」
ソーニャを傷付けんとするツェツェンに対し、マリアベルは激高する。そんな彼女をツェツェンは嘲笑した。そこへ力強い声が響き渡る。
「アンタは倒すわ、ツェツェン! 私達、皆でね!」
そう叫んだのはティアだ。彼女の背後にはライラやバルド達が揃う。そこへ声が続く。
「……忘れんな、馬鹿弟子。ソイツに良い様にやられて頭キテるのは私達も同じなんだ……」
教会の外から声を出したクマリの周りには、ベリンダやリースが剣を構えている。
こうしてツェツェンとティア達全員の戦いが始まったのだった。
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