197)武闘大会-27(ツェツェン戦②)
爆発により立ち込めた煙の中……その中を突っ切ってティアに奇襲したツェツェン。
試合の中で、ツェツェンの嫌らしい戦い方を理解したティアは、油断なく剣を構えており、彼の奇襲を何とか防いだ。
しかし、彼の斬撃は強力で、その刃を受けているティアの剣が軋む。
「ぐっ!」
「良く防いだねー、上手く右手の力……使い熟せてるみたいだ。僕が見た皆は……あっと言う間に死んじゃったから、そこまで使えてる人初めて見たよー。……所でさっきの話の続きだけどー」
“キン! キキン!”
ツェツェンはにこやかな表情を浮かべながら、黒塗りの剣で、ティアに向け切り掛かる。対してティアは答える余裕なく、必死で剣を交えた。
「ティアさん、“蠱毒”って知ってるかなー? ヘビとか蟲とかを器に入れて、共食いさせる奴でね……」
“ドガア!”
「うぅ!」
ツェツェンは話しながらティアに向け回し蹴りを放つ。鋭い、その蹴りは何とかガードしたティアを下がらせる程だった。
「その“蠱毒”って僕の故郷では今でも、やってる風習でー。僕も友達や幼馴染の子と一緒に一部屋に入れられてさー。此れあげるよっと」
“ヒュヒュン!!”
懐かしむ様子で上を向きながら話しながら、ツェツェンは黒塗りの暗器をティアに向け放つ。
ティアは彼に答える余裕なく、放たれた暗器を何とか剣で払った。
「その時……いっぱい切ったのさー。大切な友達や幼馴染の子の手や足をねー。仕方無いよ。……自分が生き残る為には、他の人を殺すしか無かったからねー。気が付いたら僕が一人になってたんだ。皆いっぱい居たのに。はい、どうぞ」
「!? ま、また爆薬!?」
ツェツェンは軽やかに話しながら足を使いティアに迫るが、ティアは彼を牽制しながら距離を置く。
そんな中、ツェツェンは友人に菓子をあげるかの様に、爆薬をポンッとティアに向け放り投げた。
“ドドン!”
ティアは急に投げられた爆薬に、地を転がって回避した。ツェツェンはそれ以上追わず、試合中だと言うのに立ち止まって話す。
「……僕はね、さっき君が言った右手の話で、それを思い出したんだー。そういや、いっぱい切って殺したなーってね! 男も、女も、大人も、子供も……。それをティアさんに伝えようと思って」
「あ、あんた……何言ってんのよ……」
楽しげに大勢の人間を殺したと言うツェツェンに、ティアは心底気持ち悪くなり思考が停止する。
眼前に立つ……細目の冒険者は、人の皮を被った得体の知れないモノに思えてくるのだ。
試合においても優しげに穏やかに話すが裏腹に、卑劣でエグイ攻撃を仕掛けてくる等、言葉と行動が全く乖離している。
ツェツェンの言動は、全く感情の揺らぎが無く無機質だ。
「え、何言ってるのかって? 丁度3分前になってきた訳ですし……ティアさんが立っている所……凄く危険だよ」
「……え?」
ティアが理解の範疇を超えた存在であるツェツェンに戸惑う最中、彼は肩を竦めて朗らかに答えた。
ティアは彼が何を言ってるのかさっぱり分らず、困惑する。
「いやー、だからね、今3分になりましたから……もうこの試合は終わりにしましょうって話ですよ」
ツェツェンが話した後……まるでタイミングを見計らった様に、ティアの足もとが爆発する!
“ドドドドドン!!”
ティアが立っていた場所が行き成り爆発し、炎に包まれた。その火力は尋常では無く周囲に土煙が立ち込める。
ツェツェンは丁度3分でティアの今居た場所が爆発する様に、仕込みを入れていた。
試合途中にツェツェンがティアに向け投げた大量の爆薬が彼女の炎の剣によって爆発した時、煙と炎によってコロシアムは視界が悪くなった。
その際、ティアを吹き飛ばす為に予め地面にツェツェンは爆薬を仕掛けていた、と言う訳だ。
爆薬は予定通りのタイミングで爆発する様に、導火線を予め長さを調整されていた。
そしてティアは……ツェツェンが誘導する通りに所定位置まで動かされ、まんまと罠に掛かったのだ。
「ティアさんのお蔭で、昔を思い出して……燥ぎ過ぎましたねー。死んだらラッキーの心算で爆薬盛りましたが……天に召されたでしょうか?」
「……勝手に殺さないでくれる? まぁ、危なかったのは事実だけど」
爆発により立ち込めていた土煙が収まった後……爆発地点でティアが無傷で立っている。よく見れば、彼女の右腕が白い光を放っている。
先程と同じく、右手の力を使って爆発を凌いだ様だ。
「ほうほう! ティアさん、貴女はその忌まわしい力を使い熟せている様ですね! 他の実験体と違って……」
「さっきも思わせ振りな事言ってたけど……あんた……秘石の事を知っているの?」
「さぁ、どうでしょう? そんな事より……3分過ぎてしまいました……、はぁ……」
秘石に関して問い詰めるティアに、ツェツェンは“困った”と言った様子で肩を落とす。試合時間が3分超えた事を気にして居る様だ。
「答える気が無いなら! 叩きのめして聞き出すわ!!」
“キイイイン!”
どこまでも人を食ったような態度を取るツェツェンにティアは激高し、秘石の力を発動する。一気にカタを付け、力付くで問い詰める心算だ。
「……一瞬で終わらせる! はぁ!」
秘石の力を発動したティアは、その右手にモヤの様な紅い光を纏わせて、ツェツェンに飛び掛かる。
そして燃える様な光を放つ右手を振り被ったティアに対し、ツェツェンは……。
「……面倒臭いから、降参しまーす」
今まさに攻撃しようとしたティアを前に……ツェツェンは両手を挙げて、あっさりと降伏した。
こうして……準決勝戦は拍子抜けする結果では有ったが、ティアの勝利となり……マリアベルとの対戦が決まったのだった。
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