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168)新しい家族

 落ち込んだ様子のソーニャにトルスティンは敢えて明るく話し掛けた。


 「それはそうと……君の姉君が、まさかの姫殿下だったとはな。黒騎士殿が麗しい女性だった事も驚いたがな……。姫殿下が相手とは、ティアも分が悪い」


 「そ、そうですわ……! マリアベルお姉様に勝負を挑むなんて、ティアも無謀です! ……でも、最近はマリアベルお姉様とティアも気心が知れた好敵手の様な関係になって……」


 落ち込んだソーニャの気分を変えようと話題を変えたトルスティンだったが、対するソーニャは最近のティアとマリアベルの関係を思い出し、更に落ち込む。



 マリアベルとティアは、レナンを取り合う敵同士の筈なのに、ダイオウヤイト戦の後……互いの気質も似ている為であろうか、急速に仲が良くなった。


 マリアベルは強くなったティアを称賛し、独自に依頼を出す様になった。ティア自身もマリアベルに対する怒りは薄らいだ様で、学校でも彼女の事を悪く言う事は無くなった。

 

 寧ろ、マリアベルからの依頼は文句を言いながら積極的に受けている様だった。ソーニャは変わりつつある二人の関係に、疎外感と寂しさを感じていた。



 その事を思い返し更に落ち込んだソーニャに対しトルスティンは……。



 「……ソーニャ君、ちょっと寄り道したいのだが……構わないか」


 「え、ええ……」



 更に元気が無くなったソーニャに対しトルスティンは何処かへ誘うのであった。




 ◇   ◇   ◇




 「着いた……此処だ」


 「……コレは……温室ですか……?」


 「ああ、余りに小さい為、“箱庭”と揶揄(やゆ)されるがな……」


 ソーニャを箱庭に連れて来たトルスティンは、彼女に答えながら箱庭に置かれているガラス瓶をそっと持ち上げて懐かしい目で見つめる。


 この場所は彼の妻マリナが、薬を作る為に用いていた。トルスティンはマリナが残した思い出の品をそっと触れる。



 「……あの、何故私を此処に……?」


 「レナンとは……此処で出会ったのだ」


 「え!? ど、どう言う事ですか?」


 「……あれは12年程前の事だ……」



 トルスティンは驚いたソーニャにレナンと出会った時の事を話した。



 傷を負ったエンリと言う女性に抱かれていた事……、彼女が亡くなった事……、そして彼が異界の民であろう事等を説明した。



 「……レナンお兄様が……異界の民……成程、だから……この世界の法則に当て嵌まらない魔法や、凄い技を使えるのですね……」


 「レナンの奴は小さい時から、隔絶した存在だった。……剣術や魔術……学問においても……。そして極め付けは……龍を大地ごと消し飛ばした魔法……。本当に奴がする事にはハラハラさせられたモノだ」


 「……レナンお兄様の力を恐れた貴方は……それで偽装工作を……お兄様を守る為に……」


 苦笑を浮かべながら呟くトルスティンに、ソーニャは納得した様子で答えた。



 「……私は、レナンに普通に生きてくれれば良かった……。特別な力も、勇者などと言う称号も不要な事だ……。このアルテリアで、私達と静かに暮らせればと……。

 だが、それは私の我儘だったかも知れん。君達がレナンを連れ出し、ティアが奴を追い掛けた結果……子供達は大きく羽ばたく事が出来た……」


 「……トルスティン……様……」


 子供達の成長を嬉しそうな顔で話す彼に、ソーニャは言葉に詰まってしまった。


 「此処に来れば、レナンとティアの事を身近に感じる。アイツらは……良くこの場所で、遊び……語らっていた。この箱庭は私達家族の始まりの場所なんだ……」


 「…………」


 トルスティンが遠い目をして語る言葉に、ソーニャは我慢出来なくなって涙を溢した。



 レナンとティア達を引き裂いたのは間違いなく自分なのだ。


 その行為がトルスティン達を今も苦しめている……。そう思い知ったソーニャは今更ながら後悔の念を抱き、涙を流した。



 しかし、続くトルスティンの言葉は意外だった。



 「……だからこそ、此処に君を連れて来た。ソーニャ君、他ならぬ君と……私達が“家族”として始まる為にね」


 「……な、何を言っているのですか……?」


 彼は笑みを浮かべながら話す。ソーニャはトルスティンの真意が分らず問う。


 「此処に来たのは、君だけじゃ無い。……マリアベル姫殿下もこの場所に来られた。もっともあの時、レナンを奪いに来て、互いに剣を交じり合ったが……。

 そんな姫殿下も、レナンと婚約されると言う。もっとも其処には陛下の思惑が有るのだろうが……、マリアベル姫殿下は本当にレナンの事を好いて頂いている様だ。君の話や、レナンの手紙からも良く伝わる……。

 先の事は分らんが……レナンの奴を真剣に想ってくれる姫殿下は、烏滸がましいと言われるだろうが、私達にとっても大切な家族だ。……勿論、彼女の妹である君もね」


 「そ、そんなの……た、唯の屁理屈です……!」


 「かも知れん……。だが、私が勝手に想う分には良いだろう? ソーニャ君、君は私達にとって大切な家族だ。だから……君は気に病む事は何も無い。

 君がやった“悪戯”のお蔭で……姫殿下、いや君のお姉さんとソーニャ君を新しい家族となる事が出来たのだ。だから、何も気にする必要は無い」


 「!? うぅ……うぐ! うううぅ!」


 ソーニャを気遣うトルスティンの優しい言葉にソーニャは感極まって号泣してしまう。


 沈着冷静な彼女が彼の言葉を受けて激しく泣いたのは、ソーニャの悲惨な過去に関係しているのだった。

いつも読んで頂き有難う御座います! レナンが黒騎士になるのはもう少し先になりますのでタイトルとあらすじを改めました。

 

 次話は5/13(水I)投稿予定です! よろしくお願いします!

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