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220)一難去って

 ソーニャ達を救出に来たティアはフェルディを裏拳で吹き飛ばす。唾棄すべきこの男と、過去の愚かな自分を決別するかの様に。



 そしてティアは、足元に寝転がったままのソーニャを見つめた。かつて彼女はフェルディをけし掛けて、自分を陥れた相手だ。


 その所為でティアは婚約していたレナンと別れる事となってしまったのだ。



 憎い敵の一人であるソーニャは……美しい顏は何度も殴られた様で酷く腫れ、酷いあざが付いてしまっている。両目は涙が今も溢れ泣き続けた事が直ぐに分かった。


 そして上半身を裸にされ、両手で胸を隠しているが、その体はガタガタと震えていた。



 彼女はティアと同じ様に……最低な男、フェルディに犯されそうになり、激しく抵抗して、酷く殴られたのだろう。



 正に、あの時……ティアが味わった痛みに、ソーニャも同じ目に遭わされたのだ。



 その状況を見たティアは……ガタガタ震えるソーニャに声を掛ける。



 「……自業自得ねって笑ってやりたいけど……私も同じ目にあったから、止めといてあげる。此れに懲りて、二度と人を陥れる様な真似はしない事ね……」



 ティアはソーニャに話しながら、自分が羽織っていた薄いマントを彼女に掛けてあげた。




 一方、ライラとバルドとミミリの3人は、群がっていた囚人達の相手をしていた。


 歴戦を重ねた彼女達に取って、囚人達等敵う筈も無く……次々に倒されていった。



 その状況を……涙を流しながら見つめるだけのソーニャ。彼女はフェルディに酷い目に遭わされた事が今だショックの様で動けずに居た。



 大切な姉、マリアベルの為に……沢山の策を弄して敵を陥れてきたソーニャも、本来はうら若き少女だ。


 フェルディに殴られ、犯されそうになった事は……彼女の精神に深いダメージを与えた様だ。


 ソーニャは助けられたにも関わらず、寝転がったままで震えて泣くだけだった。



 そんな彼女を見たティアは、毅然と言い放った。



 「そこで泣きながら呆けてるのも結構だけど……良いのかしら? アンタの大事なマリアベルお姉様が……アンタを助ける為に、ツェツェンって奴と今も戦ってるのよ? それでも、アンタ……ウジウジしている心算なの?」


 「!? ……マ、マリアベルお姉様が……! こ、こうしては……いられない……!」


 ティアの声を聞いたソーニャは叫んで、飛び上がる様に起きた。



 「もう心配いらないわね。マリアベルは師匠と一緒に玄関前で戦っているわ」


 ティアはそう言い放つと、ソーニャに背を向けた。パメラ達の傍に寄り添う心算だろう。



 ソーニャは、そんなティアに向かって消え入りそうな声で呟く。



 「……あ、ありがとう……ティア……。そして……ご免なさい……」


 「これで……いつかの借りは返したわ。だけど……謝罪は不要よ。全てが、今更だもの……。レナンを取り戻した時……改めてして貰うわ」



 小さな声で謝罪したソーニャに対し、ティアは振り返らず答え、パメラとナタリアの元へ向かった。


 そんなティアの背を見ながらソーニャは、ふら付きながらも立ち上がるのだった。



 ティアが言う“いつかの礼”とは、騙されレナンを手放した彼女が、自責の念に駆られて閉じ籠っていた時に、ソーニャが無理やり引き擦り出して発破を掛けた時だ。


 憎い相手であるソーニャに煽られたティアは再起する事が出来た。ティアに取ってはその事が返すべき借りとなったのだろう。



 ソーニャはティアの背を見送りながら……その凛として迷い無い姿が自分が愛する姉に近しいと感じてしまい、慌てて首を振り……ティアがくれたマントを掛けマリアベルの元へ向かうのだった。





  ◇   ◇   ◇





 「パメラ! ナタリアさん! 無事で良かった!!」


 「ああ、ティア様!!」


 「お、お嬢様を御救い頂き有難う御座います!」



 パメラと侍女であるナタリアの元へ駆け寄ったティア。対してパメラ達は号泣しながらティアに抱き着いた。



 二人の顔は溢れ出る涙を拭おうともせず、グシャグシャの酷い泣き顔だ。


 絶望の真っ只中……ティア達に助けられ、恐怖と歓喜と言った……あらゆる感情がごちゃ混ぜになったかの様だ。


 パメラと侍女のナタリアは、今まで経験した事が無い様な恐ろしい目に遭い、腰が砕けて満足に歩く事が出来ない。



 そんな状態の彼女達を見たティアは我慢出来ず、もう一度2人を抱き締めて声を掛ける。

 


 「……遅くなってゴメン、二人共!」


 「い、いえ! ティア様が来てくれてなかったら私達、どうなっていたか……!」


 「ええ、何度お礼を申し上げても足りません! この事は旦那様にも申し上げて……いずれ正式に御礼を……」


 「お礼なんて良いよ! 所で……ライラ、バルド、ミミリ! そっちはもう片付いた頃ね!」



 ティアに縋って礼を言うパメラとナタリアに、謙遜しながらティアはライラ達に様子を聞く。



 「はい、何の問題も有りません!」「こいつら弱すぎだよ」「だねー!」



 問われたライラ達は自信に満ちた声で答える。ティアが見れば囚人達は全員倒され、気絶するか、血を流して呻いており……皆床に転がっていた。


 ティアと共に危険度の高い依頼をバンバンこなしているライラ達にとって、弱っている囚人など相手では無かった様だ。


 その囚人達をバルドがしっかりと縄で縛って行く。


 一方のフェルディはティアに殴られた為か顔を抑えて蹲っている。恐らくは鼻の骨が折れたのだろう、痛みが大きい様で満足に立ち上がる事も出来ない。


 ソーニャはティアが発破を掛けたのが効いた様で、マリアベルの支援をする為に教会の外へ向かった。


 幾らツェツェンが強かろうが、マリアベルにクマリとソーニャ達白騎士隊が揃えば、簡単に倒せるだろう。



 “もう、この場は安全だ”そう確信したティアがパメラ達に改めて声を掛ける。


 「……さぁ、一緒に! 帰ろ……」 


 “バガアアン!!”


 ティアが声を掛けている最中、玄関の方から大きな破壊音が鳴り響いた。


 その場にいたティア達が音がした方を見ると……其処には教会の玄関が大きく壊れ、その瓦礫に埋まっている黒騎士マリアベルの姿が有った……。


いつも読んで頂き有難う御座います!


追)一部追記しました。

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