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198)武闘大会-28(ツェツェンと言う男)

 準決勝試合開始後、きっちり3分でギブアップしたツェツェン。それによりティアは決勝戦に進む事が出来た。



  しかし、ティアは優勢だった筈のツェツェンが、あっさりとギブアップした事が許せず……試合終了後、控室に戻ろうとした彼に大声で呼び止める。



 「ちょっと! どう言う心算よ!!」


 試合放棄と言えるツェツェンの降伏に、ティアは激怒して彼に詰め寄った。


 「……どうもこうも無いですよー。だって3分経っちゃたんだから、終わりにしないと……」


 「さ、3分!? ふざけないで!」

 

 詰め寄られたツェツェンは試合時間を気にして、試合を自ら手放した事を迷惑そうに答えた。


 対してティアはそんなツェツェンの態度が許せず、激怒する。



 「まぁ、良いじゃないですか。貴女の目的は決勝戦に進む事……。僕は3分以上戦わないって決めてるし、貴女が勝った事になれば何の問題も無いでしょう?」


 「そんな投げやりな態度が許せないって言ってるのよ!」



 全く罪悪感を感じておらず答えるツェツェンに、ティアは声を張り上げる。彼女は決勝戦で待つマリアベルに勝つ為、本気で命を賭け戦ってきた。


 そんなティアにとって八百長を持ち込んだリゲルや、試合放棄したツェツェンの様な男は、どうしても許せなかったのだ。



 そんなティアに対しツェツェンは……。



 「面倒臭い人ですね、貴女は……。こう言えば納得しますか? 僕は、仕掛けた爆薬の罠を耐えられた貴女に対し、もう出来る事が無くて降参した、と。そう言う事で理解ください。それじゃ」


 「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 ツェツェンは抗議するティアに、適当な言葉を返した後……彼女をを鬱陶しそうに押し退けてその場を去った。


 納得しないティアは彼を呼び止めるが、ツェツェンは振り返る事は無かった。





  ◇   ◇   ◇





 「ククク……随分と叱られていたな……」


 選手専用の控室に戻ったツェツェンは、行き成り皮肉を言われた。声を掛けたのは商人風の男だ。


 控室にはツェツェンを除いて数人の男が居るが……安っぽい皮鎧を着た冒険者や、商人と言った、何処にでも街に居る格好の者達だった。


 しかし、何れも眼光鋭くガッチリした体格をしており、服装との違和感を感じさせる。


 「ふん、全く鬱陶しい女だよ、勝ちだの負けだの、僕にはどうでも良いと言うのに……」


 「其れはお前が悪い……。試合なんぞに出て煽るからだ。そんな事より……どうだ、“やれそう”か?」



 腹立たしそうに答えるツェツェンに、商人風の男は問い掛ける。


 「……問題無いよ。そっちはどうだった?」


 「ああ……随分と虐められて、楽しい事になっていたが、死んではいなかった。使い物になるかどうかは、出してからの話だな」


 「そうか……為らば、試合にこだわるティアさんの為に……最高に盛り上がったタイミングで決行しようか」


 「ククク、この国に取って歴史に残る建国祭になるだろう」


 ツェツェンと男達はそう言い合い、嫌らしく笑うのだった。




  ◇   ◇   ◇




 「全く、馬鹿にしてるわ!」


 自分の控室に戻ったティアは先程のツェツェンの態度を思い出し、盛大に文句を言っていた。


 「3分経ったから、試合を放棄!? きっとアイツ、試合を続けて負けるのが嫌だったんだわ! だから棄権したのよ!」


 「あの試合はティア様がずっと優勢でしたわ!」


 「そ、そうだよ! あのまま戦ってもティアちゃんがきっと勝っていたよ」


 そんな彼女を労いに来たパメラや、仲間のミミリ達が慰める。次は決勝戦と言う事で、この場にはリナやジョゼも集まっていた。そんな中師匠のクマリは……。



 「……いや、勝ちを拾ったのはお前の方かも知れんぞ、ティア」


 「え……?」


 「あの試合……奴は本気を出していない。ツェツェンと言う男、本気のお前と戦いながら、遊んでいた。今のお前は1級冒険者であるユラとまともに戦い合える力が有ると言うのに……。つまり、奴はお前よりも遥かに強い。下手したら私よりも……」


 「「「「…………」」」」


 クマリの言葉にティアを含めた、その場に居る全員が言葉を失う。



 「……それに、奴が言った蠱毒と言う風習だが……」


 「あ、あんなの! 私を動揺させる為の、嘘っぱちです! そ、そうに決まってる!」


 クマリの言葉に、ティアはきっぱりと言い切った。ティア自身はツェツェンの話を聞いた後、ティアは大いに動揺したが、彼の話を信じていなかった。いや、信じようとしなかったのだ。


 「お前は奴の話を信じようとしないが実際にその風習は存在する。但し、それはこの国の話じゃ無い。お前達も良く知る国でな……そう、ギナル皇国だよ」


 「「「「「!?……」」」」」



 クマリの言葉に、控室に居た全員が絶句した。敵国ギナルの風習を知る者がロデリア王国の武闘大会に参加している……。途端にキナ臭い話になって来たからだ。



 「蠱毒はギナル皇国の片田舎で行なわれていた風習だが……最近も皇国軍が取り上げて積極的に採用しているらしい。強い兵士を作り出す為にな……。

 蠱毒ってのは本来蟲とかヘビとかで殺し合う儀式だが……皇国軍がやらしてるのは同郷の子供達を一室に放り込んで、最後の一人になるまで戦わせるらしい。最強の兵士を作る為に……。

 それを何度も繰り返して作られた兵士は、人間らしい人格を持たず、一騎当千の戦闘力を得るって話さ。もし、お前が戦ったツェツェンって奴がそうだとしたら……奴の気まぐれでお前は死んでいただろう」


 「……うっ!」

 「ティアお嬢様!」


 クマリの話を聞いたティアは突然、吐き気を催して蹲る。試合中のツェツェンの言葉を思い出し、急に気分が悪くなったのだ。


 そんなティアを従騎士ライラが背中を摩り介抱しながらクマリに告ぐ。


 「クマリ殿! そのツェツェンなる男、このロデリア王国に仇成す可能性が有ります! 至急にマリアベル殿に報告せねば……!」


 「ああ、取りこし苦労であれば良いがな……。此処は私がマリちゃんに報告に行く。お前達はティアに付いてやれ」


 こうしてクマリは青い顏をして蹲るティアを置いて、ツェツェンの危険性を黒騎士マリアベルに報告に行った。


 事態を重く見たマリアベルは騎士達を連れ、ツェツェンの控室に向かったが……もはや其処は誰も居なかった。


 王都に不穏な影が忍び寄る中……マリアベルとティアの決勝戦が始まろうとしていた。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は8/23(日)投稿予定です! よろしくお願いします!


追)一部改正しました。

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