212)屋上にて
ティアとマリアベルが、攫われてしまったソーニャとパメラ達の救出作戦を開始した頃……。
武術大会が行われたコロシアム外壁の屋上で、細目の冒険者風の男が一人……ワザとらしい程のオーバーリアクションで悔しそうに叫ぶ。
「……あーあ……、まさか、用意したギガントホークが全部狩られるとは思わなかったなー!」
誰も居ない屋上で、その細目の男……ツェツェンは一人嘆いた。
「しっかし……ギガントホークを皆殺しにした……あの少年……。アレ、どう見ても神様だよねー」
ツェツェンはレナンがギガントホークを光魔法で殲滅する様を思い出しながら呟く。
そして彼は、懐に忍ばせていた不思議な銀色のリングを取り出す。そのリングは揺らめく光を放っていた。
「……どう言う理屈か分んないが……これに意志を込めれば操れるんだよね……。神様より賜ったって話だけど……」
ツェツェンは上官より配られた不思議なリングを見て呟く。
今回、コロシアムを襲ったギガントホークには予め体内に、同じリングが埋め込まれていた。
このリングを身に付けた魔獣は、同じリングを持つ者の意志により自在に操る事が出来るのだ。
ジェスタ砦に侵攻したロックリノも、恐るべき力を持った巨獣も、王都を襲ったダイオウヤイトも、全てこのリングにより操られていた。
コロシアムを襲撃したギガントホークは、ツェツェンが操っていた。
彼の担当はギガントホークを使って、国王とその側近らを抹殺し……襲撃により王都撹乱させる事だった。
そして王都混乱の最中、別同部隊が王都地下牢に火を放ち……ついでに地下牢に捕まっている“対象人物”の奪取を行なう計画だった。
しかし……ギガントホークを使ってのコロシアム襲撃は、予想外の存在により失敗してしまった。
その存在は美しい銀色の髪と、抜ける様な白い肌……そして紅い目を持つ少年だった。
ツェツェンは遠目の魔道具で、地上に降り立った彼を見て、すぐさま彼が自分の故郷であるギナル皇国で“白き神”と崇められる者達と同族である事を理解した。
その少年が放った光の魔法により、あれだけ居たギガントホークは全て消滅した。
この襲撃の為に時間と労苦を重ねた作戦にも関わらず、それを嘲笑うかのような凄まじい魔法だった。
ツェツェンはダイオウヤイトの襲撃の際に刻まれたと言う王都から延々と続く破壊痕を思い出す。
それを刻んだのはロデリア王国の新兵器と予想していたが、レナンの姿とその力を見た今……レナンこそが、その破壊を生んだ存在だとツェツェンは確信した。
何故なら8か月ほど前……ギナル皇国でも“白き神達”の怒りにより、皇都が破壊させられたからだ。
“白き神達”は皇都を破壊した後……ギナル皇帝に、ロデリア王国侵攻を厳命して天に消えた。
ツェツェンはレナンの力を見て、彼が“白き神達”と同質の存在だと確実視した。
“白き神達”は気まぐれに度々大いなる破壊を刻むと同時に……空飛ぶ巨大な船や、アクラスの秘石、そして魔獣を操るリングなど……ギナル皇国民の理解を超えた技術を持っていた。
ツェツェンは魔獣を操るリングを見つめながら……その事を思い起こして一人話す。
「天地を砕く様な力と……不思議な技……。正に神様だね……。そして“彼”……。“彼”も間違いなく神様だ……。うん? ……“彼”の首に巻かれているのは……赤い……首輪……。ハハハ、まさか従属されてるのか……。神様飼うなんて、とんでもない罰当たりな連中だなー」
レナンを見つめていたツェツェンは、彼の首に巻かれている赤い首輪を見て呆れながらに呟いた。
そして彼は脳内でレナンを如何するか素早く計算する。
(……“彼”の事を知れば……上のアホどもは“何としてもお連れしろ!”なんて言うだろうけど……。うーん……神様相手じゃギガンドホーク1000羽でも無理だ……。あんなヤバいのには付き合ってらんないよ……。上の奴らに義理立てする気も無いし……此処はスルーだね)
ギナル皇国に属するツェツェンは軽く考えた結果、皇国の国策を無視し、あっさりとレナンを諦める事を決めた。
レナンの戦闘力を見たツェツェンは、自分と仲間達だけではどうする事も出来ないと判断したのだ。
ギナル皇国軍に属する者なら……“白き神達”とそれの指示を伝える皇族や、上官には絶対に逆らう事が出来ないが……ツェツェンは違った。
蠱毒の儀式による所為か、彼の人格は異常をきたしていた為か……ツェツェンには忠誠心や責任感……そして愛情や恐怖心等、凡そ人として必要な感情を失っていた。
(……“彼”の事は見なかった事にして……、さっさと地下牢組の方へ合流しようか。どうやら火事は成功したけど……ルハルト元公爵の隠し資産の在処は判明したかな? 僕が言えた事じゃないけど……ソレも失敗したら、流石に拙いね……)
レナンに関わらない事を決めたツェツェンは、別行動を行っている仲間の部隊の事を考えた。
別同部隊が王都地下牢から奪取しようとしている人物は、ルハルト元公爵だった。その目的はルハルト元公爵がロデリア王国から横流しした、莫大な隠し資産だ。
ギガントホークの襲撃は失敗したが、コロシアム屋上に居るツェツェンは、王都から立ち上る煙を見て、別同部隊が行なった地下牢への火災テロが成功した事を理解した。
しかし、ルハルト元公爵の隠し資産の確保が出来なけば、この作戦は失敗と言える。
「……彼等には……溜めこんだ隠し資産を吐き出して貰わないとね……。お互い素直に“話し合い”出来れば良いけどなー」
ツェツェンは、笑顔を浮かべて嬉しそうに呟く。楽しい仕事を思い出したからだ。
奪取したルハルト元公爵を拷問して、隠し資産の在処を吐かせると言う仕事を……。
ツェツェンは心底楽しそうに鼻歌を歌いながら、足取り軽くレナンの元から離れたのであった。
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