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20)守る為の嘘

 ――レナンが腐肉の龍を消滅させてから一週間が経過していた。


 セネ村近くのホルム街道に刻まれた恐るべき破壊の痕跡を眺める者達が居た。


 「……ここか……ライラよ……」

 「はい、トルスティン閣下……(まさ)しくこの場所でレナン様が龍を強大な魔法で消し去りました」


 女性騎士ライラに問うたのはレナンの養父でアルトリア伯爵家当主のトルスティンだ。次いでトルスティンは静かに呟く。


 「成程……聞くと見るとでは実感がまるで違うな……確かに此れは想像を超える光景だ」


 トルスティンの呟きを(さえぎ)るかの様に驚愕した様子の声色が割って入る。

 

 「ば、馬鹿な!……ラ、ライラ……君は此れをレナン一人がやったと言うのか!?」


 「恐れながら、エミル閣下。私自身もこの目で見ており間違い御座いません。ティア様をお守りする為、レナン様は右腕から不思議な力を放ち……大地ごと龍を滅ぼしました」


 信じられないと言った様子のエミルに対し近衛騎士副隊長のダリルは淡々と事実を話す。


 レナンが大地に刻んだ何処までも続く破壊の痕跡……この惨状を前に集まっているのは領主トルスティンと、その嫡男でレテ市の領主エミル、そして護衛騎士のライラと近衛騎士副隊長のダリルだった。


 4人はレナンが滅ぼした腐肉の龍について現地で状況を検証していた。


 レナンが腐肉の龍を駆逐(くちく)した経緯は極秘扱いになっている為、この場所には4人だけで来たのだ。


 興奮したエミルをトルスティンは(いさ)める。


 「落ち着け、エミル……所でライラ、この顛末(てんまつ)を知っているのはお前達騎士以外にアルトに来ている若い冒険者の二人だけか?」


 「はい、閣下。その冒険者はバルドとミミリという若者達です。レナン様とティア様の共通の友人であり、信頼出来る人物達かと」


 ライラの返答にトルスティンは満足そうに頷き、答えた。


 「……分った、私もその二人に一度話を伺おう。まぁティア達の友人なら問題無かろう……所で皆、そろそろセネ村に戻るとしよう。他の者達が心配する」


 トルスティンの指示で一行はセネ村へ向かう。




  ◇   ◇   ◇



 

 セネ村に到着した一行を村長のグーセフが迎えた。


 「おお! トルスティン様、ご視察より良くぞお戻りに為られました……何も無い所ですが我が家でお寛ぎ下され」


 「いや、構わないでくれ。それよりかグーセフ殿、エミルと話せる個室を用意して貰えないか?」


 「は、はい! 宿屋の一室を用意させます。ご案内致しますので、どうぞ此方へ」


 グーセフはそう言ってトルスティンとエミルを連れて宿屋に向かった。



 レナン達が訪れた際の村は腐肉の龍に破壊されていたが、現在は大工や村人達により復興工事が進められている。その様子を見たトルスティンが呟く。


 「……大分、工事は進んでいる様だな」

 「トルスティン様やエミル様の手厚い支援のお蔭です……それに……レナン様達がこの村を救って下さった……ほんに有り難い事じゃ……」


 案内するグーセフの言葉にトルスティンは頷いて見せた。やがて宿屋に付いたトルスティンはエミルと共に一室に案内された。





 質素なダイニングテーブルに向かい合って座る二人だったが、エミルが父に切り出した。


 「……父上はよくティアとレナンの婚約を御認めになりましたね? アレは絶対ティアの思い付きですよ……はぁ……」


 エミルは溜息を付いて父トルスティンに問うた。対する彼の返事は意外なモノだった。


 「フフフ……かも知れんな……だが、私はこの流れは僥倖(ぎょうこう)だと思っている」

 「?……どういう事ですか?」


 父の意図が読めず、エミルは問い返す。するトルスティンは笑顔で返答した。


 「……ティアは見合いから逃れたいだけだろうが……アイツ自身レナンの事は本心では大切に想っている。対してレナンもティアの事を女として見ている様だ。互いの息が合うティアとレナンなら良き夫婦になるだろう……それが最も大事な事だが……もう一つ理由が有る。二人が夫婦になれば、レナンはこのアルテリアで静かに暮らせる……」


