159)ダイオウヤイト討伐-32(彼女達の決意)
レナンに抱き着き突然唇を奪ったティア。そんな彼女に周りの民衆達は……。
「「「うおおおお!」」」
「「「キャアアア!!」」」
歓声やら黄色い声が鳴り響いた。クマリのお蔭でティアは此処に居る民衆達の間では悪い公爵にレナンを奪われた悲劇のヒロイン、と言う事に認識されている。
歓声を上げた民衆が見守る中でも構わずレナンへのキスを続ける。
(……つ、遂にやってしまった……。やっと本当の気持ちをレナンに……! もう、後戻りは出来ない)
新たに自分の気持ちと覚悟を確認したティアはそっとレナンから離れる。対してレナンは突然ティアからキスされた事で戸惑い固まっていたが赤い顏をしてティアを見つめた。
ティアはレナンから見られている事に気恥ずかしさから耐えられなくなって俯く。彼女も火が出る様に顔は真っ赤になってしまった。
「ティ、ティア……。その……」
「……い、今更だけど……わ、私はレナンの事を……」
レナンが赤い顏で驚きながら呟くと、ティアも何とか自分の気持ちを伝えようとする。そんなティアに突然声が掛かった。
「……見事やられたよ……ティア。その口付は私への宣戦布告の心算か」
「ソーニャから聞いたわ……。マリアベル、貴女がレナンとキスしたって。先手は貴女に取られちゃったけど、もうこれ以上は譲る気は無いの」
真っ向から言い合うティアとマリアベルの様子に、民衆達は事情を良く分っていないにも関わらず興奮した眼差しで見つめている。 修羅場に巻き込まれたレナンは戸惑い押し黙っていた。
「思えば私は……そなたの事を取るに足らない、哀れな娘と侮っていた。……所がどうだ? 真のそなたはレナンを取り戻す為、果敢に抗い遂には私と並び立つに至った。……恐るべき執念だ。だがな……私とて、レナンを諦める気は全く無い」
「マリアベル……貴女は本当に凄い騎士だと思う。それは共に戦って痛感した。だけど……レナンの事は別よ。私だって彼を諦める心算は無いわ」
マリアベルから受けた宣言に、ティアは彼女を称賛しつつキッパリと言い返した。
「……その意気や良し。元より彼を巡っては正々堂々と挑むべきだった。これより私も真っ向勝負させて貰おう」
「望む所よ……相手に取って不足は無いわ!」
改めて言い放ったマリアベルに対し、ティアも引かず言い返す。そんな彼女にマリアベルは突如厳つい兜を脱ぎ出す。
「マ、マリアベル!? 此処は王城じゃ無いよ!?」
「お、お姉様!?」
突然兜を脱ぎ出したマリアベルにレナンもソーニャも慌てて制止するが、マリアベルは構わず民衆の前に素顔を現してしまった。
野性的で美しい顏を見た民衆達は……。
「黒騎士は女の人だったの!?」
「あの耳! まさか亜人か!?」
「それにしても美しい……!」
恐ろしい鎧を纏っていた黒騎士が美しい女性であった事、亜人で有った事で驚き戸惑っている。
ざわめきが起こる中、マリアベルは気にせずレナンの前に立つ。その顔は緊張気味で赤い顏をしているが、その瞳は強い意志を湛えていた。
「マ、マリアベル……何故、こんな事を?」
「……前にも言った筈……、もはや隠す意味など無いのだ。お前と出会えたからな」
民衆の前で突然、兜を脱いで秘密な筈の素顔を現したマリアベルの意図が読めず、戸惑いながら問うレナンに、マリアベルは悪戯っぽく微笑みながら答える。
その顔はとても美しかった。
「……何より、ティアにやられ放しでは悔しいからな……。今のお前は誰の物か、皆に示す必要が有る」
素顔を晒したマリアベルはそう答えながら、今度は民衆の方を向き直り大声で叫んだ。
「皆、聞いて欲しい! 白き勇者レナンは確かに、この紅き豪炎ティア フォン アルテリアの元婚約者だった! しかし、今の婚約者はこの私だ! 私は彼を誰より愛している! これが、この証だ!」
そう言ってマリアベルはレナンに近付き迷いなく彼にキスした。
「「「「「うおおおお!!」」」」」
それを見た民衆達は歓声に沸くのであった……。
◇ ◇ ◇
ダイオウヤイトによる襲撃を受けた大広場に居た民衆達。
彼らは襲撃事件が有ったにも関わらず、白き勇者レナンを巡って黒騎士マリアベルと紅き豪炎ティアの宣戦布告で大いに民衆は湧いた。
ティアを始めとする英雄達による活躍でダイオウヤイトによる被害は最小限で済んだ事と、紅き豪炎のティアと言う新しい英雄の登場。
それに相まって、先のレナンに対する“修羅場”と続けば、祭り好きの王都民衆を黙らせるのは無理な事だった。
湧きに湧いた“修羅場”の後……燃え尽きた様に呆然と佇んでいたのは、騒動の主要因であるレナンだ。
彼は己が意志等、一切関与出来ずティアとマリアベルから次々と唇を奪われた為、戸惑い放心していたのだ。
修羅場を起こしたティアとマリアベルは互いに不敵に笑いながら、ガッチリと握手を交わした後、各々去って行った。
マリアベルは王城に報告に行き、ティアは仲間達と共に木漏れ日亭に向かった。大広場は漸く日常へと戻りつつある。
そんな中、レナンはソーニャ達白騎士隊と共に事後処理に回っていたのだ。
「……しっかりして下さい、レナンお兄様」
「よう、レナン! 両手に花で大変だな!」
我を忘れ放心しているレナンに対し、声を掛けたのはソーニャとレニータだった。
恐るべき力を持つ癖に、こうした色事には壊滅的に弱いレナンにソーニャは呆れ、レニータは冷やかすのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 2度ある事は3度あると言う事で、ちょっとした修羅場ですが明るく強い二人はドロドロの展開にはなりません。
この話以降、展開がちょっとずつシリアスに変わってくると思います。次話は4/12(日)投稿予定です! 宜しくお願いします!