181)武闘大会-11(場違いな客)
「なんだよ、あの試合は! 余裕かまして、何回攻撃受けたんだ!? もっと本気でやれ、このアホ!」
「し、師匠……ゴメンなさい!!」
所変わってティアの控室……。師匠にクマリにティアは盛大に怒られている。どうやら先程の戦いに関しての様だ。
背の小さなクマリは、何処から持って来たのか木箱の上に立ち、ティアを見下ろす様に見据えていた。
対してティアはクマリの前で正座していた。控え室にはバルド達やリナ達……いつもの友人組が、ティアが怒られているの尻目に、気だるそうに駄弁っていた。
こうしてティアがクマリに怒られるのは日々日常の出来事の様だ。ライラはティアを叱るクマリに対し“ぐぬぬ”と怒りを湛えて唸っているが、これも日常の出来事らしく誰も構わない。
対照的なのは、控室に慰労にやって来たパメラと侍女ナタリアの様子だ。
見事な初戦突破で歓喜しているだろうと、訪れた控室だったが……ティアが正座させられ怒られている姿にパメラ達は固まった。
彼女達が固まっている隙に、手に持っていたお菓子一杯のバスケットは、リナに取り上げられ、勝手にお茶会が始まった。
涙目で怒られているティアに固まっているパメラだったが……そのティアと目が合う。ティアの視線は明らかにパメラに救いを求めていた。
その意図に気付いたパメラは……。
「ティ、ティア様! それと皆さん! み、みみ見事な初戦突破でした! よ、宜しければお茶会等を、ご一緒に……」
「あぁ!? 今見て分んないかな、取り込んでんの……」
「ひ、ひぃ!」
精一杯の勇気を振り絞って声を上げたパメラだったが、ティアを叱っていたクマリからドスの利いた声で恫喝される。
恫喝されたパメラは悲鳴を上げて、控えていたナタリアに縋り付く。今度は彼女が涙目になって小動物の様に震えている。
「し、師匠! か、彼女は高名な公爵令嬢様で御座います! おおお脅しはどうかと! 此処は、公爵令嬢様の言う通りにお茶等を……」
「はぁ? ……ふん、まぁ良いか……。後は茶しながら説教さね。そこな小娘……さっさと出すモン出して準備しな!」
「ははは、はい!」
パメラの犠牲を無駄にしないとばかりに、ティアはクマリに進言する。クマリもリナ達が勝手に始めたお茶会が気になったのか……客である筈のパメラにお茶を要求するのだった。
◇ ◇ ◇
「ふぃー……助かったよ、パメラ! 絶妙のタイミングで来てくれた……」
ティアは控室のテーブルに突っ伏しながら、横に座るパメラに感謝する。
「い、いえ……私は何も……。ですが、どうしてティア様は師匠のクマリ様からお叱りを受けておられたのですか? 見事に勝利なされたのに」
ティアに感謝されたパメラは恐縮しながら、彼女に問う。パメラからすれば、鮮やかに勝利したティアが師匠より叱られる理由が分らなかったのだ。
「いやー、今日のは私が完全に悪いよ……。師匠から言われていた作戦は……ダリルさんの鞭を完全に躱して無効化する様に指示されてたんだ……。でも実際、始まってみると全然出来なくてさ。それで鞭で捕まってから反撃したの。結局勝てたけど……危ない所一杯あってね、それで怒られてたって訳……」
「……そう、ですか……でも私にはティア様の戦い方は勇猛果敢で……見ていて胸がこう、熱くなりました!」
クマリに怒られていた理由を話すティアに対し、パメラ両手を握り締めながら熱く語る。
「ありがと、パメラ……。でもね、師匠の言う通りだと思うんだ。ダリルさんも凄く強かったけど……もっと強い人達が出てくる。だから力押しじゃダメだと思う……」
「ティア様……」
ティアはパメラに礼を言いながら、自分の気持ちを伝えた。パメラはひたむきなティアの想いを知り感嘆する。
そんな中……話し合う二人に後ろから話し掛けられた。
「……ふん、良く分ってんじゃねぇか、馬鹿弟子……」
ティア達が振り返ると仁王立ちしたクマリが居た。彼女は、ティアとパメラの前に座ると話し続ける。
「……ティア、確かにお前は初戦は突破した。だが……戦いは更に厳しくなる。だからこそ、浮かれてる場合じゃないのさ。それで……アホなお前の為に、私は次の対戦相手について調べてやったぞ」
「し、師匠!」
パメラが出してくれた茶を飲みながら説教するクマリに対し、厳しさの中にチラ見する優しさを感じたティアがクマリに詰め寄り感謝する。
なお、ティア達のテーブルにはクマリの他、二人の給仕をする公爵令嬢のパメラと侍女ナタリアが座っていた。
感極まって縋りつくティアを押しのけながらクマリは続ける。
「えーい、鬱陶しいわ! 話は終わっちゃいないよ! 次の対戦相手は……槍を使うリゲルとか言う貴族だ。予選を突破した訳だからそれなりに腕は立つ筈なんだが……。コイツの初戦見たけど……ちょっとおかしいんだよな」
「おかしいってどういう事……」
「失礼致します!」
クマリが次の対戦者リゲルについて不信がるのを受けて、ティアは彼女に問い掛けている所へ……控室に声が響いた。
声がした方に部屋に居た全員が振り返ると……。豪華な鎧を纏った軽薄そうな男と、幸薄そうな年老いた執事が入口に立っていた。
最初に声を掛けたのは幸薄そうな執事の様だ。執事は震える声で問う。
「ぼ、坊ちゃまの対戦相手で在られるティア様はおられますか? ティ、ティア様に折り入ってご相談が御座いまして参上した次第です。お、お取次ぎを……」
幸薄執事は震える声でティアを呼んだのであった。
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