187)武闘大会-17(潰滅のユラ)
クマリから次戦の相手が“先輩弟子”と聞かされて、ティアは驚きながら彼女に問うが……。
「……先輩弟子? バァカ、違うね! 私はお前に行った筈……。今まで、私は弟子を取ったのは、ティア……お前が始めてだ。ユラとコンビを組み始めた時……アイツから何度か頼まれたが、当時の私は弟子とか面倒臭くて断り続けたんだ。だが、生きる術は教えてやった。死なれても困るからな」
「……その、ユラさんって人より……後から出会った私を、どうして弟子に?」
クマリの話を聞いたティアは彼女に問う。
「その理由は、お前も知っている通り……。私との賭けに勝ち、お前の覚悟を見たからな。それで私は……お前の戦いを、見届けたくなった。……この私が手を貸し、鍛える事で……ティア、お前がどうしようも無い強敵相手にどう戦い足掻くか見たかったのさ。だから、ティア、お前と私が師弟関係になる事は必然だった」
「……師匠……」
クマリの変わらぬ想いを知って、ティアは胸が熱くなり呟く。
「……ハッ! 辛気臭いのは終わりだよ! お前はユラに勝って、マリちゃんが待つ決勝戦に辿り着かなくちゃならない。……分ってるだろう?」
「は、はい! 師匠! 次の相手が……例え先輩弟子でも、私は負けません!」
クマリはティアに覚悟を問うが、彼女は迷い無く答える。
「弟子じゃ無いって言ってんだろ! ……だが、心意気としては良いぞ。褒美としてユラに関して教えてやる……。アイツは純粋な魔法使いだ。武器を使った戦いは、接近戦も、遠距離戦も苦手。だが……ユラは女だてらに強い。何故なら、アイツはな……“潰滅”を使うのさ」
「え!? か、潰滅って何ですか?」
先輩弟子ユラについて話すクマリから出た、“潰滅”と言う言葉の意味が分からず、ティアは師匠に問い返す。
「ユラはヒト族には珍しく……体内に保有出来るエーテル量がとても多い。もしかしたら、祖先に私と同じ亜人の血が混じってるかも分らんがな……。とにかく、ユラはその豊富なエーテル量を生かして魔法を扱う冒険者となった。
そして、アイツが冒険者成り立てだった時、私と出会い……コンビを組む事になったのさ。私は弱いヒト族なんて関わる気は無かったんだが……当時とある討伐依頼を受けた際、運悪く襲われて崩壊した冒険者パーティが有ってな……、その際の生き残りがユラだった。
別に義理も無かったから放って置いても良かったんだが……その時のアイツは、お前と同じ様な年の頃で……身寄りが無かったからな……。つまり、腐れ縁って奴さ」
「…………」
静かに思いで話を話すクマリ。対してティアは何だかんだ言って、面倒見の良い師匠に深い敬愛の念を抱きながら黙って頷いた。
「それで……ユラの奴とは仕方無くコンビを組んだんだけど……。最初の時は使えない奴でさ、随分と叱ったモンさ。“お前自身の特性を生かせ!”ってな……。
普通はヒト族が使う魔法ってのは体内エーテル量の兼ね合いで、威力も使用回数もタカが知れてる。しかし、ユラの場合……そうじゃ無い。そこに活路を見出す様、私は促したんだ。
それが効いたのか、何か分らんが……、アイツは“潰滅”を身に付けたんだ。その技のお蔭で、アイツは魔法による手数と量で強さを示した」
「……聞けば聞く程……師匠が、その人育て上げた様なモンじゃ無いですか。師匠が認めて無くても、私からすればユラさんは立派な先輩弟子です! ……それで潰滅って言うのは魔法による攻撃の事ですか……?」
「そう、つまり……潰滅って言うのは、魔法を雨あられの様に沢山ばら撒く……ユラの技さ。しかも詠唱破棄かと錯覚させる程の速さでな……。コンビを組んでた時、私は先制攻撃を仕掛けている内に……ユラの奴は私の背後からヒト族とは思えん程、大量の魔法弾をばら撒くのさ……。それで付いた技名が潰滅って訳だ」
ティアの問いにクマリは昔を思い出しながら懐かしそうに呟く。
「……そんな訳で……次戦は派手な魔法戦になるだろうな。大量に放たれる矢の様な魔法を浴びせるユラと……馬鹿げた威力のお前の魔法……。荒れるぞ?」
「はい、私は負けません……負ける訳に行かないんです!」
派手な次戦を予想するクマリの問いに、ティアは力強く答える。
「上出来だ……だが、ユラはリゲルの様な雑魚とは違う。アイツが大量にばら撒く魔法も十分脅威だが……その発動スピードの速さと、尋常ならざるエーテル量から成る途切れる事の無い恐るべき魔法弾……それが潰滅の所以だ。……先輩云々は関係無く、相手は明確な格上相手。気を引き締めて戦え」
「は、はい!」
クマリの言葉にティアは緊張した面持ちで答える。こうしてティアにとっては先輩弟子に当たる……1級冒険者のユラとの戦いを向かえるのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
追)一部見直しました