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144)ダイオウヤイト討伐-17(刺客)

 ティアから渡された白紙を丁寧に見つめるマリアベル……。


 その背後から切り掛かる商人風の男。その男は攫われていた者達の中から突如マリアベルに襲い掛かってきた。


 彼女の危機に向こうでクマリ達の話を聞いているオリビアも気が付かない。



 憎い筈の、仇敵のピンチに――ティアは見過ごす事等出来なかった!



 「マリアベル! 危ない!!」


 ティアは叫びながら無我夢中で剣を掲げ、前に出る。


 「死ねェ!」

 

 「させない!」


 剣を振り上げる商人風の男に対し、ティアはアリアベルを押し退け男に迫ろうとしたが――。



 「……見事だ、ティア」


 絶体絶命のマリアベルが近寄るティアに対し、白紙を持った左手で抱き留めながら耳元で囁く。



 同時に右手で背の大剣をずらし商人の刃を受けた。


 “ギイン!”


 「ば、馬鹿な! まさか気付いていたのか!?」


 「……ああ、それだけ分りやすい殺気を放っていればな……」



 背後から襲い掛かったにも拘らず、マリアベルは背中の大剣で商人の刃を受けた。


 その事に驚いた商人が叫び、対してマリアベルは商人の方に向き直り呟く。


 どうやらマリアベルは殺気を感じて攫われた者達に潜んでいた刺客の存在に気付いていた様だ。


  

 騒ぎを聞き付けてオリビアを始めとする騎士達が商人の男を取囲む。


 「……成程……囚われた者達の監視役と言う訳か……。それと彼等の中に潜み……機会を狙っていたな……。このタイミングで私に襲い掛かって来たのは……余程、この白紙の内容が明るみになるのが困る様だ」


 「…………」


 マリアベルは挑発気味に商人風の刺客を煽るが、刺客は無言で刃を構える。


 「オリビア、殺さず捕えろ」


 「御意!」


 マリアベルは落ち着いた声でオリビアに指示を出す。指示を受けた彼女は短く叫んで、他の騎士達と連携し商人風の刺客に切り掛かる。


 “キイン! ギン! ガキン!“


 刺客は手練れらしく多勢の中剣戟を繰り返していた。


 「今だ! 観念しろ!」


 ”ドザン!“


 しかし、流石に一人では複数の騎士達には対応出来ず、屈強な騎士の一人に抑え付けられ組み伏せられた。


 「捕縛用の縄で縛り上げろ!」


 「もはや此処まで! 白き神よ、我を導きたまえ!」


 ”ガリッ!“ 


 「う、うぐぅ!」


 幾人もの騎士達に抑え付けられた刺客を見てオリビアは捕縛する様に指示を出す。


 対して刺客は叫んで何かを噛み砕いた。すると刺客は口から血を吐きながら断末魔の声を上げた。


 「!? オ、オリビア様!」

 

 「しまった、自決したか!?」



 刺客の様子に押さえ付けていた騎士が、オリビアを呼び、彼女は刺客の自決に舌打ちする。


 自決した刺客は口内に猛毒の自決剤を潜ませていたのだろうか、顔を掻き毟る様な姿勢で苦悶の表情を浮かべながら絶命していた。



 「…………」


 その様子に、真近に居たティアは青い顔を浮かべ言葉を失っていた。


 そんな彼女にマリアベルは静かに声を掛ける。


 「……ティア、見るな。心を病むぞ……其処に腰掛けろ」


 「う、うん……」


 マリアベルに促されたティアは近くの寺院に設けられた階段に腰掛けた。凄惨な自決シーンを目の当りにしてティアは大きなショックを受けた様だ。


 マリアベルはそんなティアの様子を見つめた後、自決した刺客の元に膝を付く。



 「……生まれる時を間違ったな……来世はせめて安らかに……」


 マリアベルはそう呟いて、刺客の見開かれた瞳を閉じてやった。次いで彼女は立ち上がり騎士達に指示を出す。


 「囚われていた者達の中に、敵兵が潜んでるかも知れん! 確認を急げ!」


 「「「「ハッ!」」」」


 マリアベルの指示を受けた騎士達は散らばって囚われていた者達への調査を始めた。



 その様子を見たマリアベルは座り込んでいるティアの元に向かった。


 「……大丈夫か、ティア……」


 「も、問題無いわ」


 声を掛けるマリアベルに、ティアは今だ気分が悪そうだが、それでも気丈に答える。


 「そうか。……先程は私を守ろうとしてくれたな……。礼を言う」


 「べ、別に……平原のお返しよ! これで、借りは返したからね!」


 礼を言うマリアベルに、ティアはそっぽを向いて気恥ずかしそうに答えた。


 「フフフ……もっとも、私は刺客の存在に早くから気付いていたが? それで貸し借り帳消しとは……合点がイカンな」


 「な、何ですってー!? 助けられた癖に、何よ、その態度!」


 此処でマリアベルは悪戯っぽく笑って上から目線で答える。そんなマリアベルにティアは立ち上って怒る。


 「フッ 別に? 助けられた覚えは無いが?」


 「ムキー!! も、もう一度言って見ろ!」


 マリアベルは腰に手を当てながら横を向いて軽口を叩く。対してティアは顔を真っ赤にしながらキャンキャン文句を言う。


 「ハハハハ」



 そんなティアを見てマリアベルは面白そうに笑った後――。



 そっとティアを抱き締めて囁いた。


 「それでも……私を助けようとしてくれた事に、感謝する。有難う、ティア……」


 「……え?」


 そう囁くマリアベルに、突然マリアベルに抱き締められた不意打ちで、ティアは固まり言葉が出て来ない。


 ティアを抱き締めた後、礼を言ったマリアベルはそっと離れて、ティアの頭をポンポンと叩いて明るく言った。


 「落ち着いたか、ティア?」


 「う、うん……」


 「そうか、落ち込んだソーニャに同じ事をすると元気になるんだ。ティアにも通じたな……」


 ビックリしながら赤い顏で頷くティアにマリアベルは優しく話した後……。



 「オリビア、ちょっと来て欲しい! 試したい事が有る!」


 ティアの元を離れながらオリビアを呼ぶ。


 その場に残されたティアは混乱していたが、胸の鼓動だけは収まりそうに無かった。


いつも読んで頂き有難う御座います! この回ではマリアベルの圧勝でした。彼女は天然ジゴロ(同性に)ですから……。


 次話は2月19日(水)投稿予定です! よろしくお願いします!

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