216)最低と最悪
攫われたソーニャ達を救出すべく行動を開始したティアとマリアベル達。
しかし手掛かりが見つからず……手詰まりな状況を感じ話し合う彼女達だったが……此処でマリアベルが打開策を見出した。
それによると……。
「……“鏡鳴“? その術をソーニャが使えるって訳?」
「ああ、そうだ……本来はこの特殊な魔道具に水を入れて……互いの映像を映し出す魔法だ。しかし……魔道具さえあれば声は拾える筈……。ソーニャが術式を展開していればだが……だが、頭の切れるアイツの事だ。絶対に準備している筈……」
ティアに説明しながらマリアベルは、自らが持つ“鏡鳴“の魔道具を準備する。それは特殊な紋様が刻まれた銀皿だ。
適当な台の上に銀皿を置き、リースがそれに術式を掛ける。すると……。
“……貴方達……! こんな真似をして唯で済むと思っているの!?”
薄っすらと光り振動する銀皿から、叫ぶソーニャの声が響いてきた。
「……こ、これは……!?」
「流石……我が妹! ソーニャはいつも肩掛け鞄の中に銀皿を入れている。恐らくは鞄に入ったまま“鏡鳴“の術式を作動したんだろう……。水が有れば映像も入手出来たが……そんなノンビリした状況では無さそうだ……。ソーニャなら、私が聞いていると信じ……自らが捕まっている場所を聞き出すだろう」
「……ずる賢さなら、満点な女ね……。でも今は、その点も評価してあげるわ!」
銀皿が振動し、遠方に居る筈のソーニャの声を伝えると、この魔法を初めて見たライラが驚きの声を上げる。
マリアベルはソーニャの機転を褒め称え、ティアも皮肉りながらも喜んでいる様だった。
そんな彼女達を余所に銀皿からソーニャの声が響く。
“……目隠しをするなんて、あんまりじゃ無いかしら? すっかり彼女達も怯えてしまったわ……。馬に乗せられて走った様だけど……此処は一体何処なのかしら?”
“質問に答える義務はない……アイツらの様に黙っていろ”
“私は不安なのよ……自分が何処に連れて来られて、何をされるのか分らないと……。乗せられた馬車で揺られていた時間からすると……流石に王都は出たみたいね“
“……静かにしろ、と言っている……!”
誘拐犯の男に恫喝されながらもソーニャの呟きは続く。どうやら目隠しをされて連れ去られた様だが……自分が移動させられた時間から推理して、今居る場所を特定しようとしている様だ。
“それに……この場所……見覚えが有るわ……。任務で来た事が……そうか、此処は王都郊外の墓地で……この部屋は教会か……”
“貴様……! いい加減にしろ!”
遂にソーニャは自分が連れて来られた場所を言い当て、それを聞いた誘拐犯の男が激高する。どうやら正解の様だ。
そのやり取りを“鏡鳴“の術式で傍受していたマリアベル達は……。
「……良くやったぞ、ソーニャ! 皆、彼女達の捕まっている場所は判明した! 全員で強襲し、ソーニャ達を救出する!」
マリアベルの言葉に、全員が力強く頷いた。そんな時……。
“……漸く……会う事が出来たね……ずーっと、会いたかったよ……”
振動する銀皿から、突然割り込んで来た……甘い囁く様な声。この声を聞いた瞬間――ティアは……
「!? こ、この声……まさか、まさか……!」
聞いた事が有るこの声……。この声を久しぶりに聞いたティアが感じたのは、強烈な嫌悪感だった。
忘れる筈も無い……ティアが出会った中で、最悪かつ最低な男の声だからだ。
ワナワナと震え出し、胸の前に両手を組んで蹲るティア。尋常では無い弟子の様子にクマリが叫ぶ。
「ティア! どうしたんだ!?」
クマリはティアに駆け寄り、その背中を摩る。そこへ銀皿から甲高い叫び声が聞こえた。
“キャアアアア!!”
この叫び声は、間違いなくパメラの声だ。振動する銀皿から、続いて声が伝えられる。
“……酷いじゃないか、パメラ嬢……。この僕の顔を見て、叫び声を上げるなんて……。まぁ、こんな顔になったのは……そこに居る、雌豚の所為だけどなぁ……!!”
“ドガァ!” “あぁ!”
パメラの後に続いた声はフェルディの声だ。彼が叫んだ後、殴りつける様な音がしてソーニャの悲鳴が聞こえた。
「現場に急ぐぞ……! 一刻も早くだ!」
「「はい!」」
ソーニャの叫び声を聞いたマリアベルが立ち上がり声を掛けると、ベリンダとリースが間髪入れずに同意した。そんな中、別な声が銀皿から響く。
“……ちょっと落ち着いて下さいよ……目的の達成を優先しましょう? ですが、その前に……御嬢さん、貴女が大事そうに抱える鞄の中身を……見せて頂けませんか?”
“や、やめて! 触らな……”
“ビキン!!”
ソーニャが制止する声を上げる中、甲高い音がした後……銀皿からの音が突然途絶えた。
「声が途絶えたぞ!?」
銀皿から声が消えた事にバルドが驚く。そんな彼を余所にティアは青い顏を浮かべて全員に声を掛ける。
「……皆、聞いて……。大変よ……最低な男の隣に、最悪な奴が居るわ……」
「どう言う事だ、ティア?」
「……はい、師匠……。最初に喋った男は……フェルディです。次いで、ソーニャから銀皿を奪ったのが……ツェツェン……あの男で間違いありません……」
「最低な強姦魔に……ギナル皇国の工作員か……。フェルディとやらは地下牢に入れられていた。そして、王都で起こった火災……火元は地下からだと聞く。……成程、全てはギナル皇国の仕業か……」
クマリに向け絞り出す様に呟くティアの言葉を受け、マリアベルは事件の概要を把握した。
「……マリアベル……レナンを呼んで。今すぐに」
「分った。レナンの奴は王城に到着した筈……、ならば直ぐに動けよう。我々も今より向かうぞ!!」
「「「「「応!!」」」」」
マリアベルの号令にその場に居た者達が一斉に答える。唯一人、ティアを除いて……。
「……どうだ、ティア……行けるか?」
「だ、大丈夫……! 私は……戦えるわ……! こうしてる間にパメラやソーニャが……! こんな所でジッとなんてして居られない!」
「その意気だ! さっさと彼女達を助けてやろう!!」
青い顏を浮かべながらも、戦う意志を見せたティアに、マリアベルは力強く答えた。そんな彼女にティアも迷いなく頷く。
ティアはパメラとソーニャ達を助ける為……因縁の相手に挑むのであった。
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