204)武闘大会-34(決勝戦④)
秘石を発動し襲い掛かって来たティアに対し、マリアベルは彼女の腕を掴んで地面に転がした。
転がったティアにマリアベルは間髪入れず大剣で斬り掛かる。対してティアは虚を突かれて転がされて体勢が整っていない。
「クッ!」
“ガイン!”
ティアは右拳で大剣を横から殴り、軌道をずらした。そしてティアは転がってマリアベルの足元から距離を取り、起き上がって体制を整える。
「……流石だな……これなら様子見はいらんか……」
「よ、様子見!? ふざけないでよ!」
マリアベルは自らの攻撃が躱された事に感嘆しながら呟くが、ティアは“様子見”と言われた事に激高し叫ぶ。
「ふざけて等無いさ……。私自身、こうなってしまえば加減が難しい。この状態で本気を出せば……お前を殺しかねんからな。だから、抑えていたが……この分なら、もう少し行けそうだ……」
そうマリアベルが呟いた瞬間――。ティアの視界から彼女の姿が消えた。
「え……」
突然消えたマリアベルに戸惑うティアだったが……。
“ドガァ!!”
「アグゥ!!」
突然、真横から凄い衝撃を受けて吹き飛ばされた。
地面を転がり止まった先で、痛みを堪えながら顔を上げると、さっきまで自分が居た所に赤黒い光を纏わせ鬼化したマリアベルが赤い光を纏いながら立っている。
理解が追い付かないが、一瞬で間合いに入られ突き飛ばされた様だ。大剣で斬られなかったのは完全にマリアベルの手心だろう。
全く見えなかったマリアベルの動き。彼女が言った通り……鬼化した後、本気を出していなかった様だ。
「……ま、まさか……本当に……」
彼女はは転がされた痛みに耐えながら、何とか立ち上がる。そしてマリアベルが言った事が本当だった事に、ティアは絶望しながら呟く。
だが、マリアベルはそんな一時すら待つ気は無かった。
“ヒュン!”
マリアベルは又もティアの視界から消え……瞬く間に眼前に現れた。突然現れたマリアベルに驚く間も無く、ティアの体は宙に舞った。
投げ飛ばされたと気が付いた時には遅く……ティアは地面に激突する。
“ダアアン!!”
「ハグゥ!!」
地面に激突したティアは痛みに悲鳴を上げる。今度は体に負ったダメージで動けそうに無い。
投げ飛ばされ激突した地面に横たわりながらマリアベルの方を見ると……彼女は赤い光を纏わせながら、悠然とティアを見下ろしていた。
そのマリアベルが屈んで身を低くした瞬間――。又も彼女の姿が消え……その直後にティアを襲う衝撃。
“ドウン!!”
衝撃を受けたと同時に、ティアは吹き飛ばされる。左腕に酷い痛みを感じた事より、今度は大剣の腹で体の左側を打ち付けられた様だ。
そんな事を理解する間にティアの体は又も、地面に叩き付けられる。
何度も大地に叩き付けられたティアは、もはや指一本動かす事が出来なかった。鬼化したマリアベルはティアにとって強過ぎたのだ。
鬼化した後、少し本気を出したマリアベルはその後、ティアに向かい大剣で斬りかかっていない。
確実にティアを殺してしまう為に、マリアベルは手心を加えているのだ。
ティアは自分とマリアベルの間に圧倒的な差が有る事を理解した。
(……つ、強すぎる……! これが……これが本当のマリアベルの姿……! こんなの……どうしようも……無いよ……)
“彼女には勝てない……”そんな諦めが頭をよぎった時、ティアは激しい衝撃を受ける。
“ドオゥ!!”
動けない為、防ぐ事も感知する事も出来なかったが……、一瞬で間合いに入ったマリアベルがティアを蹴り上げたのだ。
人外の力を持つマリアベルに蹴り飛ばされたティアは、毬の様に浮き上がり宙に舞う。そして、コロシアムの端まで飛ばされ派手に地面に激突した。
“ダダアン!!”
今までで一番大きな激突音を立ててティアは地面に激突する。
途中からダメージで動けなくなっていたティアは起き上がれる筈も無く……強い痛みで震えるしかなかった。
(……痛すぎて……逆に意識が、はっきりするよ……。前にもこんな事……有った様な……。ダメだ、思い出せない……)
痛みの所為だろうか、ティアは意識だけは失う事無かった。このまま気を失えばどれ程楽だろうか、と思う程の激しい痛みだった。
気を失う事も許されない痛みの中、ティアは他人事の様にぼんやりと考えていた。
(……マリアベルには、勝てない……。どこかで、分ってた気がする……。もう、良いかな……痛いし……このまま……目を、瞑って……眠ってしまいたい……)
ティアは圧倒的なマリアベルの力に身も心も砕かれ、諦めの境地に至って横たわっている最中――
その声は響いた。
「……ティア……! 諦めるな!!」
その声を聞いた瞬間、ティアは電撃に撃たれた様な衝撃を受けた。
彼女は横たわったまま動けないが、それでも痛みに耐えながら、声が響いた方へ何とか顔だけを向ける。
声が響いた方にはコロシアムの観客席が有り、沢山の見物客が試合の成り行きを見守っていた。
いずれも興奮と歓喜に満ちた顔を浮かべておりティアを心配する者など誰も居そうに無かったが……。
その中に一人だけ、観客席から身を乗り出し必死な顔で叫んでいる少年を見た時、ティアは涙が溢れ出た。
そして彼女は寝転んで等居られないと傷付いた自分を奮い立たせる。
ティアが見たのは……一際豪奢に作られた観客席から騎士達の制止を受けながらも身を乗り出し、真っ直ぐ自分を見つめる少年……レナンの姿だった……。
一部見直しました。