206)武闘大会-36(決勝戦⑥)
掛けて来た二人の騎士から王都で発生した火災の報せを受け、現場へ急行しようとしていたソーニャ達白騎士隊。
そんな中、王都の方を気にして窓を見ていた騎士の一人が、何かに気が付き大声を上げた。
騎士の大声を受けたリースはコロシアムと反対側の窓に駆け寄り、その場に居た全員に叫ぶ。
「た、大変! ひ、人攫いですよ!」
彼女の声で全員が回廊の窓から外を見ると……馬車に二人の若い女性を詰め込んでいる男達の姿が見えた。
「……追うぞ! お前達、付いて来い!」
その様子を見たべリンダが全員に向け叫びながら駆け出そうとしたが……ソーニャが止めた。
「待ちなさい……! 全員で向かえば、火災への対応が手薄になります! べリンダはこのコロシアムに居る騎士を集め、現場に向かって! リースは状況を陛下達に報告の上、ベリンダと合流! 可能ならマリアベルお姉様にもお伝えなさい! 賊は私が追います……!」
「しかし、お前一人では……!」
「……なら、自分が共に向かいましょう」
一人で追うと言うソーニャに、べリンダが制止する中……騎士の一人が声を上げた。
「分ったわ、付いて来なさい! 貴女達、後はお願い!」
ソーニャはべリンダ達に声を掛け、騎士と共に駆け出した。べリンダとリースは互いに目配せして自分がやるべき事の為、其々が行動を開始する。
賊を追う為、騎士と共に走るソーニャは、駆けながらコロシアムで戦っている最愛の姉に勝利を祈る。
(マリアベルお姉様……王都の事は私達にお任せを! ですので、安心して勝って下さい……!)
そう願いながら駆けるソーニャ。
だが、彼女はまだ気が付いていなかった……。自らが大きな危機に飛び込んだ事を……。
◇ ◇ ◇
一方、コロシアムにて……ティアは鬼化して軽く本気を出したマリアベルに幾度となく叩き潰され、地面に転がされた。
絶望的な状況の中、レナンの声援を受けたティアはボロボロになりながら、何とか立ち上がる。
しかし、何とか立ち上がっただけ……。最初に剣は折れ……駆ける事は無論、もはや満足に歩く事すら叶わなかった。
だが、ティアは諦める心算は無かった。レナンが……自分を見てくれているからだ。彼を取り戻すと決めて迎えた、この決勝戦。
彼が見ている前で、もはや心折れる事等有り得なかった。
血を流し震えながら立ったティアに、マリアベルは声を掛ける。
「……よもや、立ち上がるとは……。その闘志、誠に見事……」
「な、何よ……ず、随分と……上から、目線ね……。も、もう勝った……つもり?」
感嘆しながら掛けられたマリアベルの言葉に、ボロボロのティアは不敵な笑みを浮かべながら答える。
だが、その強気な言葉も……受けたダメージが大きい為か、途切れ気味だ。
「一体、何がお前をそれ程に強くする? ……いや、問うまでも無いか。自らを縛るしがらみを構わず、お前の名を叫んだ“彼”の為か……」
「……あ、当り前よ……。それ以外に……な、何が有るって……言うの?」
「お前の言う通り……“彼”、レナン程……尊い男は居ないな。だが……忘れるな、経緯はどう有れ、お前はレナンを捨てたのだ。そしてレナンは我が夫となる男。
これは、もはや決まった事だ。今更、お前が足掻いた所で……全ては無駄な事。それでも抗うのか……?」
呟いたマリアベルにティアは息も絶え絶えに答えるが、マリアベルは彼女の罪を抉り覚悟を問う。
「……た、確かに……私は、一度はレナンを捨てた……。た、例え貴女達に騙されたとしても……どんな言い訳をしても、それは覆られない事実……。でも、それは私の罪よ!
む、無理やり、貴女達に連れて行かれた……彼には何の咎も無い! だから、私は……命を賭けてでもレナンを取り戻す……!」
ティアはそう叫んだ後、右手をマリアベルに向け差し出して、秘石を発動させた。
“キイイン!”
「火砕!!」
ティアが大声と同時に、右手から大きな火炎弾がマリアベルに向け放たれた。
「オオオオ!!」
マリアベルは大剣で、迫る火炎弾を切り裂いた。切り裂かれた火炎弾は二つに分かれて、其々が地面に激突し爆発する。
“ドガガガン!”
「上手く行ったか……。私はな、ティア。来るべきお前との戦いに対して……如何に戦うか常に考えて来た……。今の様にな……。お前の火炎は恐ろしいが、切り裂いてやれば良い!」
そう叫んでマリアベルはティアに向けて駆け出そうとするが、ティアは右手を地面に付け次の技を仕掛ける。
「……ほ、炎よ、砕け!!」
ティアの大声と同時に、彼女の右手からユラに向けて直線状に、地面が炎を吹き出して爆発した。
ユラ戦で見せた大技だ。自分に向かって迫り来る爆炎にマリアベルは……。
「……この技も、先の試合で見たぞ! 砕け、鬼刃裂破斬!!」
そう叫んでマリアベルは大剣を振り降ろす。すると振り降ろした大剣より赤黒い光がほとばしり、迫る爆炎に激突する。
“ガガガアン!!”
ティアの放った爆炎とマリアベルの剣技がぶつかり合い、地を揺るがす轟音を立てて爆発した。
爆発により土煙が立ち込めるが、やがて収まると……そこには、鬼化した状態で余裕そうに大剣を構え立つマリアベルと……膝に手を置いてやっと立っているだけのティアが居た。
ティアは下を向き、動けそうに無い。技のぶつかり合いで生じた爆発にやっと耐えた状態の様だった……。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は9/20(日)投稿予定です! よろしくお願いします!