161)ロデリア国王
ギナルの白き神について問うたレナンに対し、恐れる事等無いと尊大に答えるロデリア国王。そして国王と媚びるばかりの重臣達。
その状況に王国が危ういと感じたレナンだった。そんな彼に構わず国王に話し掛ける。
「……そう言えば、報告を受けたのだが……。レナン、そなたの義理の姉である少女が王都の危機を救ったとか……。相違ないか、マリアベル?」
「はい、陛下……。彼の者の働きは見事。王都を襲った6体のダイオウヤイトの内……実に3体をティア フォン アルテリアが仕留めました」
「「「「おお!」」」」
王に問われて答えたマリアベルの言葉に、側近達がどよめき感嘆の声を上げた。
対して国王は右手を挙げてどよめきの声を制し話し続ける。
「……姉弟揃って救国の雄とはな……。これはアルテリアに対し褒賞を与えねば……。ふむ、そうだな……トルスティンを赦免し、アルトリア伯爵家は侯爵家へと陞爵するか」
「お、お待ち下さい、陛下! アルテリアのトルスティン元伯爵は大罪を……!」
思い付いた様に淡々と話すロデリア国王の言葉を、側近の一人が突然立ち上がって制止した。
「……ほう? そなたは余の決定に異議を唱えると? そう言えば……そなた、卑劣にもギナルと通じていたルハルト元公爵と、以前懇意にしていたとか……。
それで、そなたはこの国難に対し、何を成した? アルテリア伯爵家以上の働きを見せたか? それ所か、ルハルトと共に何やら良からぬ事を考えていたのでは無いのか?」
「め、滅相も御座いません!」
国王の見下した言葉に、異議を唱えた側近は顔を青くしながら否定する。
「……ルハルトの愚か者を洗ってみれば……奴に懐柔された馬鹿共が芋づる式で見つかった。その結果、この玉座の間も随分と風通りが良くなったモノよ……。これ以上減ら無ければ良いがな?」
「「「「…………」」」」
ロデリア国王の含みを持たせた言葉に、側近達は一斉に固まり声に詰まった。どうやら何人かは後ろ暗い点が有る様だ。
そんな側近達の様子を見て、マリアベルは侮蔑を込めて鼻で笑った。
「トルスティンの罪は重いが、道義には適っている。奴が貫いた義により、奴の子らが報い……王国を救っているのだ。ルハルトとは比べものにならん忠臣よ……。余に必要なのは、その様な忠臣だ。……うぬらもそうは思わぬか?」
「全く持って陛下の仰る通りで……」
「確かにトルスティン殿は義に厚い御方!」
王が誰に問うでも無く呟くと、側近達は歯が浮く程の世事を言い媚びる。そのみっともない姿にレナンは呆れながらも国王には意表を突かれた。
まさかレナンの父トルスティンを国王が高く評価しているとは思っていなかったからだ。
“父の罪が許されるのならば、自分もアルテリアに戻れるかも”
そう淡い期待を抱いたレナンだったが、続いた国王の言葉によりにそれは裏切られた。
「所で……小耳に挟んだのだが……そなたの義理の姉はルハルトの卑劣な策略により、レナン……その方との婚約を破棄したと……。そして再び、そなたとの婚儀を望んでいるとか……。真の話か?」
「…………事実かと」
ロデリア国王は他人事の様にレナンに問う。対してレナンは長い沈黙の後、絞り出す様に同意した。
真実は国王側のソーニャがルハルトの息子フェルディを利用してティアを陥れた。無論その事は国王も知る筈だが、気にも掛けていない様子だ。
レナンはその事に激高しそうだったが、怒りに我を忘れ行動すれば……。その後に待っているのは大切な家族と故郷アルテリアの破滅だ。
だから……、グッと唇を噛みしめて堪えたのであった。そんなレナンに対し国王は……。
「ふむ……、そのティアとか言う娘……不憫よの……。相分った、その娘の願い叶えてやらんでも無い」
「「!?」」
国王の言葉にレナンとマリアベルは同時に驚愕して絶句した。しかし、国王の次の言葉で更に衝撃を受ける。
「……但し、レナン……。そなたが、其処に居る我が姪マリアベルとの子を成してからだ。
それもマリアベルを正室として婚儀の後……その側室としてティアとやらを迎えるのであれば認めてやらんでも無い。このロデリアとしても強き者が増える事は望ましいのでな。
そして……そなたの力は余りに強大……。ギナルと通じていたルハルトの件も有る。生まれ来るそなたの子は皆、王家が管理しよう」
「…………」
冷酷に淡々と話すロデリア国王の言葉は、レナンに取って余りに酷い内容だ。要は彼を人として扱わず、“力”の管理の為に婚儀を利用しているのだ。
当然受入られない話にレナンは反論しようと声を上げる。
「……陛下、お言葉ですが……!」
「お待ち下さい、陛下! それは余りに御無体な仕打ちです! レナンは剣や槍の様な兵器では有りませんぞ! 血の通った“人”です!」
レナンが国王に物言おうとした際、マリアベルが断固として抗議したのだ。彼女は国王がレナンを人では無く物として扱っている事が絶対に許せなかった。
憤るマリアベルに対して国王は悠然と答える。
「……無論、彼は人であるとも。但し、恐るべき力を持ったな……。このロデリアで一体誰が大地を割く様な事が出来よう……。そんな事は誰にも出来ぬ、そこのレナン以外は……。
そのような力を持つ者をどうして野放しに出来ようか。国家において強大な力は管理されねばならない! 故に、レナンと、その血を引く者は例外無くロデリア王家の物だ! その点だけは絶対に揺るがぬ!!」
「陛下!」
ぶれる事無く言い切る国王に、マリアベルは食い下がる。
「くどい! この件については話す事は何も無い! 余に進言したくば、一刻も早くレナンとの子を成せ!」
「陛下、お待ち下さい、陛下!」
激高して言い放った国王は突如席を立ち、玉座を後にする。マリアベルも納得が出来ず後を追うのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
この話ではレナンを兵器として扱おうとする国王に食って掛かるマリアベルが描かれています。マリアベルは基本真っ直ぐな人なんで。
次話は4/19(日)投稿予定です! よろしくお願いします!