147)ダイオウヤイト討伐-20(敵襲)
野盗に扮して人攫いを行っていたギナル兵達の目的は、育てたダイオウヤイトの群れで王都を襲撃させる事だった。
その企みを阻止せんとティア達はマリアベルを先頭に、王都へ戻る事となった。
一行は森の中を進んでいたが、馬を休ませる為に度々足を止めねばならなかった。
何度目かの休憩を経て、不安に感じたティアがマリアベルに問う。
「……ねぇ、マリアベル……私達、追い付く事が出来るのかな?」
ティアが気に掛けるのには理由が有った。馬で進むとは言え、此処は森の中……。平野の様に駆け抜ける訳には行かない。
しかも時刻は夕暮れ時……薄暗い森の中、魔法を利用したランタンで周囲を照らしながらの移動だ。
並びに、こうして馬を休ませる為に止まらざるを得ない。思う様に進まない進軍に心配して問うたと言う訳だ。
「……そなたの懸念も分るが……本来、ダイオウヤイトは森の奥で待ち伏せして大型の魔獣等を捕食する化け物だ。従って、移動速度は速くとも長期間の移動には慣れていない筈。
その為、行軍には私達以上に時間が掛かるだろう……。その点で馬に乗る私達に分が有ると考えている」
ティアの質問にマリアベルが答える。
「マリちゃん、このまま街道に出よう。奴らは街道を行かず、このまま森を進む筈だ。街道から馬を走らせば私達が追い付くだろう」
「どう言う事だ、クマリ? 奴らだって街道を進んだ方が早く王都へ着く。何故、奴らが街道に出ないと言い切れる?」
クマリがマリアベルに進言すると、横に居たオリビアが彼女に問う。
「そうか……奴らはダイオウヤイトの群れを率いている。暗くなるとは言え、堂々と街道を進むとは思えない。王都襲撃を確実に行う為には時間が掛かっても発見されにくい森を進むが道理だな……。流石は腐っても特級だな、クマリ」
「ヤダなー、マリちゃん……私は腐ってなんか無いよ、まだピチピチの新鮮生モノだから! ……真面目な話、ギナルの奴らとはやり合って長いからさ。
私が奴らなら、どう攻めるか考えると分るモンだよ。奴らは王都に着いてもタイミングを見計って行動するだろう。連中が、王都を襲うのは……夜明けから昼前だね」
感心したマリアベルの問いに、クマリはおどけながら答えた。
「……クマリ殿、何故夜明けなのだ? 普通に考えて夜の方が襲撃しやすいのでは?」
「奴らの目的は、このロデリアへの可能な限りのダメージを与える事……。それと自国や他国に対するアピールさ。いや……この場合、奴らが崇める“白き神”とやらにかな? “我が神、我々は憎きロデリアに甚大な鉄槌を下しましたぞ!”って感じでさ……」
疑問に感じたライラの問い答える形で、クマリは自分の考えを皆に伝えた。
「……成程、確かに奴らが考えそうな事だな」
「そうさ……、その為には王都の住民達が寝静まってる、夜の襲撃じゃ大した被害にならない。皆、家に居るからね。住民達の活動が最も活発になる午前中……、王都のメインストリートや広場には人が溢れかえる……。
そんな中、奴らはダイオウヤイトの群れを解き放つのさ。恐らくダイオウヤイトを十分休ませた上で、逆に餌を与えず、腹を空かせた状態でね」
「「「「…………」」」」
クマリの話した予想が衝撃的過ぎて、皆は押し黙った。そんな中、声を上げる者が居た。
……ティアだ。
「……冗談じゃ無いわ。どうして……王都に住む人達がそんな目に遭わなくちゃならないの……! こんなの許せる訳無いわ!」
「そうだな、ティア……。私もお前と同じ気持ちだ……。ギナルの狂信者等に王都は好きにさせん! ……クマリの案通り、我等は街道へ抜け……奴らより先行する。
……ティア、お前は出来るだけ休息を取り、戦闘中に先程の様に寝落ちしない様に心掛けろ。今すぐ、此処を立つぞ!」
こうしてティア達一行は、森を進むダイオウヤイトより先行する為、街道へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
所変わって王都にて――。
夜が明けた王都は開店の準備や働きに出る者等で夜の静けさから喧噪を取り戻していた。
城下町をグルリと囲む巨大な城壁に設けられた城門……。
城門の門番であるコルトはいつもの如く同僚達と共に、日の出と共に城門を開けた後、王都に出入りする商人や旅人達を監視する任に就く。
時刻は八時前……王都を出る者は多いが、来る者は少ない……。そう言う時間帯だった。
城門と繋がっている街道は大きくカーブしているが整備された広い道だ。
街道の左右には森が広がっており、高い所に登って街道を眺めれば、街道は森の絨毯に描かれた太い線の様だった。
王都からの街道は8か所ある城門から8方に広がっているが、この正門から延びる街道が一番幅広く、通行する者達も多かった。
門番のコルトが何気なく王都から出て行った商人達を見送っていると……。
遠くの街道上に、横の森から突如飛び出して来た黒い塊が見えた。
その黒い塊はみるみる数を増やして……真っ直ぐコルトの方に向かって来るでは無いか。
彼が何事かと目を凝らしている間にコルトが目で追っていた商人達が、迫り来る黒い塊に包まれ食い散らかされる姿をはっきりと見た。
この時点で、コルトはこの王都に大いなる危機が迫っている事に気が付き――背中に冷たいモノを感じながら大声で叫んだ。
「て、敵襲!! い、今すぐ城門を閉めろ!!」
彼と同様に迫る敵襲に気付いた他の門番達も大急ぎで城門を閉めるのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! この話から王都襲撃編が始まります。次話は3/1(日)投稿予定です! よろしくお願いします!