174)武闘大会-5(深窓の令嬢②)
カフェのオープンスペースで予選通過の祝勝会を行っていたティア達の前に現れた……まごう事無き深窓の令嬢……パメラ公爵令嬢。
彼女は何故かティアの前で顔を真っ赤にして俯いている。ちなみにパメラの友人達は気を遣ってか違うテーブルに座っていた。
「えーっと……パメラさん、で良いのかな? 公爵家の人でも学生なら身分、関係無いもんね」
「は、はい……ティア様、私の事は、どうかパメラと呼び捨て下さい……」
三つ編みシニヨンの公爵令嬢パメラは伏し目で、小さく呟いた。その様子にティアは横に居たリナに意見を求める。
「うーん……良いのかな? こ、公爵令嬢様を呼び捨てして……」
「良いんじゃない? 大体、お前だって伯爵令嬢だろ? 目の前の本物とはまるで違うけど……。それと……お前……あの黒騎士マリアベル様、だって呼び捨てしてんぞ? アレ……ホントは拙いだろう?」
「マリアベルはマリアベルだから良いの! 大体アイツは敵……いや、ライバル……そうライバルだから! この武術大会でコテンパンにしてやる!」
リナは半ば呆れながら答える。“どの口が言う”と言った想いなのだろう。対してティアはマリアベルの事を敵と言った突き放した対象からライバルと、ワザワザ言い換えた。
マリアベルと接する内に大きな心境の変化が有った様だ。だが、ティアが最後に言った“コテンパンに!”と言った言葉でリナは青い顏をしながら呟く。
「いや……お前、分ってる筈だろう……黒騎士マリアベル様は……なぁ?」
「アハハ……リナちゃん、それ以上はダメ」
青い顏をしながら、リナは横に居るジョゼに助けを求めたが、対してジョゼは怖い位真剣な表情で、それ以上の言葉を遮った。
リナやジョゼがマリアベルに対して、これ程気を遣っているのは理由が有る。
ティアがいつも呼び捨てしている黒騎士マリアベルこそは、姫殿下なのだ。
最近、そのマリアベル自身から依頼を受ける事が多くなったティア達だが、マリアベルと直接話すのはティアかクマリだけだった。
他のライラやバルド達は、何故かマリアベルと絶対話そうとせず、敬う態度すら見せる次第だ。
有る時、その様子が気になったリナとジョゼがバルドに尋ねた所……衝撃の事実をこっそり教えて貰い、気が遠くなった思い出が有る。
そこでリナ達は、マリアベルに対してはライラ達同様、適切な距離を保とうと決意したのだが……。
肝心のティアは、そのマリアベルに平気で呼び捨てにする。また、無茶な依頼を振って来るマリアベルに対し、直接本人に文句を言う等と、事情を知る者達からすれば冷や汗モノだった。
幸いマリアベル自身は、ティアの態度が寧ろ好ましい様だった。(オリビアやソーニャは青筋を立てるが)その為、リナ達は何も知らないといった態度で通していたのだ。
「……成程ね、確かにマリアベルとか特別扱いしてないし。うん! それじゃ……パメラ。これで良い?」
「は、はい! 是非、その様に呼んで下さい! ティア様!」
ティアはリナの言葉に納得し、パメラに対し呼び捨てたが、パメラ自身はティアを敬称付けた。
「……所で、パメラ……で良いかな? 君は……コイツに用が有るみたいだったけど?」
「は、はい先輩……。私はとある事情より……ティア様をお慕いしており……ずっとその背中を追い掛けていました。最初は……同じ痛みを持つ者として……ですが、ティア様は、そんな私の浅はかな想いなど……嘲笑うように、壁を乗り越え……英雄となられました。そう……あの時……ティア様は、大きな怪物をやっつけて見せたのです!」
リナの問いに対し、パメラはか細い声で答えていたが途中から何かを思い出したのか、急に興奮し出した。
「……あ、あのーパメラって……何で私の事を?」
「は、はい……実は……」
パメラの話を聞いて疑問に思ったティアが彼女に尋ねた。するとパメラは意を決して話し出した。
「……私は……御存じかと思いますが……現在投獄中の元ルハルト公爵家のフェルディ様と婚約しておりました……。親同士が家の為に決めた婚約とは言え……子供だった私は……フェルディ様との結婚が……最初はとても心待ちにしておりました。私は最初、あの御方を強くお慕いしていたのです……。ですが……真実は酷過ぎました……」
パメラは、目を付したまま……フェルディの婚約に付いて語り出した。
最初、フェルディと出会った頃、あの男は誠実そうに振る舞い……パメラもティア同様、すっかりフェルディの虜になった。
しかし……婚約が確定すると、フェルディは態度を変え……パメラを所有物の様に見始めた。
その内、パメラの元にフェルディの黒い噂が耳に入り始める。彼の非道な行いによって、転落した少女達の話だ。
それでも若いパメラはフェルディの事を信じようと努めた。この点もティアと同じだった。
そんな中、起こったフェルディの捕縛とルハルト公爵家の御家取潰し……。
此処で漸くパメラはフェルディの悪行と……自分が騙されていた事を知り……落ち込み絶望したのだ。
暫くは部屋から出れず塞ぎ込んでいたパメラだったが……、真実を知りたいと願った。
そして彼女なりにフェルディの真実を調べた結果、パメラは……フェルディの捕縛の切っ掛けとなったティアの存在を知る。
ティアは他の少女同様……手酷く騙され、尚且つ婚約者を手放してしまった事も聞いた。
パメラは自分と同じ様にフェルディを慕い、そして騙されたティアに対し、親近感と同情心を抱いた。
ティアが同じ学園である事も有り……縋る者を突然失った為かも分らなかったが、パメラはティアの背中を自然に追っていたのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は6/3(水)投稿させて頂きます!