214)復讐の始まり
「……予想通り……隠し財産は、あの場所でしたか。父上も工夫が無いなー」
薄暗い地下牢の一室で、フェルディは呆れた様子で呟く。
彼の足元には……既に事切れた実の父親であるルハルト元公爵が転がっていた……。
その亡骸は酷い様子で、両耳は切断され……鼻も削がれていた。両手指も切断された為か……全て無くなっている。
凄まじい拷問を受けて死んだのだろう……、その顔は苦悶で歪んでいた。
実はルハルト元公爵は、右耳を切断された時点で……隠し財産の在処を全て吐き出した。
にも拘らずフェルディは“嘘だ、本当の事を言え”と迫り……喜喜として実の父親に拷問を加えたのであった。
元よりルハルト元公爵とフェルディとの家族愛は希薄だったのだろう。
そして極め付けは、長い獄中生活……。その中で散々看守に拷問された為に……僅かに残っていたフェルディの人間性らしい心は、おぞましい何かに変わってしまった。
だからこそフェルディは裏切られたとは言え、実の父親に苛烈な拷問を加える事が出来たのだ。
その拷問は、ルハルト元公爵が失血死するまで、容赦なく続いた。
「……実の父に、此処までするとは……恐ろしい奴だ」
「ですが……ああでもしないと、隠し財産の場所が分らなかったでしょう? 実の父に刃を向けるしか無かった、僕の不遇を見て欲しいモノです」
筋肉質の男に掛けられた言葉に、フェルディは肩を竦めて応える。
「ククク……どの口が言う? いずれにしても、ツェツェンの仕事が減ってしまったな……。奴の残念そうな顔が目に浮かぶ」
「そのツェツェンって人には申し訳無かったですが……こんな“仕事”なら沢山ありますよ?」
「ほう? それは奴が喜びそうだが……、俺達の仕事は、お前の父親が隠した財産の確保だ……。その点は分っているだろうな?」
「ええ、勿論分っています。地下牢から出して貰っただけで……僕としては大満足です。何より……命を助けて頂いた事には、感謝しています。この僕には借りを返したい人達が居ますのでね……。父上の隠し財産は全て、お渡ししますので……是非とも、借りを返すのにご協力頂ければ……」
「……財を望まんとは、欲が無い事だ……。我々にとっては好都合だがな。かと言って、お前の私怨に付き合うほど、暇では無いぞ」
フェルディの言葉に、筋肉質の男は評価しつつも、しっかりと釘を刺した。
「いや、貴方達ギナルの方々にもきっとお役に立てる事です。特にツェツェンって人が喜んで頂けるようなお仕事ですよ?」
「……我々にとって、役に立つかどうかは……お前の話を聞いてから判断しよう。お前が借りを返したいと言う連中は誰だ?」
「はい、それは王都にのさばる白騎士共です。あの女共を犯し……手足を切り落とし……ありとあらゆる苦しみを与えて……王城から吊るしてやります。それが出来るかも、と想像するだけで……アハハハ、天にも昇る想いです」
「……王家を守護する白騎士隊か……狙いとしては、我々からしても悪くは無いな……。ツェツェンも喜びそうだし……良いだろう、お前の復讐に力を貸してやる」
「有難う御座います!」
筋肉質の男の問いに、フェルディは暗い笑みを浮かべながら答えた。
フェルディの復讐の相手はソーニャ達、白騎士隊だ。ソーニャ達に騙され、利用され、右耳を切り取られ……そして、この地下牢に入れられる事になった事を深く深く恨んでいるのだ。
フェルディの復讐は、ギナル皇国の間者である筋肉質の男に認められた。筋肉質の男に取って、この王国を守護する白騎士隊は邪魔な存在だ。フェルディの復讐が成り、彼女達が消えれば、ギナル皇国の侵略作戦も前進するだろう。
「お前の希望は分った……しかし、具体的にどうするのだ? 余り派手な事は出来んぞ?」
「……この地下牢に放り込まれてから……ひたすら、どうすれば良いか考えていました。……あの雌豚共を、どの様に掴まえてすり潰すかをね……。先ずは貴方達の作戦も聞かせて下さい。その上でお互い調整しましょう」
「ああ、良いだろう」
「……それでは、お願いします……所で……そこに転がっている、汚い豚共……、僕が“調理”して……良いですか?」
筋肉質の男の言葉に、満足して答えたフェルディだったが……足元に転がる看守達を見下ろし、喜喜として問うた。
フェルディの言葉を聞いた看守達は、自分達が何をされるのか予想が付いた様で、ビクッと体を震わせる。
「どうせ、この地下牢は焼き払う気だったからな……。そいつらは好きにすれば良い。ただし、ゆっくりと拷問している時間は無いぞ?」
「……それは、残念です……。彼等には散々、やって貰ったのでね……、時間を掛けて丁寧に“お返し”したかったのですが……。仕方無い、手早く……最高の“おもてなし”をさせて頂きましょう……」
フェルディはそう呟きながら、血に染まった剣を片手に床に転がる看守達に近付く。
「出来るだけ、早く済ませろ……。俺は此処を出る準備をして来る」
剣を持ったフェルディを尻目に筋肉質の男は、地下牢へ火を放つ準備の為、部屋を後にする。
薄暗い部屋に残されたのは、フェルディと床に転がる二人の看守だけだった。
二人の看守の内、一人は血塗れであるが意識は有る様だ。もう一人の看守は大した怪我は無く拘束されているだけだ。
看守達は近付くフェルディを見てガタガタ震えだす。先程までこの男は実の父親相手に凄惨な拷問をやっていたのだ。
だから自分達が何をされるのか容易に想像できた。フェルディは拘束されている看守の傍に座り、丁寧に猿ぐつわを外す。
猿ぐつわを外された看守は、恐怖の為か激しく狼狽しながら虚勢を張って叫んだ。
「お、おい!! こここ、この駄犬が! ちょ、調子に乗るなよ! どうせ逃げてもすぐに捕まる! 此処は大人しくした方が身の為……ウギャアアア!!」
猿ぐつわを外された男が、威勢よく叫んでいる所……フェルディは躊躇なく彼の右耳を切り落としたのだった。
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