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186)武闘大会-16(師匠と弟子)

 本当の実力を隠したまま、リゲルを圧倒したティア。


 卑劣な男リゲルに対し、見事な戦いをして見せたティアにコロシアムの観客達は湧きに湧いて歓声を上げるのだった。


 そんな中、ティアはコロシアムの中央で気絶して運ばれるリゲルに礼した後……踵を返してコロシアム内に有る選手用控室に向かう。


 

 その途中で……足を止めて、国王専用の観客席を見つめた。



 その中央に居る国王は機嫌よく周りの重臣達と話してティアを見ていない。


 しかし、その彼の背後に立つマリアベルとレナンと目が有った。


 漆黒の鎧を纏ったマリアベル。彼女はいつもの厳めしい兜を被っている為、その表情は分らないが……間違いなくティアを見ているのが分ったのだ。



 マリアベルの近くでは白騎士のソーニャも無表情でティアを見ている。



 マリアベルの視線を感じたティアは……右手をグッと握って、彼女に向ける。明確な宣戦布告だ。


 するとマリアベルも、同じ様に、スッと右手を差し出して拳を握って見せたのだ。


 互いに相手を認め、戦い合う価値が有るライバルと認めた証だった。



 そして……ティアは恐る恐る、レナンを見ると……彼は笑顔でティアに向け、小さく手を振ってくれた。



 対してティアは握り締めた拳を開いて手を挙げながら、無理やり笑顔を作った。今、レナンの顔を見ると泣きそうだったティアは精一杯の作り笑顔で誤魔化した。


 その後、ティアは選手用控室へと歩き出したのだった。



 そんなティアをコロシアム観客席から見つめる者が居た。ティアを見ていたのは、三角帽とローブを羽織った魔法使い風の女性だ。


 彼女は美しい顔だちをしており、落ち着いた様子よりティアより一回り以上は年上だろう。



 ティアを見ていた女性がニッと笑って呟く。


 

 「……あの子が……あの人の弟子か……。確かにあの戦い方……あの人特有の嫌らしさだ。フフフ、次の試合が楽しみだよ……」


 彼女は誰に聞かせる風でも無く呟いた後、興奮冷めやらぬ観客席を後にするのであった。



 ◇  ◇  ◇



 「ティア様!! お見事な勝利!! このパメラ、見ていて胸がスッとしました!」

 「ホントだ! それにしても往生際が悪い奴だったな!」

 「ティアちゃん、本当に強くなったね!」


 控室に戻ったティアにパメラやリナ達が詰め寄り、一斉に称賛する。選手専用観客席でティアの試合を見ていたライラやバルド達も、彼女を取囲んで褒め称えた。


 「あ、有難う皆……た、大した事無いよ」


 対してティアは……歯切れが悪く苦笑いで答える。そんな彼女の態度が謙遜している様に見えてパメラ達は一層ティアに賛辞を贈る。


 その様子を師匠のクマリは彼女達の輪に入る事も無く、静かにティアを見守っていた。



 ◇  ◇  ◇



 “顔を洗ってきます”そう言って控室を出たティア。



 洗面所に向かう廊下を一人歩く彼女だったが……突然壁に寄り添い肩を震わし、泣き出した。


 「……うぅ……レ、レナン……会いたいよ……ふぐっ……」


 ティアは先程のリゲル戦に本気を一切出さず勝利を収めた。


 しかし……その事自体、彼女にとって嬉しい事でも何でも無かった。


 ティアが右手の力を封印したのは、リゲルに彼女の戦いを汚されたくなかったからだ。


 だから意地でも秘石の力を使わずに勝って見せると決めていた。



 この武闘大会、いや……この8か月レナンを取り戻す為に、ティアは必死に足掻いてきた。


 それこそ命を賭けて……。今回のリゲル戦は良くも悪くも、その事を思い出させてくれた。


 だからこそ色濃くレナンの姿が脳裏に浮かび、とても彼に会いたくなった。


 以前の様に“頑張ったね”とティアを褒めて欲しかった。傍に居て笑って欲しかった。



 しかし……それは敵わない。フェルディに騙されたティア自身がレナンを手放したからだ。



 フェルディと良く似た性格のリゲルと戦った事で、改めて自分の罪深さと愚かさを思い知った。


 同時に今は傍に居ないレナンに会いたくて仕方なかったのだ。



 「……レナン……うぐっ、レナン……ゴメンね……ゴメン……」



 壁に寄り添い、レナンを想って泣き続けるティア……。



 人知れず涙を流す彼女の背後から、突如声が掛けられる。


 「フン……戻って来ないと思ったら、何をメソメソしてるんだよ」


 「し、師匠!? な、何でも有りません……!」


 泣いてるティアに声を掛けたのはクマリだった。対してティアは涙を拭って誤魔化す。



 「……今日の試合……お前の原点を思い知らされたな……。それで感傷に浸っていたと言う訳か」


 「…………」


 クマリの指摘に、ティアは黙って下を向く。


 「だが……それで良い、お前は心ある生き物だ。道具じゃ無い……。感情に、感じた心に、お前が培った力を乗せて思い切りぶつけろ! そうすれば必ず活路は見い出せる。初めて出会った、あの時……私の仮面を割った様にな……」


 「は、はい!! 有難う御座います、師匠!!」


 下を向いたティアにクマリは珍しく励ました。ティアは師匠の気持ちに感謝し涙を浮かべながら力強く答える。


 「フン、馬鹿弟子がウジウジするなんて似合わないんだよ。……だが、さっきの試合は格下相手とはいえ、お前にしちゃ……珍しく面白い戦いだった……。しかし、次の相手はそうは行かない」


 「つ、次の相手ですか?」


 クマリは珍しくリゲル戦を褒めた後、次戦に注意を促した。


 「ああ、だいぶ雰囲気変わっていたから、私もさっき気が付いたんだが……、次の相手は、この私も良く知る相手さ……。王都に流れ着く前……ソイツは私と、暫く組んでいた冒険者だ。色々有って、最初だけ面倒見る心算だったが……結果的に付き合いが長くなったのさ……。出会った頃はお前同様、弱っちい奴だったが……暫く付き合う内に、それなりに出来る様になった。奴の名はユラ……1級の冒険者さ。アイツは勝手に私の事を師匠みたいに感じてた様だ……」


 「……え? つ、つまり先輩弟子?」


 クマリの意外な言葉に、ティアは固まるのだった。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話から先輩弟子? との対戦へ繋がります。


次話は7/12(日)投稿予定です、宜しくお願いします!

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