表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/370

180)武闘大会-10(有る悪徳令嬢の想い)

 「試合終了! 勝者、ティア フォン アルテリア!!」


 ティアの勝利を告げる審判の掛け声と共に観客達は一斉に湧いた。


 鞭を始めとする多彩なダリルの攻めに対し、屈せず最後は一撃の元、勝利したティアの戦いを皆が称賛している様だ。


 そんな中、ティアは倒れているダリルの介抱に向かうのだった。




 ティアの様子を見ていたリナは苦笑しながら呟く。


 「何とか、勝ったな……見ていて心臓に悪い……」


 「でも! ティアちゃん凄く強かったよ」


 親友の戦い振りを見て、リナとジョゼは無事終わった事の安堵と喜びの声を上げる。



 一方、貴賓席でティアの戦いを見ていたパメラはと言うと……。


 「キャー!! み、見ました!? ティア様の勝利を!? あんなに華麗に躱して!」


 「ええ! パメラ様、このナタリア、ティア様の御活躍をしっかりと。この眼に納めましたで御座います!!」


 パメラは隣に居た侍女のナタリアに抱き着いて大喜びする。ナタリアの方もパメラの手を取り、まるで少女の様に大騒ぎしていた。


 

 なお、このナタリアと言う侍女がダイオウヤイト襲撃の際、王都正門に居てティアの活躍を見てパメラに伝えたのだ。


 二人にとってティアはスーパーアイドルの様な存在になっていた。



 「……こうしてはおれません、ナタリア! 試合を終えてお疲れのティア様の慰労に向かいましょう!」


 「素晴らしい考えですわ、パメラお嬢様! 美味しいお菓子を沢山準備致します!」


 パメラとナタリアは満面の笑みを浮かべて喜喜として貴賓室を出て、護衛の騎士が慌てて追い掛ける次第だった。




   ◇   ◇   ◇




 一方……国王専用の観客席。


 此処には試合を観戦するロデリア国王とアルフレド王太子が中央に座し……、その周りには重臣達が取り囲み、その護衛騎士達が控えている。



 前武闘大会優勝者、マリアベルも黒騎士として国王達の背後にてティアの試合を見ていた。


 予選を無事通過した彼女は、同じく国王の護衛として横に居たレナンに向け嬉しそうな声で囁く。



 「フフフ……奴め……試しながら、戦っている様だ」


 「うん……そうだね、ティアは本当に強くなった」


 

 マリアベルの言葉に、レナンも同意する。



 「当たり前だ。ティアはこの私を超えようとしてるのだ。強くなって貰わねば張り合いが無い」

 

 「……自分が負けるかも分らないのに……応援するなんて、相変わらず戦闘狂だね」


 レナンの同意にマリアベルは嬉しそうに答える。彼女はいつもの厳めしい兜を被っているが、その声は明るく心底喜んでいる様だ。そんなマリアベルにレナンは呆れた様に返すが……。



 「レナンよ……。ティアはな、他ならぬお前の為に戦っているのだ。私を倒し……お前を取り戻す為にな……。だが、私はお前をティアに返す気など無い。

 分るか……これはな、女と女の戦いだ。お前を想う者が、必死で強く有らんと抗い……、この私に戦いを挑む。これ程……胸を熱くする事があろうか? 

 だからな、私は絶対にティアに負けん。正々堂々と戦い、お前の所有者が誰かを世に示してくれる。ティアには悪いが……お前を手放す事だけはしない」


 「……な、何だよ……本人を目の前にして……物みたいに」


 「フフフ……私とお前は出会い……結ばれる事は運命だったのだ。だからこそ……この戦い、私が勝つ!」


 賞品扱いされたレナンは照れながら抗議するが、マリアベルは小さく笑ってきっぱりと言い切った。


 レナンは真っ赤な顔をしてそれ以上何も答えず、そっぽを向いた。


 そんなレナンが可笑しくて堪らないと言った様子でマリアベルは肩を揺すって笑っている様だ。兜の為、表情は見えないが……。



 二人の楽しげな様子を近くに居たソーニャは有る想いを抱き見ていた。彼女は絶対に表情に出さない様笑顔を作りながら……。


 ソーニャが抱いていたのは拭いきれない孤独だった。ほんの一年前までマリアベルの心の中に居たのはソーニャだけだった。


 しかし、今は……レナンと……そしてティアが居る。レナンをマリアベルが想う事に対しソーニャは、今では問題無く受け入れられた。


 王命を受けたマリアベルの為にレナンを引き入れたのは他でも無くソーニャ自身でも有るし、孤独だったマリアベルが心から愛するレナンを伴侶として迎える事はソーニャも嬉しかったのだ。


 巨獣討伐の際、彼の力に怯え取り乱したソーニャだったが……他ならぬマリアベルの決意と想いを知って落ち着きを取り戻した。



 そんな訳でレナンの事は認めているソーニャだったが……ティアの事になると複雑だった。



 ソーニャは彼女に対して強い負い目が在るからだ。


 そんなソーニャの気持ちを余所に……、ティアがレナンを取り戻さんと足掻く程、彼女は力を付け、急速に存在が大きくなって来る。


 マリアベルもレナンも……王都の民も皆、ティアを称賛している。実質ティアからレナンを取り上げた国王ですら……ティアの力を認めていると聞いた。



 そんな状況の中……ソーニャは……強い疎外感を感じていた。


 それもそうだろう……。ソーニャは全てマリアベルの為、彼女の幸せの為に……ティアの親友となって彼女を貶めたのだ。


 マリアベルの為ならば……幾らでも汚れ役を買って出よう。その想い一つで行なった事だったが……陥れた筈のティアをソーニャ以外の皆が褒め称える現状……。


 当然、その輪の中にソーニャは入れる訳がない。ソーニャ自身はティアを裏切った事に対し、良い気分な筈が無かった。


 自分とは真逆の彼女。能天気に明るく無計画で真っ直ぐで……。自分とは正反対な彼女は煩わしかったが、逆に眩しかった。


 ソーニャがティアを騙している時……彼女は本気でソーニャを親友と想ってくれたのだ。


 そんな彼女を……ソーニャは手酷く騙し裏切った。その自分がティアと向き合える筈も、その資格も無い。


 

 どん底に落ちたにも関わらずティアは諦めず戦い続けた。そして見る間に彼女は逞しく成長し、王都にその名を轟かせている。



 何と言う輝きだろうか。自分とは真逆の……。



 ティアの試合で盛り上がりを見せる国王専用の観客席を見渡しながら、人知れず……裏切った親友に想いを馳せる。


 絶対にティアには話せない……嘘偽りの無い本当の気持ちを。


 (……ティア……貴女は凄いわ……私とはまるで違う……。その眩しさ、強さ……マリアベルお姉様に近しい……。だからこそ、貴女とお姉様は気が合うのね……。まるで、本当に姉妹の様……。

 貴女を手酷く裏切った私は……きっと報いを受けるでしょう。いいえ、貴女だけじゃ無い……。多くの者達を騙し陥れた……。

 こんな私がマリアベルお姉様の元に居て良い筈が無い……。いつの日か、惨たらしい報いを私は迎える……だから、ティア……それでお姉様を許して……。貴女に私の“居場所”を譲るから……)


 そうしてソーニャは……裏切ってしまった親友への想いと、報いを受ける覚悟を胸に秘め……愛しき姉に向け微笑を作って見せたのだった。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は6/21(日)です、宜しくお願いします!


追)矛盾する所を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