173)武闘大会-4(深窓の令嬢①)
「先ずは本選出場決定おめでとう、ティア!」
「ああ、ご苦労だったな!」
「有難う……リナ、ジョゼ」
難なく武闘大会本選の出場を決めたティアは、親友のリナとジョゼから王都の洒落たカフェのオープン席で軽い祝勝会を開いて貰っていた。
数百名に及ぶ参加者が居た予戦が終わり、武闘大会本戦の出場者が決定した。
昔は武闘大会の予戦は無かったが、様々な思惑の中……本戦まで進める機会を多くの参加者に与えるべきとの声が強まり……バトルロイヤル式の予戦制度が誕生した。
本戦参加者は予戦を勝ち抜いた者となる為、誰が選ばれるか分らない。
そんな訳で予戦完了後、出場者の回復とトーナメント決定の為に、本戦開始まで数日の準備期間が生じる。ティア達の祝勝会は、この準備期間を利用して行われていた。
「いやー、まさか……この残念ティアが予選突破とはねー、ちょっと前からすれば信じらんないわ! お腹鳴らしてばっかりの時から比べたら大進歩だね」
「ホントだね! 授業中突然寝ちゃったり、お菓子食べたりして良く先生に怒られてたっけ」
リナとジョゼは以前のティアを思い出しながら冷やかす。
秘石を取り込んだ当初のティアは残念な副作用に振り回され、絶えずお腹を鳴らし電池が切れた様に寝落ちしていたが……8か月に渡るクマリの地獄の特訓で、秘石の副作用は大幅に改善された。
ティアは友人達の冷やかしが恥ずかしく、口を尖らせて抗議する。
「や、やめてよ、二人共! 昔の事じゃない!」
「そーかー? 朝になったらお腹の音と共に駆けて来るティアの為 パン沢山用意するの大変だって、パン屋のおばさん言ってたぞ? あんまり変わってないじゃねーか?」
「アハハ! そうね……朝いつもギリギリだからって窓から登校する所は変わってないし。もう何回先生怒らしてるか分らないよ」
この8か月間、ティアは毎朝修行によりクマリを背負って王都中を走り廻っていた。
その際、クマリの容赦ないシゴキで体力を消耗するティアはお腹の音をぐぅぐぅ鳴らしながら走るので、憐れんだ王都住民から餌付けされる始末だ。
それと朝の特訓により遅刻気味なティアは、寄宿舎から直線距離でジャンプしながら教室に向かう為、窓からの登校が当たり前になる。
その事で担任のユニは毎回激怒したが、その度ティアが木漏れ日亭特製お菓子を賄賂として提供し、怒りを収めていた。
「そ、それは……修行の所為って言うか……し、仕方ないの!」
続けて冷やかされたティアは顔を真っ赤にして二人に抗議する。
「……そう言えば……忘れていたけど……、この前王城行って何て言われたの?」
「そういや……オリビアって言う騎士が来た後……別行動になったよな……やっぱり何か有ったのか?」
話し合っている中、ジョゼが先日の事を思い出し、リナも便乗する。
予選前に木漏れ日亭にて集まっていた際に、白騎士オリビアが飛び込んで来てティアやクマリを王城へ連れ出した件だ。
(……リナやジョゼ達を……巻き込む訳に行かないよね……)
王城でマリアベルから、武闘会参加者の中に刺客が居ると聞かされていたティアは親友達を巻き込めないと判断して、お茶を濁す。
「……い、いや……試合中事故に気を付けて、みたいな話が有っただけよ……ハハハ」
「ホントか? 嘘臭いなー」
「…………」
誤魔化すティアに対しリナは疑いの目を向け、ジョゼはジト目でティアを睨む。
ティアが彼女達に真実を伝えないのは理由が有る。それは8か月前のダイオウヤイトによる王都襲撃時……ギナル兵によってジョゼが人質となった事が有った為だ。
「ふぅ……良いよ、リナちゃん……ティアちゃんの考えてる事なんて分るから……、ティアちゃん……強くなったからって危ない事したらダメよ」
「そうだぞ、お馬鹿なのは変わらないんだからな!」
「分ってるよジョゼ。それにしても酷いなリナは!」
親友達を危険に巻き込みたくないと言うティアの気持ちが分ったジョゼがそっぽを向きながら呟き、ジョゼがダメ出しをする。
ティアは彼女達の心配を受け、頭を掻きながら笑って答えるのだった。
祝勝会は盛り上がり……楽しげに話すティア達3人に声を掛ける者が居た。
「……あ、あのー。其処に居られるのは……紅き豪炎のティア様では……有りませんか……?」
か細く消え入りそうな声で呼ばれたティア達が振り返ると……。
美しい金髪を三つ編みシニヨンに纏めた小柄で美しい美少女が顔を赤くして俯きながら立っていた。
年の頃はティアより年下だろうか、幼さが目立つ。真白な肌に人形の様な青い目が気弱そうに視線を泳がしている。
正しく深窓の令嬢と言った姿だ。
彼女の周りには、友人だろうか二人の少女が彼女の後ろに付いて、その美少女を押している。
よく見れば少女達はティア達と同じ制服を着ており、状況からすると……三つ編みシニヨンの深窓令嬢がティアに勇気を出して話し掛けるのを後ろの少女達が励ましていると言った感じだった。
深窓令嬢はティアに話し掛けた後……白い頬を真っ赤に染めて俯いてしまう。彼女は勇気を振り絞ってティアに話し掛けた様だった。
そんな少女を見て……ティア達は何事かと顔を見合わせた。そして何かを思い出したリナが深窓令嬢に話し掛ける。
「なぁ……確かアンタ……パメラって名じゃない? レミネイル公爵家の……?」
「……は、はい、先輩方……私は……レミネイル公爵家のパメラ ド レミネイル……と申します……。どうかお見知りおきを……」
リナに問われたその少女は両手でスカートの裾をつまみ、片足の膝を軽く曲げて優雅に挨拶をした。
ティアはこの時忘れていたが……この可憐な少女は……あの非道なフェルディの元婚約者だった……。
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追)誤字修正しました