170)武闘大会-1(波乱の予感)
所変わって王都にあるスラム街。此処は管理された亜人自治区と違い、吹き溜まりの様に貧しい者や落ちぶれた者達が行き場を無くして出来上がった街だ。
このスラム街の一角に有る廃屋から男達の声が聞こえる。
「……地下牢か……面倒だな……」
「ああ、其処に親子共々捕まっているらしい……だが……今更どうだと言うのだ……。我等にもはや何の利も無かろう……」
話し合っている男達は、一見商人風の連中で特に目を引く様な服装はしていないが商人に似合わない頑強な身体付きをしており、違和感を感じる。男達は話を続ける。
「……腐っても公爵家だった連中だ……使い所があるとの判断だ……」
「何が有ると?」
「詳しい事は伝えられていない……とにかく、連れ出せと」
「むぅ……では、どうする?」
小さな声で囁く男達の会話は、キナ臭さが漂っている。どうもマトモな者達では無さそうだ。
「……そうだな……。先ずは“仕事”を仕上げる。……ロデリアの建国祭に合わせてな……。その際に……やろう」
「面倒だが……やるしか無いか……」
「我等が信仰を……邪教徒に示す時ぞ……」
「ああ……今こそ試しを受ける時」
「「「全ては……白き神の為に……」」」
男達は野望を囁きながら最後に自分達が信仰する狂った神に向けて誓いを立てる。波乱に満ちた建国祭が始まろうとしていた。
◇ ◇ ◇
「よーし、漸くこの時が来たな! 建国祭……そして、武術大会の時だ! ティア……覚悟は良いか!」
「はい、師匠!!」
そう話し合うクマリとティアは木漏れ日亭に居た。彼女達は間も無く始まる武術大会のミーティングを行っていた。
此処木漏れ日亭の大広間を借り、ティアの仲間達全員を呼んでの事だった。
とは言っても武術大会に参加するのはティア一人。後のメンバーは控えで参加するだけだったので、最終ミーティングとは名ばかりで飲み食いしながらの宴会みたいな雰囲気だった。
此処に集まっているのはティアの学友であるリナとジョゼに、同郷のバルドにミミリ……そして従者のライラだった。
気心の知れたいつもの仲間同士によるミーティングと言う名の宴会は自然と盛り上がる。
そんな楽しげな場の中、今までティアを導いてきたクマリは気合十分で大声を張り上げる。
「お前達、此処まで良く頑張った! 正直、このアホ弟子が武術大会に出られるなんて信じられ無いよ! お前達がコイツを盛り上げたお蔭さ!」
クマリはティアの周りに居る仲間達に労いの声を掛ける。ティアが秘石で力を付けようとも、武術大会に出場するには冒険者ギルドの推薦を得る必要が有った。
其処でティア達は難易度の高い依頼を積極的に受けて来た。ランドシャーク等の様々な危険な魔獣討伐を行った結果……紅い豪炎ティアのパーティは高い評価を得た。
特に王都で中規模災厄指定魔獣であるダイオウヤイトを3体倒した事は王都でもすっかり語り草となっている。
そんな訳で実力と民衆の評価を身に付けたティア達は、当初の計画通り冒険者ギルドの推薦を得る事が出来たのだ。
クマリは此処までの道程を感慨深く振り返りながら、続ける。
「……此処までは、お前達の支えが有って此処まで来れた! しかし……肝心の武術大会はティア、お前が主役だ! 今から武術大会での戦いに付いて説明する! しっかり聞いておけ、ティア!」
「は、はい!」
「……武術大会の予選はバトルロイヤル式だ。選ばれた戦士達だが、数が多過ぎるからな! この予選で最終16人まで絞られる。ちなみに予選には前回優勝者は参加しない。つまりマリちゃんは居ないって事だ。どうだ楽勝だろう?」
「ら、楽勝かどうかは分りませんが……ちょっと安心しました」
クマリは予選について説明する。予選にマリアベルが参加しない事を告げられてティアは正直な感想を漏らす。
「……予選の後日に行われる本選はトーナメント式だ。幾つかのチームに分かれて勝ち抜き戦を行うんだ。この勝ち抜き戦は5回連続勝てばお前は優勝だ! 今のお前は秘石の力を上手く使い熟せる。滅多な事じゃ遅れは取らない筈だ。何て言ったって私が鍛え上げたからね! とにかくトーナメントを勝ち進んで……5回戦目で決勝戦……その時の相手は間違いなくマリちゃんだろうよ……。気合い入れな!!」
「はい!! 師匠!!」
「よし、気合いは十分みたいだな! 皆、今日は前祝だ! 私が奢るよ! 好きなだけ喰え!」
「「「「おおー」」」」
武術大会の説明の後、気前の良いクマリの言葉を受けて、ティア達は喜びの声を上げた。
こうして武術大会に向けて宴会が始まった。今日は木漏れ日亭はクマリにより貸切になっていた。
丁度、宴もたけなわ……と言う時だった。
“カラン、コロン”
「失礼する」
貸切の筈だった木漏れ日亭のドアが不意に開けられる。急な来客を不思議に思いティア達がドアの方を見遣ると……其処には白騎士オリビアが立っていた。
予想外の登場に戸惑うティア達にオリビアは若干焦り気味で静かに話し掛ける。
「……も、盛り上がってる所……申し訳ないが……クマリとティア……そしてお前達の腕を見込んで火急に頼みたい事が有る……。今すぐマリアベル様の元へ来て欲しい」
突然入って来たオリビアの言葉にティア達は背筋が寒くなる想いだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! いま、隻眼の方を改定しておりまして……それが完了しましたら箱庭の方も改訂するかも分りません。回りくどい所とか、展開とか……色々……直したい所だらけなので……。
ともかく投稿は予定通り5/20(水)に行う予定です! よろしくお願いします!
追)一部内容見直しました。僅かに方向性を変えさせて頂きました。
追)一部見直しました。