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164)ティアの特訓

 ダイオウヤイトによる王都襲撃事件から一週間が過ぎた。



 ティアはクマリが所有するエバント元男爵別邸にて、修行していた。



 「師匠、行きます! ハァ!」


 ティアは右手の秘石を発動させ木剣でクマリに切り掛かる。


 秘石の力でティアの斬撃は鋭く強力だが、クマリは得意の風魔法を付与した体術で電光の様に躱してティアを蹴飛ばす。


 “ドガ!”


 蹴飛ばされたティアは体勢を崩して地面に転がった。


 “ズサァ!”


 「いてて……、ハ!? ヤバい!」


 転がったティアは背後に危険を感じ、慌てて横に逃げる。


 “ザシュ!”


 ティアが転がっていた足元に木剣が突き刺さる。あのまま転がっていたら足に木剣が突き刺さる所だ。


 「ククク……中々、勘が鋭くなったね……。でもノンビリしてる場合かい?」


 「遠慮なく! 行かせて頂きます!」


 挑発したクマリに対し、ティアは元気よく叫んで攻めに入る。こうしてティアはクマリと激しい剣戟を繰り広げるのであった。




 ◇   ◇   ◇




 「はぁ、はぁ! もう、立てない……!」


 “ぐぎゅるるるぅ”


 クマリとの特訓を続けていたティアは疲労と空腹で動けなくなった。彼女のお腹も盛大に鳴り響く。


 「ふぅ……もう終わりかよ? ティア、お前は確かに秘石で強くはなった……。特にこの前のダイオウヤイト戦では、お前の奮闘は大したものだと思う」


 「へへへ……」



 クマリは珍しくティアを褒めた。


 対してティアはマンジュを齧りながら、だらしない笑みを漏らす。師匠に褒められた事が嬉しかったのだ。


 「だが! その持久力の無さは致命的だ。力を使い過ぎると寝落ちする点もな……。だからこそ、その弱点を克服するんだ!」


 「は、はい!」


 「今日から改めて徹底的にやるぞ! 幸い、先日の活躍でお前の名は売れ、依頼はバンバン有るだろう! それらを熟しつつ、空いてる時間は修行だ! 分ったか! 分ったら私を背負って走り込みだ! 食べながらでも走れ!」


 「はい! 師匠!」


 そう叫んだクマリをティアは背中に背負い、別邸を出て駆け出す。


 “キイイイン!”


 右手の秘石が音を立てて発動すると、彼女の身体能力は人外の域に達する。


 10代の少女が同程度の体重の女性を背負って走り込む等、簡単では無い筈だが、秘石の力を得たティアには全く問題は無い。


 

 「ウオオオオオ!!」



 ティアはクマリを背負った状態で王都を駆け抜ける。叫び声を上げながら走る、その速度は馬並みで、街を歩く人々も驚愕しながら呆気に取られた表情でポカンと眺める。



 怒涛の勢いで走っていたティアだったが……。



 “ぐぎゅううう!”


 直ぐに彼女のお腹から限界を示す鳴き声が聞こえてきた。残念な副作用の一つが発動したのだ。



 「だ、駄目……、力が抜ける……」


 残念副作用が発動したティアは、急に勢いを無くしてフラフラし出すが、師匠のクマリは厳しかった。


 「ほら、私がお前にマンジュを喰わせてやる! 寝落ちするまで走れ! 限界を超えるまで諦めるな!!」


 「ふぁ、ふぁい! うぐっ が、頑張ります!」


 クマリはティアにマンジュを食べさせながら指示する。ティアも師匠の指示通り、食べながら走り続けるのだった。



 クマリの考えはティアの副作用を無くすのではなく、彼女の活動限界を伸ばす事に有った。


 ギナル皇国で行なわれていた残酷な秘石の人体実験とは違い、クマリの修行は適度な食事と休憩を与えながら負荷を与えていく事で、ティアの寿命を損なわず強化する心算だ。


 こうしてティアはクマリを背負ったまま王都中を走り廻るのだった。




  ◇   ◇   ◇




 「ぜぇぜぇ……つ、着きました……木漏れ日亭です……。もう、走れないよ……」


 「……ふん、王都を5周して限界か……。その間、意識を失って寝落ちしたのが20回以上……。これじゃ、まだ駄目だ。まぁ今日の所は勘弁してやる。次の修行も有るしな……」


 クマリを背負って王都を走り込み、木漏れ日亭に着いたティアは両足を投げ出して呻いた。


 そんな彼女に対しクマリは容赦なく“次”について呟く。



 「次の……修行?」


 「ああ、この走り込みは毎日やって貰う。それでお前の活動時間が増えるからな……。後はメシだ……」


 修行の内容について問うたティアに対してクマリの答えは意外だった。


 「え、飯? 飯ってご飯の事ですか?」


 「そうさ……、木漏れ日亭の女将がお前の為に作ったマンジュも良いけど……。あんまスタミナは付きそうに無いんでね。女将と相談して、もっと滋養強壮が高い携帯食を作る事になったんだ」


 問うたティアにクマリは楽しそうに答える。異国のお菓子を再現したマンジュは確かに携帯食として優れていたが、栄養価が高いとは言えなかった。


 「新しい、携帯食ですか……?」


 「そうさ、マンジュより小さくて沢山持ち運びが出来る、尚且つスタミナがばっちり付く奴をさ。女将と私で考えたんだ。そいつを作る為には……ある魔獣の素材が必要だ」


 「ある魔獣……」


 明るく答えるクマリは、最後に声を低くして呟いた。


 「ああ、ソイツの名はランドシャーク……。頭がサメみたいな化け物さ……動きは鈍重だが食えるモンなら何でも丸呑みする……危ない奴だ。

 丁度討伐要請も出てるし、そのバケモンをお前に狩って貰う。それが次の修行だ。何、デカくて固い上に凶暴だが……今のお前なら余裕だろ?」


 「…………」


 ティアは容赦ないクマリの言葉に、言葉を失い固まるしかなかった。



いつも読んで頂き有難う御座います! 


 この話で出てくるランドシャークって、その名の通り陸ザメです。始めは巨大すっぽんでしたが、色々無理が有ったので陸ザメに変えました。


 次話は4/29(水)投稿予定です! よろしくお願いします!



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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは、美里野さん。御作を最新話まで読みました。 ランドシャーク(´∀`) サメかあ。サメなら陸を走りますよね。いえ、空を飛ぶかも知れないし、なんなら宇宙に出たり、ロボ(おめめグルグル)…
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