196)武闘大会-26(ツェツェン戦①)
始まった準決勝戦……ティアはこの試合に勝てば、マリアベルとの戦いに挑む事が出来る。
だからこそ、“この試合には絶対負けられない!”そう望んだ試合だった。
気合い十分でコロシアム中央に進むティア。対戦者の男は細目の冒険者風の男だ。
「……初めまして、赤毛の御嬢さん。確か……ティアさんって言いましたっけ……。僕はツェツェン……短い間ですけど、宜しくねー」
「こちらこそ……ツェツェンさん」
細目の冒険者はツェツェンと名乗った。この辺りでは珍しい名だ。友好的に話すツェツェンにティアは全く心を許していなかった。
何故なら師匠のクマリからツェツェンなる対戦者の実力は、底が見えない、と警告されていたからだ。
クマリは師匠として弟子のティアを気に掛け、彼女の対戦者は全てチャックしていた。
その中で準決勝戦で当たるツェツェンの試合もチェックしていたが……その戦い振りは明らか手抜き試合で余裕を持って勝利していたのだ。
しかも、どの試合も3分と言う時間で、きっちりと試合を終わらせている様だった。相当な実力差が無いと出来ない事だ。
その状況を理解したクマリはティアに最大限の警戒を持って戦うように指示した。
従ってティアはツェツェンの親しげな挨拶に素っ気なく返した。
「そんなに構えなくても……気楽に行きましょう、気楽にー」
「……気楽? そんな呑気な事、思える訳無いわ!!」
ティアはそう叫んで駆け出す。一気にツェツェンを攻める気だ。
「うおおお!!」
“キイイイン!”
ティアは駆けながら秘石を発動し、右拳で思い切りツェツェンに殴り掛かった。
始めから全力を出した為、ティアの攻撃は一瞬で彼の間合いに入り、鋭い拳を振るう。
秘石で強化されたティアの攻撃は、攻撃力も然る事ながら、その速さも人を超えたモノだ。
「良しッ! 先ずは一撃! え……?」
ティアが右拳を放つと、ツェツェンはほんの僅か後方に下がり、上半身を後ろに軽くのけ反って、攻撃を躱した。
「うわー、危ないなー。怖いから反撃っと」
体をのけ反らせて攻撃を躱したままで、ツェツェンは軽口を叩きながら右手で抜刀し、振り払う様に雑な動きでティアに向け切り掛かる。
ティアの方を見ず、適当に剣を振った……、そんな攻撃だったが――。
「……ぐっ!」
ティアの胸から肩にか掛けて、切り裂かれ……赤い血が滲む。
ツェツェンの抜刀を見てティアはそれ以上彼に踏み込まなかったお蔭で、傷は軽く済んだようだ。
「あれぇ、怪我しちゃった? デタラメに剣振っただけだったのに……ゴメンねぇ」
「……良く言うよ……完全に狙って切った癖に……!」
ティアは薄っぺらい謝罪をしたツェツェンに対し、ティアは大きく後ろに飛んで距離を取って言い返す。
そして……先のユラ戦で勝敗を決めた大技を出す。
「炎よ、砕け!!」
大きく後方に飛んで、距離を稼いだティアは右手を地面に付け叫ぶ。
ティアの叫びと同時に、彼女の右手からツェツェンに向けて、地面が炎を吹き出して爆発した。
“ドオオン!!”
ツェツェンに迫る、炎の爆発による地割れ……。その進撃は矢の如く早い。
ツェツェンもユラの様に吹き飛ばされる――誰もがそう思ったが……。
「あー、これさっき見た奴だー。ほいっと」
何の緊張感も無くツェツェンは呟き、地面の水たまりを避けるかの如く……トンと後方に飛んで爆発を躱した。
「君の右手、凄いよー。多分、昔に僕が見た奴と同じだねー。凄いけど……ソレ、花火と同じだからさー、いつか燃え尽きて死んじゃうよー?」
「……余計な、お世話よ! 私は……アイツを取り戻すまで死ねないわ!」
ティアの新技をあっさり躱した上で、ツェツェン冷たい笑みを浮かべ……ティアを嘲笑する様に話す。
そんな彼の言葉にティアは激高しながら、全否定する。
「ふーん……、僕はそんな事どうでも良いけどー。それよりもさー、昨日の試合でティアさん、言ってましたよねー? 右手を斬り飛ばすとか……何とか……。ほいっと!」
“ヒュン!”
ツェツェンはどうでも良い世間話の様な口調で、ティアに問いながら――黒く塗られたナイフを投付けた。暗殺用の暗器だ。
一切の油断なくツェツェンと対峙していたティアは、投付けられた暗器を横に飛んで躱す。
「……卑怯な真似を……」
「ごめんね! 此れが僕の“仕様”だからさー。それで、さっきの右手の話だけど……、ほら、プレゼントだよっと」
ティアの侮蔑に、ツェツェンは仕方ないとばかり、両手を広げて答えながら……又も話している最中に、後方に飛んで何か黒いモノを大量にティアの頭上へ向けてばら撒く。
よく見れば、ばら撒かれた黒い小さな塊には火花が見える。爆薬の一種だろう。
「……それ、君の此れからを示す花火だから! 派手に行こう!」
「ふっざけんな! 炎の剣よ、貫け!!」 “キイイイン!!”
ツェツェンは小馬鹿にしながら、ティアに向け大量の爆薬をばら撒いた。
対してティアは、何処までもふざけたツェツェンに向け、吠えながら秘石の力を発動する。
同時に天に向けて挙げたティアの右手に紅いモヤの光が集まり……無数の炎の剣となりて弾けて飛び、彼女に降り掛かる爆薬を貫く。
“ドガガガン!!”
炎の剣で貫かれた爆薬は一斉に爆発し、豪炎が広がる。
ティアはユラ戦で上級雷魔法を防いだ様に、右手の力を使って白い光によって豪炎から我が身を守った。
豪炎は直ぐに煙となり、周囲の視界を奪う。そんな中……
“キン!!”
立ち込める煙の中より、ツェツェンがティアに向け黒塗りの剣で突如、切り掛かったのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! ツェツェン戦一話で終わらせる予定だったのですが無理でした。
次話は8/16(日)投稿予定です! よろしくお願いします!