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207)武闘大会-37(決勝戦⑦)

 決勝戦で戦うティアとマリアベル。深刻なダメージを重ね、やっと立っているだけのティアにマリアベルは声を掛ける。


 「諦めろ……と言っても、お前には無駄であろう。私や誰かに言われて、簡単に諦める位なら……こんな所まで来ないだろうからな……。お前は私との戦いに勝ち、陛下にレナンを返す様、願う心算だろうが……。それも無駄な事だ。考えても見ろ……伯爵家とは言え、アルテリア家は大罪を犯した。後ろ盾の無いお前の言葉など反故にされてもおかしくは無い。故にティア……お前は我が白騎士隊に来い。さすれば、常にレナンの傍に居られるぞ」


 「……じょ、冗談じゃ無い……。私は……貴女を、負かして……か、彼を連れ帰るの……」


 マリアベルの言葉に、ティアはうわ言の様に呟く。彼女は額から流れる血を拭おうともせず、幽鬼の様にフラフラしながら何とか立っている。


 「……残念、今回は振られたか……。揺さぶって何とか我が元へ来て貰う心算だったが……ソーニャが使う話術の様には行かんな。騎士に憧れていたと言う、お前に取っても悪い話では無いと思ったのだが……」


 「……以前の、私なら……よ、喜んで貴女の元に……。だけど、今の私は……レナンを……!」


 心底残念そうに話すマリアベルに、ティアは息も絶え絶えに答える。そして腰のポーチから親指大のお菓子を鷲掴みして口に放り込んだ。


 ティアは補給する事で、マリアベルと諦めず戦う心算だろう。しかし、もはや彼女はその場から動けない様だ。


 震えながらティアは右手をマリアベルに向け、技を放とうとする。



 そんなティアの様子に、マリアベルは一思いに彼女を倒そうと決めた。


 「……お前は良く戦った……だが、今回はお前の負けだ……!」


 マリアベルは短く叫んでティアに突進する。鬼化した彼女は赤黒い光を纏わせながら、ティアに迫る。


 マリアベルはティアが技を放つ前に、一気に勝負を付ける考えだった。


 対してティアはダメージが蓄積している為か、力を発動し掛けて光を宿した右手を前に出したままで、動きが鈍い。


 あっという間にティアの間合いに入ったマリアベルは大剣を振り上げ叫ぶ。振り上げた大剣は刃を立てて剣の腹でティアを峰うちにする心算だった。


 「ティア、覚悟!!」



 間合いに入られ、絶体絶命のティア。しかし彼女は……。



 ティアは近付いたマリアベルに行き成り組み付く。


 “ガシィ!”


 「……流石に粘るな……。今、終わらせてやる……!」



 しがみ付いたティアに対しマリアベルは、大剣の柄で打ち付けようとする。



 「……この時を……待っていた……!」


 マリアベルにしがみ付いたティアは勝機とばかり、光を放つ右手を地面に向け叫ぶ。


 「火砕……!」


 そう叫んだティアは右手を一層輝かせ、火炎魔法を放とうとする。



 度重なるダメージを受けて動けなくなっていたティアは、マリアベルを倒す為に、彼女が近づく一瞬を待っていた。


 その為、敢えて遠距離攻撃を重ねて、マリアベルを誘ったのだ。


 下級魔法とは言え、秘石を発動したティアの魔法の威力は上級魔法を遥かにしのぐ。

 

 至近距離で放つ魔法なら、流石のマリアベルも倒せる筈……。そう踏んだティアだったが、自分自身も魔法を喰らう覚悟だった。



 無謀な玉砕戦法だったが、動けずまともに戦えないティアに残された最後の手段だ。


 そんな危険すぎる状況にマリアベルが起こした行動は……ティアも予想外な事だった。



 ティアが地面に向け魔法を放った瞬間――マリアベルは組み付いていた彼女を突き飛ばした。そして……。


 “ドガァァァン!!”


 マリアベルの真下で炸裂した火炎魔法は彼女諸共に爆発した。


 ティアはマリアベルに強く突き飛ばされたお蔭で、難を逃れ……呆然と爆発により生じた炎を見つめる。


 ティアは一瞬、何が起ったのか理解出来なかったが……、マリアベルがティアを守る為に突き飛ばして庇った事に気が付いた。



 炎が収まり、土煙が舞う中……爆発により吹き飛ばされ地面に転がっていたマリアベル。



 そんな彼女を見つけて、ティアは思わず叫ぶ。


 「な、何で……! 何でこんな事を……マリアベル!」


 ティアの叫びで気が付いたのか、マリアベルは鈍い動きで、フラフラしながら何とか立ち上がった。

 

 爆発によるダメージを鎧越しとは言え、マトモに喰らったマリアベルは……その所為か、鬼化が解けている。


 体全体で息をしており、彼女も大きなダメージを受けた様だ。



 「……どうして……私を庇った……?」


 「い、今のお前に……アレは無理だろう……。そう思ったら、体が動いてしまった……。お前に何か有れば……レナンも耐えれんからな……」


 驚きながら問うティアに、マリアベルは辛そうに答える。


 「マリアベル……アンタ……」


 「さぁ、決着を付けよう……!」


 「……の、望む所よ!」


 マリアベルはそう言って大剣を構え、ティアは右手の秘石を発動させる。


 「ハアァァ!」


 「うおぉお!」


 大声と共にマリアベルは、駆け出し大剣を振り降ろす。ティアは声を上げながら紅い光を纏わせた右手で迎えうつ。

 

 ティアとマリアベルは互いの攻撃を受けて、双方とも大きなダメージを受けていた。


 ティアは満足に動く事が出来ず、マリアベルは鬼化が解け足元もふら付いている状態だった。


 動けないティアは、繰り出されるマリアベルの大剣の腹を右拳で殴り、軌道を変える。


 一方のマリアベルは魔法の直撃を受けた所為で、鬼化が解けダメージも大きかったが、負けじと大剣を振るう。


 “ガン! ゴン! ガゴン!”


 振るわれるマリアベルの大剣を、ティアは紅い光を纏う右手でいなす……、そんなギリギリの攻防を続ける二人。


 そして……。


 “ガイン!!”


 大剣の腹を思い切り、右拳で打ち上げたティア。がら空きになったマリアベルの胴に、全身の力を振り絞り蹴りを入れた。


 “ズサアァ!”


 蹴りを受けたマリアベルは、後方に引き離される。


 「……大した、気概だ……。実に素晴らしい……」


 「ハァ、ハァ……! 此処まで来て……! ア、アンタには負けられない!」


 「……私も、お前にだけは負けたくないな……。戦士としても、女としても……だが、お前との戦いは……正直、楽しませてくれる」


 「……そう、ね……アンタとの戦い……私も同じ、気持ちよ……。だけど!」


 「ああ、分っている……! 互いに決着を付けねばな! 次で終わらせてやる!!」


 「の、望む所よ……!」



 大剣を向けて叫ぶマリアベルに対し、ティアも右拳を構えて答える。


 互いにダメージを受けながら戦ってきた二人だったが、次に繰り出す攻撃が、最後の一撃と、二人は分っていた。



 最後の攻撃を、今まさに繰り出そうと二人がした時――



 “バサァ!!”


 ティアとマリアベルの間に……真黒い何かが割って入ったのだった。


一部見直しました。

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