165)ランドシャーク
クマリを背負ったまま、王都中を走らされて最後に木漏れ日亭に到着したティア。
到着と同時に彼女はクマリに携帯食の食材確保の為、凶暴な魔獣の討伐を指示される。
「ラ、ランドシャーク? ガツガツ……んぐっ……ゴキュゴキュ、ぷはぁ! ふぅ……ど、どうしてソイツなんですか?」
木漏れ日亭に入ったティアはダイニングテーブルに座りながら出された食事を掻き込みながら問う。
「落ち着け! ホントにお前、伯爵家令嬢かい? 山奥に住まう猿だってもう少しお上品に飯食うよ! はぁ……、まぁイイや……。此処の女将が言うには、その魔獣の肝臓がお前に取って最高の食材なんだってさ。詳しい事は私も分らん。おーい、女将! 昨日言ってた事、ティアに教えてやってくれ」
「はいよ、今行くから待っておくれ」
ティアの問いに答えたクマリは木漏れ日亭の女将を呼び出す。女将にはティアの副作用に適した携帯食料の供給を依頼しているのだ。
クマリから呼ばれた女将は厨房からティア達の元へやって来た。
「……何々、ランドシャークの肝臓かい? そうさね……、古来から肝臓は栄養が豊富って言われてるのさ。その中でもランドシャークの肝臓は特別だよ! 一際デカく、大飯喰らいで、選り好みしない魔獣だから、その肝臓は特に栄養価が高いのさ。
危険で頑丈だから、誰も狩ろうとしないけどね。でも、ティアちゃんも負けじと大飯喰らいだから、アンタには相性ピッタリだろうよ。アンタがソイツの肝臓を持ってくりゃ、後は私の出番さね。最高の携帯食を作ってやるよ!」
女将は大きな声で快活に答えた。
「……って訳だ……。他ならぬお前の為だ。気合い入れるぞ」
「は、はい! 女将さん、有難う御座います!」
こうしてティア達はランドシャークの肝臓を得る為に狩りを行う事になったのだった。
◇ ◇ ◇
「こ、こいつがランドシャーク!? 何てヤバそうな奴……!」
王都中を走らされてから数日たった休日――。ティアは凶悪な魔獣、ランドシャークと対峙していた。
ティアはクマリやライラ達、いつものメンバーで森の奥に住まう、この魔獣を討伐に来ていたのだ。
ランドシャークはその名の通り、陸に住まうサメの様な姿をした魔獣だ。甲骨魚の様な流線型で尖った頭部を持つが魚類では無く、サイの様な胴体と太い足を持っていた。
全長は3m程も有り、太い木の幹の様な頭部は、口を開けば人間など丸呑み出来そうだ。
その頑強な頭部は攻撃を跳ね返し胴体も分厚い鱗のような皮が重なり、まるで鎧を着こんで居る様だった。
盤石の守りに固められた魔獣に怯んだティアが呟くと、直ぐに師匠の雷が落ちる。
「ぼさっとすんな、ティア! そいつは危険だぞ!」
「は、はい!」
クマリの言葉に反応したティアは、彼女を睨むランドシャークから飛びのいて避けた。
魔獣はティアが居た場所に目掛け突進し、その先に有った大木に激突する。
“ドゴン!”
ランドシャークの激突で大木は根元から折れてしまう。岩の様な巨体で激突されればティア達の命は無いだろう。
しかし、このランドシャークは頑強な体と、短い足の所為で小回りが利かない。
大木を破壊した後、魔獣はゆっくりと後退し方向転換しようとしていた。
「今だ! バルド、ミミリ、続け!」
鈍重なランドシャークの動きを見て、チャンスと判断したライラが横に居たバルド達に声を掛け、剣を振り被り駆け出す。
ライラはランドシャークの胴体に切り掛かり、バルドも同時に斬撃を与える。
しかし、この魔獣は大したダメージを受けていない様で、少し身を捩っただけだった。
「行きます!」
ミミリが弓で追撃し魔獣に矢を放つが、跳ね返され意味無く終わる。
「馬鹿! そんなやり方じゃ、コイツは倒せない!ティア、お前の力で思いっ切り横から殴りつけろ!」
「はい、師匠! はあぁぁ!」
“キイイイン!”クマリの指示を受けたティアは右手を前に掲げ意識を高める。すると右手甲の秘石が甲高い音を立てて光り出す。
彼女は十分に力を溜めた後、ランドシャークの横っ腹を思い切り殴り付けた。
“ドドゥ!!”
魔獣の巨体はアクラスの秘石で超強化された、ティアの右拳に殴られ盛大な地響きを立てて倒れた。
ランドシャークは腹を横にしながらもがき、起き上がろうとするが巨体と短い足の所為で、身を捩るが立ち上がる事が出来ない。
「皆! コイツの弱点は柔らかい腹だ! 倒れたコイツは簡単に起き上がれん! 狙うのは心臓! 丸見えの胸部を一点集中し、心臓を破壊しろ!!」
「「「「応!!」」」」
クマリの指示を受けた皆は一斉にランドシャークに飛び掛かるのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話投稿は5/3(日)です! よろしくお願いします!