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213)“元”公爵の末路

 ティアとマリアベルが決勝戦を始める少し前の事――。




 王都地下牢で看守の服を来た筋肉質の男が、薄暗い一室で二人の男を見下ろしていた。


 薄暗いこの部屋には血塗れで倒れている大柄な看守と、縛られて猿ぐつわを噛まされた看守が転がっていた。二人共生きている様だ。



 筋肉質の男が見下ろすのは丸々と太った老人と……蛆がたかって爛れ醜い顏となったフェルディの二人だった。


 この二人は地面に転がる看守と違い、拘束はされていなかった。なお、看守の服を来た筋肉質の男は、先日フェルディの牢に現れた男だ。




 筋肉質の男は感情を消した顔で、淡々と太った老人に話す。



 「……もう一度、仰って頂けますかな? ルハルト“元”公爵閣下……。お言葉の意味が、良く分りませんでした」


 「な、何度でも言ってやろう! ワシの財が欲しくば! そなた等の皇帝の前に……このワシを連れて行け! 話は其れからじゃ!!」


 「失礼ながら……ルハルト“元”公爵閣下はご自分の立場が、今だお分かりになっていない様だ。我々がこうして動かねば……此処から出る事すら敵わぬと言うのに」


 「フン……一体どれ程の金を、そなた等につぎ込んだか分っておるのか? にも拘らず、その恩を忘れ……この様な場所に長らく居させるとは……! ギナルの間者達は腕利きと聞いていたが……とんだ的外れじゃったわ……!」



 看守の服を来た筋肉質の男に対し、ルハルト元公爵はあらん限りの悪態を付いた。



 彼は莫大な金を、ロデリア王国からギナル皇国へ横流ししてきたが……その働きにも拘らず、自分が地下牢へ収監された事が許せなかったのだ。


 つぎ込んだ金額を想えば、ギナル皇国の者達が一刻も早く自分を助けに来るべきと考えていたからだ。



 「元よりワシは……このロデリアの新王と成る筈だった男……! そんなワシにそなた等では話にならんわ!」


 「ち、父上……! こ、此処は彼等に従った方が……!」



 不遜な態度を取る父を抑えようと、フェルディが縋り付き懇願する。



 そんな息子にルハルト“元”公爵は……。



 「ええぃ、寄るな! 気触悪い!! 元はと言えば貴様の馬鹿さ加減で、こうなったのだ! もう、お前など息子では無い! 此処で死に晒せ!」


 “ドガァ!” 


 「グゲェ!」


 ルハルト元公爵は縋り付くフェルディを蹴飛ばした。蹴られた彼は無様に地に転がる。



 「……親に仇成す息子など不要! コイツはこの地下牢に置いて行く」


 「うぅ……そ、そんな父上……ち、父上も僕から何人も女をあてがわれて! 良い思いをしたでは有りませんか!? あ、あんまりな仕打ちです!」


 「ふん……。無能なお前には、見た目だけが取り柄だったのに……。その顔で世間知らずな名家の令嬢を掴まえて、ルハルト家を盤石にする。それだけがお前の存在意義だったのだ! その成りでは豚も寄って来ぬわ……。穀潰し(こくつぶし)のお前などに価値は無い! 此処で一生、己が無能を嘆くが良い」


 「!? うぐぅぅぅ……! お、おのれぇぇ……」



 実父であるルハルト元公爵に、素気無く見捨てられたフェルディは地面に這い蹲ったまま悔し涙を流す。



 「ふん……何処までも情けない奴め……。おい、お前……一刻も早く此処からワシを連れ出せ。……其処で這い蹲っている醜い男は放って置いて良いぞ」


 「……ダメだな……コイツは……。殺すしか無さそうだ」



 何処までも傲慢なルハルト元公爵に、業を煮やした筋肉質の男は、彼を殺そうと剣を向ける。



 「……お前達を此処から連れ出そうとしているのは……我々にとって利用価値が有るかどうかを見極める為だ……。その点、お前はダメだな……」


 「ヒィィ!! ワ、ワシを誰だと思うておる! 弁えるが良い! フェ、フェルディ! 早くワシを助けるのだ!」



 筋肉質の男に剣を突き出されたルハルト元公爵は、フェルディに命ずるが……。



 “ガッ!”


 フェルディは突如立ち上がって筋肉質の男から剣を奪い取った。そして……その剣をルハルト元公爵に向ける。



 「……お、おお……フェルディ……! よ、良くやっ……」


 “ザシュ!”



 剣を奪い取ったフェルディに、ルハルト元公爵は猫撫で声で声を掛けたが……彼は元公爵に向け、切り掛かった。



 「ギャヒイイイィ! な、何をするのだ!? フェルディ! き、気が触れたか!?」


 息子であるフェルディに腕を切られたルハルト元公爵は、豚の様に叫んだ後、狼狽しながら彼に問う。



 「……いいえぇ、父上……今の僕は、サイコーに頭が冷えていますよ……。自分が何をするべきか……よーく、分りましたから……」


 「な、なな何を言ってるのだ、フェルディ! ち、父であるこのワシに! 剣を向ける等……アギャアア!」



 ルハルト元公爵が必死に話している所へ、フェルディは容赦なく再度剣を振るった。



 「……“父であるワシに”? その貴方に……たった今、僕は見捨てられましたが? だったら……僕も同じ事をするまでです……。僕が助かる為に、貴方を踏み台にして……其処に居られる彼に……僕の有用性を認めて頂きましょう」

 

 「ククク……良いだろう……」



 血に染まった剣を持ちながら、フェルディは背後に居る筋肉質の男に声を掛ける。対して男は楽しそうに笑った。



 「さぁ、面接が始まりましたよ……父上! 僕の新しい人生の為に……先ずは、隠し財産の在処を教えて下さい。嘘ついても無駄ですよ、僕は大体予想付いてますから!」


 「そ、育ててやった恩を……ギヒイイイ!!」



 痛みで震えながらルハルト元公爵は、息子に恨み言を言うが……フェルディは、それを聞き終える前に、ルハルト元公爵の足に剣を突き立てる。



 「はいはい、そんなやり取りもう良いですから……。そうそう、父上……僕はねぇ、有る女達に右耳を切り捨てられたんですよ……。アレ痛かったなぁ……。父上も……体験してみますか?」


 「ヒィ、ヒィ……や、止めろ! フェ、フェルディ! ワ、ワシが悪かった! だから一緒に……」


 “ブシュ!”


 フェルディは必死に懇願するルハルト元公爵を完全に無視して、実父の耳を……自分がされた様に切り捨てた。


 「ギャアアアア!!」


 「……はい、此れで僕とお揃いに成りましたね……。さぁ、隠し財産の在処の教えて下さい……。でないと……次は左耳ですよ?」



 フェルディは醜くなった顔を歪めて笑いながら……痛みで蹲るルハルト元公爵を恫喝する。


 この男は、最低の犯罪者から……最悪の怪物へと変貌しつつあった……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 


この話ではゲス野郎のフェルディが怪物に変貌してしまいました。彼は箱庭2まで生き残る予定です。


次話は10/18(日)投稿予定です、宜しくお願いします!

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