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158)ダイオウヤイト討伐-31(踏み出す彼女)

 大広場に集まった民衆に、ティアの身の上話を話したクマリ。彼女の話は一部着色していたが、大半の聞き手に同情を感じさせ彼らの心を捕えた。


 舞台を整えたクマリはティアに民衆の前に立つ様に促すのであった。


 ティアは戸惑いの中踏み出すが、そんな彼女が向かう先は唯一つ、レナンの前だった。

 



 レナンと別れてから彼の事を考え続けたティア……。




 彼女は自分の中で何が足りなくて、何をして来なかったかを考え続けた。そして分ったのだ。大切なレナンにティアがすべき事を……。



 それは簡単だが、とても難しい事だった。



 ティアはレナンの傍にとても長く居たのに、とても大切だった筈なのに……彼が当たり前の存在に成り過ぎて、何も伝えず何もしなかったのだ。



 でも、今は違う。



 深く深呼吸をして師匠が促した様にレナンの元へ向かおうと歩き出そうとする。


 一歩を踏み出す前に抱き合っていたジョゼとリナを見れば、彼女達も目に涙を溜めながら力強い笑みを浮かべ何度も頷く。


 ティアの背後にはライラや、ミミリとバルドも見守っていた。思えば彼女達にどれ程助けられた事だろうか。


 ティアは親友や仲間達を見て思え返し大泣きしそうだったが、グッと堪えた。


 そして涙を堪えながら歩を進めると、彼女を取囲み輪となっていた民衆達は歓喜しながら道を開けた。



 ティアが迷わずレナンの元へ行こうとすると、彼女の前に立ち塞がる者がいた。



 ……ソーニャだ。



 「……やってくれましたね、クマリ……。これで貴女がレナンお兄様に近付く“理由”が出来ました。ティア、貴女はさぞ満足でしょう……」


 ソーニャは悔しそうに歯噛みしながら恨み言を呟く。


 クマリは大衆の前で王家を中傷せず、敢えて分りやすい悪役のルハルト公爵家の悪事と叫んだ。


 具体的な事は何も言わず、民衆も良く知る悪役によって、ティアとレナンが別れざるを得なかったと訴えたのだ。


 これでティアは民衆の中では完全に悲劇のヒロインとなった。大衆心理の影響が如何に大きいか、策略に長けたソーニャは良く分っていた。



 こうなってしまえば、ティアがレナンに会う事をソーニャ達が妨害すれば批判を受けるのは彼女達の方だろう。



 クマリの策により民衆を味方に付けたティアを見て恨み言を呟くソーニャに対しティアは……。



 「ソーニャ……アンタは凄いわ。マリアベルの為を考えて、尽くして……。アンタは本当にお姉さんの事が好きなのね」


 「!? ティ、ティア! あ、貴女何を言って……」



 突然、ティアに素で褒められたソーニャは、予想外の言葉に慌てる。



 「……私、今回の戦いで……良く分ったの。アンタのお姉さん……マリアベルが本当に凄い人だって。……黒騎士マリアベルは、アンタのお姉さんは……本物の英雄だわ」


 「ティア……」


 立ち止まり熱い目をしながら空を見上げ話すティアにソーニャは驚きながら呟く。


 「だから、アンタが……マリアベルの為に、色々働くのも……分る気がする。師匠から聞いたわ、マリアベルが孤独の中、戦い続けて来たって……。そしてレナンは、そんな孤独な彼女がやっと出会った存在なのね……。私がアンタの立場なら、姉の幸せを望んで同じ事してたかも……」


 「…………」


 マリアベルを見ながら呟くティアの言葉に、ソーニャは返す言葉も無かった。


 「……だからこそ、私はレナンを賭けて正々堂々マリアベルに勝負を挑む。そして必ずレナンを取り戻すわ。覚悟してね!」


 「ティア……あ、貴女……」


 ティアは最後に気持ちの良い笑顔でそう言い切ってソーニャの傍を離れた。



 そんなティアにソーニャは何も言い返せず、彼女の背中を見送るだけだった。



 ソーニャの元を離れたティアはマリアベルとレナンの元に辿り着く。唯それだけの事だったが、ティアは随分と長い事の様に感じた。


 「ティア、ご苦労だったな」

 「……ティア」


 マリアベルは自分達の傍に来たティアに労い声を掛け、レナンはこの状況に戸惑いティアの名を短く呼び掛けた。


 マリアベル達の前に立ったティアは意を決してレナンに話し掛けた。


 「レナン……貴方には沢山話したい事が有る。本当に何から言えば良いか分らない位……。だけど、最初に言わなくちゃいけない事は……貴方への謝罪だと思う。……レナン、貴方を信じず、酷く辛い想いをさせて……ぐすっ、うぐ……本当にゴメンなさい」


 ティアはレナンに対し目に涙を一杯浮かべながら深く頭を下げて謝罪した。


 「いや、ティア……君は何も悪くない。君だって騙され酷い仕打ちを……」


 話し出したティアは先ずレナンに改めて深く謝罪したが、レナンはそんな彼女を制止する。


 

 対してティアは、顔を上げ深呼吸して改めて話し続ける。



 「すう……はぁ……。レナン、私は貴方にもう一つ言わなくちゃいけない事が有る。私は貴方とずっと一緒に居たけど……余りに長く居すぎて一番大事な気持ちに気付いて無かった。私の貴方への気持ちを」


 「……ティア……」


 そこまで言ったティアにレナンは驚き呟く。対してティアはマリアベルの方を向き直り今度は彼女に話し掛ける。


 「……マリアベル……貴女は本物の英雄よ。……今回の戦いで、それが良く分った。だからこそ正面から挑んで貴女からレナンを取り戻す。先ずは彼に私の気持ちを伝えるわ」



 「「…………」」


 ティアの言葉にマリアベルとレナンは黙って聞いた。



 そしてティアは……レナンに突然抱き着いて……。彼の唇を奪ったのだった。

いつも読んで頂き有難う御座います! 

 この話ではティアはマリアベルに宣戦布告し、修羅場へと突入します。また、もう直ぐこの章が終わりますが、そこからは状況が大きく変わる事となっていきます。


 次話は4/8(水)投稿予定です! よろしくお願いします!


 追)一部見直しました!


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