194)武闘大会-24(あの男の今)
「……ふーん? 彼女が次の対戦者か……」
「他人事だな……、他ならぬ自分の事だぞ?」
担架に乗せられ運ばれるユラに付き添うティアを見ながら安物の皮鎧を纏った細目の冒険者が呟く。
そんな彼に対し、商人風の男が呆れた様に返す。彼等はコロシアム観客席の端からティア達を眺めながら話している。
「ああ、他人事さ! 勝敗なんて、どうでも良い」
「ふん……確かにな……。所で、あの赤毛の女……試合で見せた力……過去に見た実験体と似てた様だが?」
細目の冒険者が肩を竦めて応えると、商人風の男が同意しながらティアの右手に関して気付いた事を話す。
「そうだねー。でもそれこそ、どうでも良いや。あの力……神様案件でしょ? そんなのに関わったら不遜だよ、不遜!」
「お前の場合、面倒臭いだけだろう。先の失敗も有る……事は慎重に構えねば……」
「ああ、そう言えば王都に凄い道出来てたねー。アレ、ロデリア王国の新兵器かなー。でも……僕らには、そんな事にかまけてる時間も余裕も無いでしょ」
難しい顔をして呟く商人風の男に対し、細目の冒険者は構わず現状を伝える。
「だな……お前の言う通り、我等には成すべき事が有る……。お前の方はどうだ? だいぶ丁寧に“現調”を重ねていたが」
「ああ、実際に見るのは大事な事だからね! ソレも次で終わり。お蔭でイメージ掴めたよ……。アイツらも明日に向け準備させとく。僕の方より、君達の方はどうなのさ?」
商人風の男の問いに、細目の冒険者は逆に問い返した。
「ああ、此方も準備は整っている……。お前に合して派手に仕上げる心算だ」
「そうか……全ては明日だね。派手な祭りになりそうだ!」
「ああ、白き神の再降臨を願い……最高の宴を捧げよう」
細目の冒険者が心底楽しそうな声を上げ、商人風の男も暗い笑みを湛えながら、それに応える。
熱狂冷めやらぬコロシアムの中で二人の男が不穏な闇をもたらそうとしていたのだった……。
◇ ◇ ◇
所変わって……ロデリア王都の設けられた地下牢において、一人の男が頬に手を当て蹲りながら喚いていた。
「ぐ、ぐぎいぃ! か、顔の傷が痛む!! ひいぃ!」
顔を抑えて喚いていたのはフェルディ フォン ルハルト。かつてティアを騙してレナンとの婚約を破棄させ、挙句暴行を加えようとした最低の男だ。
ティアだけでは無い。この下劣な男は……持って生まれた見た目の良さと、ルハルト公爵家の息子と言う立場を利用して、罪も無き無垢な女性を騙して弄び……飽きたらゴミの様に捨てた。
そんな卑劣な行為が見逃される訳も無く……ティアを陵辱しようとしていた最中に白騎士のソーニャ達に踏み込まれ、現行犯で逮捕された。
その事で実家のルハルト公爵家は結果的には御家取潰しと相成った。
もっともティアとレナンを婚約破棄させるように誘導し、同時にフェルディを現行犯逮捕したのは……国命を受けたソーニャの策だった。
ソーニャは姉マリアベルとレナンを結婚させる為、連続強姦魔のフェルディを利用して、ティアを騙しレナンと婚約破棄させた。
そして敢えてフェルディを現行犯逮捕させる事で、フェルディの罪を隠蔽し続けたルハルト家に捜査の手を伸ばし、ルハルト公爵家の解体へ踏み込むと言う策を実行したのだ。
反国王派の中心派閥だったルハルト公爵家は秘密裏にギナル皇国と繋がりを持ち、自らが実権を持つ為にロデリア王国の転覆を画策していた。
ルハルト公爵家がキナ臭い動きを見せていたのはソーニャやマリアベル達も分っていたが、相手は公爵家……おいそれとは踏み込めない。
そこでルハルト公爵家を取り潰す為に、貴族子女に対し連続強姦を行っていたフェルディを現行犯逮捕させ、息子の罪を隠蔽し続けたルハルト公爵も罪に問うた、と言う訳だ。
結果、ルハルト公爵家の様々な陰謀が明るみになり……ソーニャ達の思惑通り、王国転覆を画策していたルハルト公爵家は御家取潰しとなった。
ソーニャによって罠に掛けられ、利用された挙句……まんまと現行犯で捕縛されたフェルディ。
顏の傷はソーニャが連れて来た白騎士べリンダによって付けられたモノだ。しかも頬に付けられた深い傷だけでなく、右耳まで切り落とされてしまったのだ。
捕まったフェルディはその大罪故に、直ぐに尋問と言う建前の拷問に掛けられた後……この牢獄に放り込まれた。
フェルディだけでは無くフェルディの父、ルハルト公爵も此処に投獄された。
此処では重罪人しか投獄されておらず……囚人たちは皆、人間扱いされていない。
もう二度と、日の当たる世界には戻れず……死ぬまで此処に過ごすか……死刑に処されるかのどちらかだった。
特に沢山の貴族令嬢に連続強姦を行っていたフェルディは、酷い扱いを受けた。
何故なら、被害を受けた令嬢達の家族からフェルディは恨まれていたからだ。被害者家族は裏金を看守達に渡し、フェルディを制裁する様に依頼していた。
看守達は、胸糞悪い犯罪者であるフェルディを喜喜として制裁した。殺さない様に細心の注意を払い、徹底的に。
その行為は貴族や男性で有るプライドを容赦なく踏みにじった。
そんな環境である為、フェルディの顔と耳に深い傷は満足に治療など施されず、蛆がたかって爛れ……酷い見た目となっていた。
かつての整った顔立ちには、もう二度と戻れないであろう。
劣悪過ぎる環境の中、フェルディが自害せず心が壊れて廃人化しないのは……有る一念が有ったからだ。
それは……復讐だ。
「おのれ、あの女め……!! あいつの所為で……俺は、こんな屈辱を!! 俺と同じ思いを! 苦しみを! あのソーニャって女にぶつけてやる!! それまで、絶対に死ねるか! 絶対に此処を出て……あの女に復讐してやる!!」
薄暗く汚い地下牢で……下劣な男フェルディは痛む傷を押さえながら、ソーニャに対する怨念を今日も募らせるのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は8/9日投稿予定です! よろしくお願いします!