203)武闘大会-33(決勝戦③)
「……やっぱり、こうなったか……」
マリアベルとティアの決勝戦を見ていたクマリは呟く。
対して強者と戦う事を喜びとするオーガ族の血を引くマリアベルに対し、秘石による力と絶え間ない努力で実力を大きく伸ばし続けているティア。
クマリは強くなったティアに対し、強者との戦いを望むマリアベルが本当の力を出す事に……彼女は弟子の成長を嬉しく思う反面、そのティアが叩き潰されるのでは無いかと、と言う恐れで複雑な心境だった。
8か月前はティアが此処までの実力を得るとは、クマリ自身も考えてはいなかった。
だから、当初の策ではティアにはマトモにマリアベルと戦わず、本気を出せない彼女に対し隙をついて勝利する様指示していた。
しかし、もはやそれは叶わない。ティアとマリアベルは本気で戦い合うだろう。
クマリの横ではミミリやバルド達は心配そうにティアを見つめている。
彼女達は、マリアベルが本気を出して鬼化した所を幾度か目の当たりにしている。
その時の恐怖を思い出し、鬼と化したマリアベルとティアが戦い合う事に心底心配しているのであろう。
しかし、師匠のクマリはティアを信じていた。何故ならクマリは彼女と出会い、その覚悟を知ったからだ。
騙されて自ら手放してしまったとは言え、ティアはレナンを取り戻す為に命を賭けて這う様に足掻き続けて来たのだ。
その事を一番近くで見て来たクマリは、鬼化しようとしているマリアベルの前で対峙する弟子を見つめ、拳を握り締めながら囁く様に呟く。
「……お前ならやれる、馬鹿弟子……」
その声は、ティアを叱りつける普段のクマリとは異なり、何処までも優しい声だった。
◇◇◇
「オオオ!」
雄叫びを上げ、鬼化を続けるマリアベル。
暫くすると、その身に赤黒い光を纏わせ鬼化が完了したマリアベルが其処に居た。
「そ、その姿……確か……」
「……ダイオウヤイト討伐の際、お前にも見せたな……。我が身に流れる鬼の力を開放した姿だ……」
赤黒い光を纏わせた異様な姿のマリアベルを見たティアは震える声で呟く。ティアはマリアベルが鬼化した姿を見るのは初めてでは無かった。
対してマリアベルは静かに語る。今の彼女は8か月前のダイオウヤイトによる王都襲撃の際、見せた姿だ。
あの時、鬼化したマリアベルは巨大なダイオウヤイトを一撃の元に両断する等、恐るべき力を示したのだ。
その事を思い出したティアは、その力が我が身に振り掛かる事に恐怖し身震いしながら呟く。
「わ、私も……真っ二つにされちゃいそうだね……」
「ククク……殺しはしないさ……だが、一瞬で終わってくれるなよ……!」
そう叫んだマリアベルは大剣を片手に背負い、獣の様に身を低くして……ティアに飛び掛かった。
“ギイン!!”
一瞬でティアの間合いに入ったマリアベルは大剣を彼女に叩き付ける。対してティアは剣で受けたものの、叩き付けられた衝撃で後方に吹き飛ばされた。
“ズシャァ!”
「う、うぅ……」
吹き飛ばされたティアは地面に激突した跡、派手に転がり漸く止まった。その衝撃で既に大ダメージを喰らったティアは、痛みで呻きながら何とか起き上がろうとした。
「あぐ……こ、こんな事で……終われ、ない……!」
渾身の力を振り絞り立ち上がったティア。負けられない、と言う気力で剣を構えようとした時……手にした剣を見てギョッとした。
「!? け、剣が……折れている!?」
ティアの剣は、中程で半分に折れてしまっていた。彼女が自分が居た場所を見れば、残りの折れた刃先が地面に転がっている。
本気になったマリアベルの斬撃を受けた際、ティアの剣は一撃で折れてしまったのだ。
「……どうする、降参するか……?」
折れた剣を見て、一瞬呆けたティアに、マリアベルは近付きながら静かに問う。
「まさか、冗談じゃ無いわ……剣が無くったって私は戦える!」
「見事な覚悟だ、ティア……ならば、遠慮せず行かせて貰う!」
問いに力強く答えたティアを、称賛したマリアベルは大剣を構え、追撃態勢に移る。
対してティアは折れた剣を収め、秘石が宿る右手に精神を集中させて、その力を引き出した。
“キイイイン!”
秘石の発動と共に、甲高い音と共にティアの右手に紅い光が纏わり付く。対してマリアベルは何時でも飛び掛かれる身を低くしている。
最初に動いたのはティアだ。本気を出したマリアベルに対し後手に回るのは危険だと判断した彼女は、マリアベルに向け矢の様に駆け出した。
瞬く間に間合いに入って来たティアに対し、マリアベルは大剣で薙ぐ。鬼化したマリアベルの大剣は、ダイオウヤイトを綺麗に両断して見せた。
ティアもマトモに喰らえば、同じ運命を辿るだろう。迫る大剣に対し、ティアは膝を地に付け、上半身を大きく逸らして躱す。
鼻先に大剣が通り過ぎ、ゾッとしながらティアは大剣を振り抜いて無防備になったマリアベルに殴り掛かる。
秘石を発動したティアの右拳も、マリアベルの大剣と同じく危険な代物だ。ダイオウヤイト討伐にて、共闘したマリアベルはその危険性を良く理解していた。
襲い来るティアの右拳を、マリアベルは左手で掴み自らの身を廻して、ティアを足元に転がし、間髪入れず大剣で斬りかかるのだった……。
一部見直しました。




