184)武闘大会-14(リゲル戦②)
「うおおお! ティアお嬢様! 本当にお強くなった! このライラ、嬉しく思います! そうだろう、なぁバルド、ミミリ!」
「うん! ティアちゃん、凄く強くなったわ……。秘石の力も凄く使い熟してるね!」
コロシアム脇に設けられた選手専用の観客席からティアとリゲルの戦いを見ていた騎士ライラは、横に居たバルド達に向け、歓喜の声を上げる。
ミミリも彼女に同調するが……。
「……ああ、確かにティアの奴は強くなったよ。8か月前とは比べモンにならねぇ……。だけど……この試合、何かいつもと違うんだよな……」
「流石に分るか……」
バルドの言葉に、近くに居たクマリが呟く。
「……クマリさん、どう言う事だ?」
「ああ、試合前……馬鹿弟子は私に、この試合……自分の好きな様に戦わせてくれ、なんて言って来た……。アイツとの付き合いも長くなったが……そんな事言われたのは、初めてだったよ。
それで……どう、戦って見せるかと思えば……。あの馬鹿、よっぽどリゲルって奴に頭キテる様だ……。全然本気出して戦って無いぞ」
バルドの問いにクマリは答えた。しかしバルド達にはティアの戦いがどう違うのか差が分らない。
寧ろいつもより軽やかに動き、攻める手数も多い位だ。
「クマリさん、私にはティアちゃんの違いが分りません……。さっきの試合より一杯動いて頑張ってる様に見えますが……?」
「……そう見えるか? その言葉、ティアに言ったら喜ぶぞ、きっと。……だが、アイツは本気を全く出して無い。
にも拘らず、この優勢……。それだけ……あの馬鹿弟子は、この8か月頑張ったって事だ。良いか、ミミル……ティアはな……この試合で全く使って無いんだよ、あの力を」
素直に疑問を口にするミミリにクマリは答えを口にする。それでもミミリは怪訝な顔を浮かべたが、バルドは漸く謎が解けたとばかりに大きな声を上げた。
「ああ、そうか……!、ティアの奴……右手の力を使って無いのか!?」
「そうさ……秘石の力は、あの馬鹿弟子からすれば……レナン君との繋がりを示す大事な絆だ。ティアはレナン君を取り戻す為……命を賭けて秘石を手にした。
そして秘石は、莫大な力を与えるが……同時にティアの命も削る。それでもアイツは秘石の力で戦うだろうさ。マリちゃんに勝って、レナン君を取り戻す為に。
そんな力を……八百長を持ち掛ける様な腰抜け野郎には、使う価値無いってアイツは決めたんだろう」
バルドの問いに、クマリは何処か誇らしげに答えた。
「そ、それじゃ……ティアちゃんは……素の状態で、あの人と戦ってるんですか!?」
「ククク……そう言う事さ。あの秘石は元々無い力を与えるんじゃ無く……自力を底上げするモンらしい。……馬鹿弟子がやり抜いた、この8か月間の戦いは……全部、アイツの身に付いてる。だからこそ、私の馬鹿弟子は……秘石を使わずとも強いのさ」
「「「…………」」」
胸を張り自慢する様にティアを称えるクマリ。ティア本人の前では絶対言わない称賛を惜しげも無く送る。
ティアの試合を見るバルド達は、クマリの称賛を耳にしながら、決意を持って戦うティアを熱く静かに見守るのだった。
◇ ◇ ◇
「うぐっ……女の分際で、この俺を!」
ティアに足払いされ転がったリゲルは槍を杖替わりにして立ち上がってティアを罵る。
「…………」
対するティアは無言で答えず、リゲルに向かって駆け出す。
「ちぃ!」
リゲルは悪態を付いて槍を突き出す。槍はティアの顔面に向かって真っすぐ突かれたが、ティアは右手の剣でいなして槍の軌道を変える。
リゲルは槍を引き戻し、再度突き出そうとしたが……、ティアはその引き戻しのタイミングに合わせ一気に駆け出し間合いを詰めた。
「こ、こいつ!」
間合いに入られたリゲルは慌てて槍を振り、ティアを薙ぎ払おうとした。槍は長モノ故に、間合いに入られると弱い。
熟練した槍の使い手ならば、石突きで反撃するか、足を使って間合いを取る筈だが……慢心していたリゲルは未熟だった。
腕の力だけで腰の入って無い横薙ぎに、ティアは右手の剣で下段から上段に斬り上げる。
“ガイン!”
「う、うわ!」
ティアは槍を切り捨てる心算で斬り上げたが、立派な金属製の槍を両断する事は出来なかった。
しかし、ティアの斬り上げにより、リゲルは刃先を右上に槍を構えてしまう。
まるで槍を掲げる様な格好となり、リゲルは知れずに大事な弱点をティアに見せる事となった。
それは彼女に取っては最大の好機だ。
ティアは迷わず短剣の柄で、有る一点を狙って思い切り打ち付けた。
“ガギン!!”
ティアが狙ったのはリゲルの指だ。
「はぎゃ!!」
リゲルの両手は立派なガントレットが装備されていたが、指は動きを重視して装甲は薄い。
ティアの斬り上げにより、リゲルは槍の柄を握る指を彼女の眼前に現してしまった。ティアはその好機を逃さず、剣の柄で思い切り打ったと言う訳だ。
こんな戦い方はクマリから幾らでも教えて貰っている。もっともティアの体で痛め付けられる形だが……。
ティアにより利き手の指を思いっ切り強打されたリゲルは……痛みにより立派な金属製の槍を持つ事が出来ず……。
“ゴトン!”
その槍を手放し落してしまうのだった。
「く、くそ……!」
リゲルは槍を持つ事が出来ず、悔しげに呟くが……。
“ジャキ!”
そんな彼の首元に、ティアの剣が据えられる。
「ひぃ!」
「まだやる? ……それとも……貴方が裸になって泣くまで続けるの?」
悲鳴を上げたリゲルに、ティアは冷やかに問うのであった……。
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