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205)武闘大会-35(決勝戦⑤)

 「……ティア……! 諦めるな!!」


 ティアに向けて叫ぶレナンの声。その力強く大きな声を、ソーニャはコロシアムの回廊で聞いていた。



 ソーニャはふと、回廊の窓からコロシアムの方を見ると……マリアベルから徹底的に攻撃され、ボロ布の様になりながらバッタリと倒れていたティアが立ち上がろうとしている所だった。


 「……全く、無駄な足掻きを……」


 ティアが立ち上がろうとする姿を見て、ソーニャは敢えて周囲に聞こえる様に忌々しげに話す。


 「確かに……だが、本気を出したマリアベル様の攻撃を受けて……立ち上がるとは大した奴だ」


 「そうねー、でも最初に会った時から比べたら……凄い進歩してるよ。ジョゼに聞いたら毎日頑張ってるみたいだし……」


 ソーニャの言葉を聞いて、同じ様に立ち上がるティアを見つめながら白騎士のベリンダとリースが答える。



 ソーニャを含めた白騎士達は、突然姿を消したツェツェンを警戒して手分けして見回りをしている最中だった。


 オリビア達、他の白騎士達は別な騎士達を率いて王都を見回っている。


 残ったソーニャやべリンダ、リースの三人はコロシアム内の見回りをしている次第だった。


 ベリンダとリースの、ティアを擁護する言葉を受けてソーニャは釘を打つ。彼女達がティアに対して気に掛ける気持ちはソーニャには分っていた。


 そして、それが間違って無い事も……。


 しかし、ソーニャは……ソーニャだけはティアに賛同する訳に行かなかった。


 「……貴女達、敵に塩を送る様な真似はおよしなさい。ティアはマリアベルお姉様と戦ってるのですよ。ティアがお姉様に挑む理由は唯一つ。レナンお兄様を取り戻す為ですわ。今やレナンお兄様はマリアベルお姉様のモノ……。経緯はどう有れ、大恩あるお姉様からレナンお兄様を奪おうとする……そんなティアを私は、私達は……応援する訳には参りません」


 「まぁ、我等の立場からすれば、そうなるか……」


 「……うーん、そうなんだけど……」


  丁寧にキッパリと言い切ったソーニャの言葉に、苦笑を浮かべながらベリンダは止む無くと言った様子で同意し、リースは微妙な返事を返した。


  二人の気持ちは、ソーニャには何と無く分っていた。彼女達の心中は“そこまで敵視しなくても……”と言った所だろう。


 実はソーニャも同じ気持ちだった。しかし何より愛するマリアベルの為……そんな態度を示す訳には行かなかった。



 「レナンお兄様にも、いい加減困ったモノですわ。ご自分の立場を今一度、ご理解頂きたい所です。お兄様がティアを擁護する態度を取れば、周囲に動揺が広がります。再度、私の方から注意させて頂かないと……」


 ソーニャは、如何にも“困っている”と言う表情を浮かべ、レナンに対しても苦言を言う。


 こうした態度もソーニャのアピールだ。本当はレナンの事を“兄”とは本気で思っていない。



 出会ったばかりの、しかも自分より年下の少年……。そんな彼を義理とはいえ兄と呼ぶ事は年頃の少女なら戸惑う筈だ。だがソーニャは、何の躊躇も無くそうした。


 全てはマリアベルの為――。彼女が望む事なら……どんな事だってソーニャはして見せる覚悟だったからだ。




 だからこそ……“彼女”の事は気になって仕方が無かった。



 ソーニャはその“彼女”――ティアを今一度、回廊の窓から見つめる。


 窓の外のティアは額から血を流し、肩で息をして中腰で漸く立ち上がった状態だった。


 およそマトモに戦う事が出来ない筈の彼女。にも拘らず、ティアは諦めていない。勝てる訳が無い相手……マリアベルに対し、まだ戦う心算だ。



 「……往生際が悪い……」


 ソーニャは聞こえる様に“アピール”しながら内心は全く別の事を考えていた。



 “彼女は……私と同じだ”と。



 自分が大切に想うレナンに対して、命を賭けて足掻くティア。彼女とマリアベルに尽くすソーニャ。


 二人の行動は、方向性は違っていても、想いは全く同じだった。



 だからこそ、ソーニャは、この戦いでティアが折れない事を誰よりも理解していた。何故なら、自分も愛するマリアベルの為になら、ティアと同じ様に戦う心算だからだ。


 (……やはり、立ち上るのね……。それでこそ……貴女だわ……)



 ボロボロになりながらも立ち上がるティアを見て、ソーニャは決して他人には明かせない彼女への想いをぼんやりと脳裏に浮かべる。


 ソーニャは立場上距離を置きつつも、ティアの事が気になって仕方が無かった。もし、戦う相手がマリアベルで無ければ、ソーニャは表立ってティアを応援していただろう。



 ソーニャはこのままマリアベルとティアの戦いを見ていたかったが……状況が、それを許さない。


 丁度、ソーニャが窓から離れ見回りを再開しようとした時だった。


 「ソ、ソーニャ様……! 大変な事が!」


 ソーニャ達の背後から大声で呼ぶ声がする。3人が振り返ると騎士が二人、真っ青な顔を浮かべて走ってくる所だった。

 


 

 ◇◇◇




 「……王都で火事!?」


 「は、はい……! 火の手は、地下より発生している様で勢いも激しく……消火も困難との事……! 現状は住民の避難を進めながら火災の対処を行っている次第です!」


 「状況は分りました。私達もすぐに向かいま……」


 「な、何だ!? アレ!?」



 息を切らしながらソーニャ達の元へ来た二人の騎士。


 彼等が伝えた衝撃の事態に驚く、ソーニャだったが、務めて冷静に対処しようと話している所で……。


 王都の方を気にして窓を見ていた、もう一人の騎士が素っ頓狂な声を上げるのだった。



いつも読んで頂き有難う御座います! 


追)誤字を修正しました!

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