14)腐肉の龍-10(厳命)
死を振りまく腐肉の龍が悠然と村人達の方に迫る。その姿を見た村人達は恐怖から絶叫しパニックになった。
「ウウワァアアアア!!」
「も、もう駄目だ!! み、皆殺される!」
「キャアアアアア! 死ぬのはイヤァ!!」
口々に村人は叫んで散り散りになって逃げようとする。そんな時詠唱を静かに唱える者が居た。レナンだ。
「闇夜を照らす暁の火よ 顕現し撃ち滅ぼせ! 爆裂!!」
“バガガガアアァン!!”
レナンが放った魔法は上級火炎魔法の爆裂だ。その強力な爆裂の呪文は腐肉の龍を直撃し、大きな火球が怪物を包んだ。
パニックになった村人達はその爆発で身が竦み動けなくなった。その様子を見たレナンが燃え盛る腐肉の龍を背に全員に叫ぶ。
「お前達、落ち着け! あの龍は僕が一人で倒す! お前達は先にレテ市に向かえ!! ライラ! ダリル! 貴君らが領民を導き一気に駆け抜けろ! これはレナン フォン アルテリアとしての厳命として心得よ!! ここは振り返らず行くがいい!!」
そう言ってレナンは身体強化の魔法を多重掛けし、その体を白く光らせながら腐肉の龍に目掛け走り出した。
“ギィイイォオオオ!!”
レナンが放った強力な魔法に関わらず、爆炎の中から腐肉の龍が体から煙を上げて飛び出した。大したダメージは受けていない。
しかし腐肉の龍はレナンを屠るべき敵として認識した様だ。
この隙に護衛騎士ライラと近衛騎士ダリルは頷きあい、村人達をこの場から離脱させようとした。
腐肉の龍がレナンに迫る様子を見てティアは大声で声を張り上げる。
「あのバカ!! 一人でなんて行かせない! 今すぐアイツと合流するのよ、ライラ!」
「その命令は効けません! ここは一刻も早く全員で退避を!」
ティアの命令を拒否したライラは村人を連れ、レナンを背に走り出した。ティアはライラが駆る馬車に乗っている。
「ライラ!! レナンを! アイツを見捨てる気なの!? アイツはアンタを助けに此処まで来たのよ!?」
ティアは激高し、ライラに問い詰める。しかしライラは涙を流し、噛みしめた唇からは血が滴っていた。
「……お、お叱りなら後で聞きます……! ここはレナン様が命を掛けて作って頂いた機会……何としてでも無駄には出来ません!!」
ライラの涙に濡れた赤い瞳と悔しそうな顔を見たティアは力が抜け、冷静さを取り戻した。そしてティアは大事な事を思い出し自分が乗る馬車の客席を振り返った。
そこには長距離を歩く事が出来ない小さな子供達が沢山居た。
その子供達が龍の襲撃の所為だけで無くライラとティアの言い争いで余計に怯えていた。怯える子供達を見てティアは無理に笑顔を作って子供達に力強く語る。
「安心なさい! あんな龍なんか私と弟のレナンとでぶっ倒してあげるんだから!」
ティアはそう言って傍に居た小さな女の子の頭を撫でた。次いでティアはライラに話し掛ける。
「ライラ……ちょっと頭が冴えたわ。 あのバカの決意は無駄にしない……このままレテ市に向かって全力で進んで! 命懸けで走るのよ! さぁ急がせて!!」
そうしてティアはレナンを案じて迷う気持ちを振り切り、村人達を全力で走らせたのだった……
およそ30分位、全力で走らしただろうか。腐肉の龍の姿は遥か後方で遭遇した地点から大体5kmは移動した筈だ。
此処までくれば村人達も安全だろう……そう判断したティアはライラに話し掛ける。
「……馬を一頭借りるわ……あのバカを迎えに行く……」
ティアの言葉を聞いたライラは力強く頷いて彼女に話した。
「……ティアお嬢様御一人でレナン様を迎えに行かす訳には参りません。私も共に行きます……おい! 誰か御者を替わってくれ!」
ライラはそう言って護衛騎士の一人に馬車の御者を代わった。
ライラとティアがレナンの元に戻ろうとすると次々に声が上がった。
「俺も行くぜ! レナンを置いて行く訳にはいかない!」
「私だって同じ気持ちよ!」
そんな声を上げたのは冒険者のバルドとミミリのコンビだった。次いで声が上がる。
「此処は俺も行かせて貰う。エミル様にレナン様とティアお嬢様を守るように御下命を賜っているしな」
「私も行きます。レナン様には命を救って頂いた恩も御座いますので!」
「アーラ先輩が行くってんなら俺だって!」
救助隊として共に来た近衛騎士のダリル副隊長やアーラとベルンも声を上げた。
こうしてティアとライラ達騎士とバルド達冒険者の合計7名でレナンの支援に向かう事が決まった。
もっともライラ達以外にもレナンの元に行きたがった者も沢山居た。ライラと共にレナン達を護衛した騎士達やレナンの治癒魔法により救われた冒険者達等だ。
しかし村人の護衛がこれ以上少なくなる事を懸念し、断念して貰った。
ティアはレテ市に向かう一行に向かって叫ぶ。
「私達はレナンと共に龍を追撃して時間を稼ぐわ! 貴方達は一刻も早くレテに向かって! お互い生き残っておいしい朝ごはんを食べましょう! これがティア フォン アルテリアとしての命令よ! それじゃ!」
そう叫んだティアはライラ達と共に馬に乗って駆けて行く。
その後ろ姿を見ながら村人の一人が呟いた。
「……何だよ……朝ごはんって……」
それを聞いた別な冒険者の男も笑い出す。
「だよな、俺も思った! 締まんねーなってな! ハハハ!」
冒険者の男が笑うと騎士や村人達も思い出し笑いを浮かべた。その様子を見たライラと同僚の護衛騎士が村人達に声を掛ける。
「ティアお嬢様の御下命だ! 皆で生き残りレテ市で美味い朝飯を頂こう!」
「「「「おお!」」」」
護衛騎士の声を受けて村の男達を中心に声が上がり一行はレテ市に向かった。
ティアの朝ごはん宣言で気が抜けた村人達は少しだけ元気が出た様だ。それを見ながら護衛騎士はティアとレナンの無事を願った。
「全くあのバカ! 死んだら……許さないから!」
そう叫びながら馬を駆るティアだった。全速力の馬なら5分と掛からずレナンの元に戻れるだろう、そう思いながらもティアは逸る気持ちを抑えられない。
それに気付いた追走していたバルドが声を掛ける。
「……落ち着けよ! ティア! レナンならきっと大丈夫だ!」
「うるさいわね! 私は落ち着いてるわ! レ、レナンの事なんて初めから心配して無い!」
「……ティアちゃん……」
バルドの声に、余裕が無いティアは逆に声を荒げる。誰が見てもレナンを案じている事は間違いない。
そんなティアの様子にミミリが心配そうに呟く。ちなみにバルドとミミリは一頭の馬に乗っていた。
馬の数が限られている為で、護衛騎士ライラとアーラで一頭、近衛騎士のダリルとベルンの一頭、合計4頭の馬でレナンの元に向かっていた。
レナンはティアの馬に乗せる心算だったのでティアは一人で乗馬している。
(どうか無事でいて! お願いレナンを守って、お母様!)
ティアは馬を走らせながら、亡き母にレナンの無事を祈らざるを得なかった……
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追)サブタイトル見直しました!
追)一部見直しました!