 「レナンが? ティアでは無く?」


 父の言う意図がまるで分らないエミルはトルスティンに問うが、彼は真面目な顔で、懐から赤い封蝋がされていた手紙を出して、エミルに見せながら言う。


 「……この信書の内容と私が今から言う事は絶対に他言無用だ。お前に聞く覚悟が無ければ忘れろ。事によってはアルテリアの存続に関わるかも知れん」


 「お任せ下さい、これでも僕はアルテリア伯爵家の嫡男です。アルテリアの存続に関わると遭っては(なお)(さら)、引けません」


 そう言ったエミルにトルスティンはニヤリと笑って見せて、先ずは手紙を渡した。


 「……拝見します、父上……この封蝋は紛れも無くロデリア王国の……こ、これは……父上、一体どういう事でしょうか?」


 エミルが驚いたのは当然の事だった。信書はこのアルテリア伯爵領が属するロデリア王国から送られた物であり、その内容が……。


 「そうだ……この信書は王都から送られた物だ。信書には“銀の髪と赤き眼を持つ少年を確保し、速やかに王都に移送する事”とある……どう考えてもレナンの事だろうな」


 「な、何故レナンを……そうか……龍を滅ぼした、異界の力を欲して……」


 声を低くして話すトルスティンにエミルは王国の真意を理解し呟く。対してトルスティンは頷いて続けた。


 「……この信書が届いたのが4日前だ。私は王都の意図が知る為、魔鳥を使い王城に務める友人に聞いてみた。その結果、この信書はロデリア王国の全域に送られた訳では無く、このアルテリアが有る東南部を中心とした東部、南部の領地に送られたとの事だ」


 「……それでは王都では龍の事を把握しているという事ですか?」


 父の言葉にエミルは問い掛けるが、トルスティンは首を振り答えた。


 ちなみに魔鳥とは知能が高く帰巣本能がある魔獣の鳥を利用した長距離通信の事だ。鳥形魔獣の為、非常に早くそして長距離間を飛ぶ事が出来た為にギルドや領主館や王城等で盛んに利用されていた。


 「……どうやらそうでは無い……実は……」


 トルスティンはそう言って自分が掴んだ情報をエミルに伝えた。トルスティンが彼に聞かせたのは次の様な内容だった。


 王城には神託を王に伝える巫女が居るが、その巫女が6日前に新たなお告げを受けたと言うのだ。


 神託の内容は“銀の髪と赤き眼を持つ少年が白き光を(まと)い勇者と為りて王国を救うだろう”という事らしいが……。


 「……私は、この神託が胡散(うさん)臭いと考えている……タイミングが良すぎるのだ。しかも巫女は勇者が現れる場所まで指定したと言う。現在、このロデリア王国はエイリア大陸西部のギナル皇国に脅かされている……王城としては勇者とやらの力を持って、皇国に対する抑止力にしたいのだろうが……勇者に待っているのは兵器として扱われる日々だ」


 「……父上……如何される御心算ですか?」


 エミルは父が語る言葉に不穏な流れを感じて問うた。対してトルスティンは……。


 「……このアルテリア伯爵家当主としては、王命に従いレナンを王都に差し出すのが正しい事だろう……」


 トルスティンはそう呟いた後、エミルの目を真っ直ぐ見て力強く答えた。


 「だが私はレナンの父だ。アイツを使い捨ての剣等にはさせない。エミル……これから私がやろうとしている事は一切お前に関係無い事だ。全て私一人が考えた事、私に何か有った時はお前が当主としてアルテリアを守れ。その為に少し早いが家督をお前に譲ろうと思う」


 「ち、父上!!」


 トルスティンの強い覚悟を聞いたエミルは大声で父を制止する。対してトルスティンは笑顔で話す。


 「……無能な当主で済まない……だが、私は墓前でマリナとエンリ殿にレナンを守ると誓ったのだ……。許せ……」


 そう言ってトルスティンはエミルに頭を下げる。対してエミルは子を思う父の姿に涙を流し、トルスティンの手を取るのだった。




 こうしてトルスティンは王命に反しレナンの存在を隠した。彼が行なった事はレナンの髪を黒く染め、取敢えず付け毛で前髪を伸ばさせ赤き瞳を隠させた。


 そしてティアとの婚約を公式に発表し黒い髪で瞳を隠したレナンとティアの姿絵を、王城を始めとする各地に送った。


 又、レナンは王都の学園に行かせず、アルテリアで過ごさせた。最後にトルスティンは病気を建前に嫡男のエミルに家督を譲り自身は隠居したのであった。


 トルスティンはレナンの銀の髪と赤き眼を隠し、異界の民である事を隠し通そうと考えていた。しかし王都には、トルスティンの策を狡猾に見抜いていた者達が居た……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話投稿は明日になります。宜しくお願い申し上げます。


読者の皆様から頂く感想やブクマと評価が更新と継続のモチベーションに繋がりますのでもし読んで面白いと思って頂いたのなら、何卒宜しくお願い申し上げます! 精一杯頑張りますので今後とも宜しくお願いします!


追)一部見直しました!

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