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191)武闘大会-21(ユラ戦④)

 水魔法でずぶ濡れになったティアを襲った追撃の雷刃……。


 護符の守りが有るとは言え、絶縁抵抗の無い中での電撃はティアに大きなダメージを与え、意識を刈り取るには十分な威力だった。


 ティアは雷刃を受けた後……糸が切れた人形の様に、下を向いて座り込んだ。


 ユラの雷刃はティアを直接狙わずとも、水浸しとなった地に当たればティアにダメージを与える事が出来る。つまりは今のティアには防ぐ事が出来なかった。


 ユラは上級や中級魔法も長けていたが、この武闘大会では主に下級魔法を中心に使っていた。


 元々、彼女は体内保有エーテル量が非常に多い事より、下級魔法なら幾らでも放つ事が出来た。普通の人間なら、下級とは言え魔法を複数発動する事や、連発する事は困難な事だった。


 下級魔法は発動時間が短く、消費するエーテル量が少ないが威力が弱い。その魔法をユラは複数発動する事や、組合せで効果を高める、と言った事で欠点を補っていた。



「……今度こそ、本当に終わりよ……。下級とは言え、複合効果によるダメージは……凶悪な魔獣ですら一撃で屈するの。……ティアさん、貴女は良く頑張ったわ」


 

 この試合でユラによる魔法攻撃を受け、3度に渡るダウンとなったティア。


 流石に誰もがティアの敗北を確信した。ユラも自分の勝利を疑わず倒れたティアに背を向けたが……。



 “ズリリ……”



 踵を返したユラの背後で地面を這いずる音が聞こえた。驚いた彼女が振り返ると……。



 泥に塗れたティアが、無理やり体を起こそうとしている所だった。



 ティアは肩で大きく息をして、起き上がるのもやっとの様子だ。漸く立ち上がったティアは握り締めた右手を前にして、まるで脈を測る様に左手は右手首を掴んでいる。



 「……もう止めなさい……これ以上何度やっても同じよ。負けを、認めなさい」


 「…………」


 ユラの静かな降伏勧告に対し、ティアは声に出さず、首を横に振って否定した。



  “キイイイイン……”



 何やら、ティアの右手から甲高い音が響いている。意識は辛うじて有るのだろうが、限界が近いのかフラフラと足元がおぼつかない。


 そんなティアを見たユラは一瞬辛そうな顔を見せたが、気を引き締めて言い放つ。



 「ご免なさい……私はあの人の弟子である、貴女には負けられないの! “天の光集いて 我が敵を穿うがつ刃と為れ 雷刃!”」


 “ガガン!”


 ユラは先程と同様に一面が水浸しとなったコロシアム地面に、下級雷魔法を放った。再度、水に濡れた状態のティアを雷が貫く。


 “ドサッ”



 4度目のダウン。今度こそ絶対にティアは終わりだろう、そう思ったユラだったが……。



 “ズズズ……”


 まるで幽鬼の様に瀕死の状態でティアは足を引き摺りながら、立ち上った。


 彼女は額の血も流れたままで、身に纏う皮鎧も血と泥水で赤黒く染まっている。



 「な、何で!? 立てるの!? 魔獣すら絶命させる複合技を! 幾ら護符を付けてたって!」


 「……み、右手……」


 

 驚愕して叫ぶユラに対し、ティアは震える声で何やら呟く。


 「右手が如何だって言うの!? ま、まさか右手で防御魔法を展開してた!?」


 「……ち、違う……み、右手を切り落とそうとした……あの痛みに比べれば……! こ、こんなの! どうって事無い!!」


 動揺しながら問うユラに対し、ティアは力強く叫びながら……右手の包帯を破って刻まれた深い傷跡を見せる。



 その傷はかつて、アクラスの秘石を宿す時……その痛みから逃げる為に右腕を斬り落そうとしてナイフを突き立てた時の傷だ。


 本気で斬り落とす気だったあの時……一切の手加減をしていない為、その傷は深くハッキリとティアの細腕に刻まれている。


 ティアに取ってアクラスの秘石を取り込んだ時の戦いこそが、人生最大の危機だった。


 クマリから秘石を渡された時……“死ぬかも分らない”と言われながらも、迷わず秘石を手にしたティア。事実、本当に死に至る痛みを一晩味わった。


 秘石を取り込む際の痛みから逃げる為に右腕を斬り飛ばそうとしたが……右手に突き立てたナイフを投げ捨て、その痛みに打ち勝ちアクラスの秘石を取り込んだ。


 あの時、右腕を切り落とさず、死の痛みから逃げなかったのは……唯一つ、レナンを取り戻す為だ。その為なら……命など惜しく無かった。


 その覚悟が、ティアにアクロスの秘石をもたらした。右手の傷は……必ずレナンを取り戻すと言う誓いと愚かで弱い自分への決別の証だ。



 だからこそ……ティアは折れない。



 右手の傷を見たユラが叫ぶ。彼女は折れないティアに気圧されている様だった。


 「そ、その傷が何だって言うの!?」


 「……ユラさん、貴女の魔法は凄い。そして貴女は強いわ。だけど……それだけでは、私は止らない。今こそ、私は……貴女を超えて行く」



 ティアはユラに言い切った後、ゆっくりと前に歩み出す。彼女の想いに応える様に右手の秘石が一際高い音を響かせた。


 ”キイイイン!”


 「わ、悪足掻きを! “原初の炎よ 集いて 我が敵を焼き払え 豪炎!”」

 

 ユラは素早く中級の火魔法を唱えた。彼女の詠唱は早く…大きな火炎弾を前に進むティアに向けて放った。


 ユラの中級火魔法は強力で、先程の雷刃など比べ物にならない威力だ。


 マトモに喰らえば、今のティアでは絶対耐えられない。ユラにしてもそう判断して、この魔法を放ったのだろう。


 しかしティアは向かって来る火炎弾に向けて、恐れを見せず右手を突き出し叫ぶ。


 「秘石よ! 守りなさい!!」


 ティアの言葉に反応し、彼女の右手が白い光を放ち――ティアに向かって放たれた豪炎を消し去った。これはダリル戦で魔法を防いだ技だった。



 「な!? それなら、これで! 闇夜を照らす暁の火よ 顕現し撃ち滅ぼせ 爆裂!!」


 ユラは中級魔法がティアの右手が消し去った事を見て、一切の手加減を止めた。危険だと思われる上級火魔法を使うのも、もはや躊躇わなかった。


 ユラが上級魔法を放った事に、審判が何か叫んでいたが彼女は無視した。ティアに迫る爆炎の火球。直撃すればティアは吹き飛びバラバラに爆散し燃え尽くされるだろう。

 

 しかし、ティアは全く恐れず右手を前に小さく呟く。彼女が右手を出した際にアクラスの秘石は甲高い音を立てている。


 「秘石よ、我に従え……火砕……」


 ”ゴオオウ!!“


 ティアの呟きと同時に右手が白く光り、詠唱も行っていないのに巨大な火球が放たれた。


 ユラの上級火魔法と、ティアの放った火球が真っ向から激突し――大爆発が起きた。


 “ドガアアアン!!”


 コロシアム中央に広がる大きな火球。爆発の熱と衝撃波が生じ、観客達を青褪めさせるのであった。


いつも読んで頂き有難う御座います。

ここで改正のお知らせが有ります。元はユラ戦の後に2回戦続いてマリアベル戦の予定だったのですが、くどいと思いましたので、次戦が準決勝になる様改正させて頂きました。


次話は7/29(水)投稿予定です! よろしくお願いします!

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