146)ダイオウヤイト討伐-19(迎撃へ)
ティアが入手した白紙には、ギナル兵達の侵攻計画が記されていた。それによるとギナル兵達はロデリア王都をダイオウヤイトの群れで襲う心算だ。
人口200名程度の村を単独で滅ぼす事が出来ると予想される中規模災厄指定魔獣のダイオウヤイトが群れを成して王都を襲う……。
一体どれ程の被害が出るか分らない。
その事実を知ったティアは恐ろしさで身震いした。王都には親友のリナやジョゼを始めとする学園の友人達。木漏れ日亭の女将と看板娘のシア……そしてレナンが居る。
大切な人達の顔が浮かんだティアは、こんな所でジッとしている場合では無いと気が付いた。
そんな彼女の後ろから声が響く。その力強い声はマリアベルだった。
「……奴らに王都を好きにさせん! この書簡に依れば、奴らが此処を出て間もない! オリビア、急ぎ王都に戻り迎撃するぞ。但し攫われていた者達は危険ゆえ連れては行けぬ。
護衛を残してこの寺院に留まらせる。迎撃班と護衛班を組織しつつ、このアジトの安全を確保しろ。そして寺院を再捜索し、馬と食料の確保を急げ!」
「御意! お前達、私に続け!」
マリアベルの命を受けライラが部下を連れて行動を開始する。ティアはそんなオリビアを見送った後、マリアベルに意を決して話し掛ける。
「あ、あの! 私も王都に行きたいの!」
「……危険だぞ、ティア。書簡に寄れば、王都を襲うダイオウヤイトは全部で6体……この寺院に有る広大な地下墓地を利用して育てたと有る。その6体は生ませた幼体を共食いさせて残った選りすぐりの怪物らしい……。
加えてギナル兵達も居る。狂信者たる奴らも必死に抵抗し、戦いは熾烈を極める……。それでも……お前は私と共に来ると言うのか?」
ティアの訴えに、マリアベルは危険過ぎる状況を踏まえ彼女に問う。
マリアベルは厳めしい兜を被っていた為、その表情は分らないが、その声は静かで穏やかだ。
そんなマリアベルの問いにティアは……。
「私は……レナンや、皆を守りたい……! だから、行くわ、マリアベル。貴女と共に……。大切な人達を守って……貴女を超えて見せる!」
「フフフ……我を超えるとな……、大した気概だ。確かにお前の魔法は目覚ましいモノが有る。戦力的には有り難いが……」
マリアベルの目を見て力強く答えるティア。対してマリアベルも微笑んで答えたが、危険過ぎる戦いにティアの身を案じ、言い淀んでいた所……。
「良く言った、馬鹿弟子! マリちゃん……私も、師匠として不肖の弟子に付き添うわ。それなら文句無いだろう?」
マリアベルに力強く答えたティアに、傍に居たクマリが彼女の背中を押す。するとクマリに続く声が上がる。
「……私もティアお嬢様に続くぞ!」
「……流石に放って置けないな……。ミミリ、お前は此処で待ってるか?」
「バル君……心配してくれて有難う……。でも、私だって助けて貰ってばかりは居られないよ!」
ティアとクマリの名乗りに、ライラやバルド達が次々に声を上げた。そんな彼女達にマリアベルは……。
「フフフ……ティア、頼もしき仲間達だな……良いだろう、参戦を認める。だが……極めて危険な作戦だ。自分の身は自分で守れ。……準備が整えば直ぐにでも此処を出る。各位、今の内に補給を済ませておけ。特にティア、お前は入念にな?」
「わ、分ってるわ! 敢えて言わなくても……」
“ぐぎゅうううう!”
マリアベルは悪戯っぱく笑いながら話したが、ティアの残念副作用は絶妙なタイミングで発動した。
「ハハハ……お前の腹も早く食わせろって言ってるぞ」
「いちいち言わないで! もう!」
鳴り響いたティアの腹の音を聞いて、マリアベルは大声で笑いつつ冷やかした。
そんなマリアベルにティアが文句を言いながら、カバンからマンジュを出して噛り付いた。
次いでティアはマンジュを両手に持ってガムシャラに食べる。
「「「…………」」」
その様子にクマリ達は呆れて残念そうに見遣っていたが……。対してマリアベルは何かを思い付いた様で声を掛ける。
「……ティア、お前が共に戦うと言うなら……、私の横でオリビアやクマリと共に先陣を切って貰いたい。……どうだ、頼めるか?」
「!? うぐっ! うぅー! ゴクン……。えぇ!? ど、どうして私が!?」
マリアベルから言われた突然の提案に、マンジュを勢いよく食べていたティアは、思いっ切りむせて驚き声を上げる。
「お前が放つ魔法……下級でありながら非常に強力だ。ダイオウヤイトにも十分通じるだろう。かの怪物がお前の魔法で怯んだ隙に私達が討つ。
私達は剣で……お前は強力な矢と言う訳だ。だが、お前には補給が必要な筈……。それは奴らが付け入る隙となる。そこでお前の仲間達が、盾となって守る……。この布陣で奴らを叩き潰す! そんな事を考えたのだが……どうだ、やれそうか……?」
「……わ、私なんかが……そんな大役……! でも、良いの……?」
マリアベルの提案した策に、ティアは戸惑いながら自信無さげに聞き返した。
「この陣はお前一人で成り立つ策じゃ無い。ティアだけでは無く、私達やお前の仲間達の合力が必要だ。故に不安に感じる必要は無い」
「う、うん……私なりに精一杯頑張って見るよ……」
「大丈夫です! 私達がティアお嬢さまをお守りします!」
「安心しな……お前の残念副作用が働いて、寝落ちした時はぶん殴ってやるからさ!」
「俺達も協力するから心配すんな!」「私だってティアちゃん達に恩返しするから!」
マリアベルの言葉にティアが答え、傍に居たライラとクマリが励ます。バルドやミミリは横で力強く頷いていた。
そんな中、オリビアの声が響く。
「マリアベル様、 馬を確保しました! 奴らは寺院の一室を利用して馬小屋にしていた様です」
「……よし、準備が出来次第奴らを追うぞ!
「「「「応!」」」」
こうしてティア達はダイオウヤイトの王都襲撃を阻止すべく行動を開始するのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います! ダイオウヤイト戦も佳境に入って来ました。次話投稿は2/26(水)予定です、宜しくお願いします!