154)ダイオウヤイト討伐-27(真の最強)
副作用の中、動けないティアの前に降り立ったのはレナンだった。
そんな彼の前にダイオウヤイトの酸が降り掛かる。その酸に彼は焼け爛れる筈だったが――。
“バシャン!!”
液体が飛び散る音の中……、彼は平然と立っていた。
彼の右手は既に異形へと姿を変え、手の甲に有る宝石状の器官は眩い光を放っている。
その右手は吹き掛けられた酸の方へ差出しており……良く見れば半透明の球体が右手の前に展開されていた。
ダイオウヤイトの強力な酸は、彼が展開した半透明の光の壁が全て防いだ様だ。
「……思い付きだったけど……上手く行って良かった……」
レナンはホッとした様子で呟く。そんな彼にティアは……。
「レ、レナン……ど、どうして……」
涙を堪えきれずよろめきながら彼に駆け寄る。
「……誰かの悲鳴が聞こえたんだ……。それで飛んで来たら、ティア達が凄く危ない状況だったから、もう必死で……無事で良かった……」
「ああ、レナン……レナン……」
安堵した様子で話すレナンに、ティアは泣きながら抱き着いて彼の名を何度も呼ぶ。
会う事すら儘ならなくなったレナンに、助けて貰った事でティアは感極まった様だ。其処に嬉しそうな声が響いた。
「……また、助けられたな相棒……!」
声を掛けたのはバルドだ。彼とレナンが会うのは数か月ぶりとなる。
「バルド! 会えて嬉しいよ!」
レナンはバルドの差し出した手をしっかりと握り返し、彼らは抱擁して再会を喜んだ。ティアも二人の再会を嬉しそうに見ている。
「レ、レナン様……!」「レナン君!」
バルドに次いでライラとミミリが泣きながらレナンに声を掛けた。彼女達とも別れて久しい。
「ライラ、ミミリ……二人共心配掛けた……!」
嬉し泣きするライラ達にもレナンは声を掛ける。此処で突然現れた彼に、大広場に居る街の人々は漸く誰か理解した様で、その名を口々に呟き出した。
「あれは……し、白き勇者……レナンか!?」
「レナン様が、レナン様が来て下さったわ!!」
「あ、あれが白き勇者……!」
「レナン様……!!」
周囲の人々が騒ぎ始めるがレナン達は構わず再会を喜ぶ。そんな彼らに声を掛ける者が居た。
「やぁ、レナン君……やっと皆で会えたって所だね?」
声を掛けたのはクマリだ。彼女はティア達を案じて駆け付けた所だった。
「……クマリさん……。僕の大切な仲間を導いてくれて感謝します」
声を掛けて来たクマリに、レナンは頭を下げ礼を言う。
「礼には及ばんさ……。コイツ等と遊んでると退屈しないんでね。所で……折角の所だけど……余りゆっくりはしてられないよ?」
「……そうですね……先ずはアイツを始末しないと……」
クマリの言葉にレナンも声を低くして答えた。
彼は話す言葉は落ち着いているが、内心激しい怒りを抱いており、ティア達を殺そうとしたダイオウヤイトに対し、完全に滅ぼし尽くす心算だった。
彼はティア達から離れて大広場の中央に立ち、ダイオウヤイトを睨む。そして彼は異形の右手を高く掲げた。
レナンが右腕に意識を集めると、手の甲に有る菱形の宝石が音を立てながら急激に輝き出す。
“キイイイイイン!!”
天高く上げた右手の平に集まる光……。その様子を見たクマリが驚き尋ねる。
「レ、レナン君……まさか、お、王都ごと……ふっ飛ばさないよね……?」
「……大丈夫……ただ、奴を穿つだけです」
かつて巨獣を滅ぼした時、山ごと切り崩したレナンの力を思い出したクマリは、恐る恐る彼に問うが、レナンは怒りを燃やしながら静かに答えた。
彼が右手に集めた光は凝集されて、1m程の細長い槍の様な形状となった。
“ギイイイン!!”
強大な破壊力を持つであろう光の槍は、音を立てて振動している。解放される時を待っているかの様だ。
「マリアベル! そこから離れて!」
レナンは城壁傍にてダイオウヤイトと一人対峙しているマリアベルに叫ぶ。そして彼女が其処を離れるのを見て、彼は光の槍を解き放つ。
「ハァァ!!」
レナンは叫び声と共に右手を振り降ろした。
“ブオン!!”
解き放たれた光の槍は音よりも早く飛び――城壁の上に居るダイオウヤイトを貫く。一瞬光輝いたかと思うと大音響が鳴り響いた。
大音響の後、周囲には土煙が立ち込める。街の人々は何が起こったのか分らず戸惑いながらも、音が響き土煙が立ち上った城壁を見た。
やがて土煙が消えた城壁を見た人々は驚愕しながら叫ぶ。
「……おい……な、何だアレ……!?」
「城壁が……!? も、森も!」
「あ、有り得ない……!!」
彼等が驚くのも無理は無い。光の槍が貫いた城壁は、スプーンで斬り抜かれた様な綺麗な断面を見せて大穴が空いていた。
城壁上部に居たダイオウヤイト等、痕跡すらない。レナンが放った光の槍はダイオウヤイトどころか、周りの城壁も切り取った様に丸く抉って、背面に広がる森をも一直線に削っている。
「「「「「…………」」」」」
そんな有り得ない様子を間の当りにした人々は、次第に騒ぐのを止め……沈黙するしか無かった。
一部見直しました。