142)ダイオウヤイト討伐-15(救出戦)
一方、攫われた者達の救出に向かっていたティア達は、攫われた者達が捕まっている寺院脇の木々に身を潜めながら、囮役となったマリアベルの動向を見守っていた。
マリアベルの先制攻撃による混乱の最中、寺院の奥に囚われたミミリ達を助ける心算だったからだ。
真正面から敵陣に唯一人で斬り込んだ黒騎士マリアベル……。
ティアは、そんな彼女の活躍を見て、只々驚いていた。
「……あ、あれが……本気のマリアベルの力……。何て凄まじい……!」
ティアが驚くのも無理は無い。単身囮役となったマリアベルは多勢に無勢、圧倒的に不利だとティアは思い込んでいた。
しかし……いざ、戦いが始まってみると……マリアベルは怪しい光を身に纏った後、最初の一閃で取囲んだギナル兵を斬り刻んだ。
そして大剣から赤黒い光を放ち、大地を直線状に割りながら巨大なダイオウヤイトを絶命させたのだ。
戦いが始まって僅かな間にギナル兵主力を簡単に瓦解させた、黒騎士マリアベルの実力を目の当りにして、ティアは驚愕と同時に有る想いを抱いた。
そして、救出戦の最中だと言うのに胸が熱くなり俯いた。
そんな彼女を見て同行しているクマリが声を掛けた。
「良く見ておけ、ティア……。アレが本当の力を出したマリちゃんだ。ダイオウヤイトなんか歯牙にも掛けない。そんな彼女をお前は超えねばならない。……改めて現実を思い知ってビビったか?」
クマリはティアが落ち込んでいると思って気遣った心算だが、当のティアは全く違った。
「……私が恐れる? アイツ……いえ、あのマリアベルを? それは違います、師匠……。私が超えるべき目標が……新たに定まった……今はそんな気持ちなんです」
「ククク……流石、馬鹿は一味違うな」
問われたティアは“アイツ”と言い掛けたマリアベルを態々(わざわざ)呼び換えて答えた。
その顔には恐れなど微塵も無く、瞳は強い意志を湛えていた。
そんなティアを見たクマリは笑いながら面白そうに答えた。ティアがマリアベルの戦いを見て、そう答えたのには理由が有った。
マリアベルはティアに取ってレナンを連れ去った仇敵だ。
しかし多勢に唯一人で挑み敵を打ち砕く……この姿こそ、ティアが幼き頃から憧れていた伝説の騎士や冒険者の姿そのままだった。
その姿に不覚にもティアは心躍ってしまったのだ。
ティアはマリアベルが倒すべき敵であると同時に、かつて憧れ目指すべく英雄でも有ると理解した。
普通なら混乱し苦悩すべき状況である筈だが……ティアは違った。
「……マリアベルがどんなに凄くても、私がやるべき事は変わりません! 先ずはミミリ達を助けて、マリアベルを追います!」
「ふん……マリアベル様の素晴らしさがやっと……理解出来た様だな。だが、マリアベル様の御許に一刻も早く向かいたいのは同意する。攫われた者達を早く助け出すぞ!」
ティアの言葉を聞いたオリビアが、鼻を鳴らしながら指示を出す。
マリアベルの先制攻撃に寺院に居たギナル兵達の戦力は瓦解し、崩壊寸前となっていた。
マリアベルの前には生き残ったギナル兵達が居るが、指揮官が死んだ為か右往左往しており全滅は必死だ。
最初の先制攻撃の折、攫われた者達が集められている寺院からもギナル兵達が飛び出して行った。
今なら此処は手薄な筈……救出するなら今しか無い。
上から目線で指示を出したオリビアに、ティア達はウンザリした顔を浮かべながら彼女の後に続く。
彼女達は森を出て慎重に周囲を伺いながら寺院の中に突入する。寺院入口には扉など無く、石造りの大きな門が有るだけだ。
捕まった者達は寺院奥の大部屋一室に閉じ込められているのだろう。
寺院に入った際に門の前でクマリが立ち止まり叫ぶ。
「退路は私が確保しておく! お前達は先に行け!」
「分った、此処は任せる!」
出入口が一ヵ所しか無い場所で全員が突入した際のリスクを理解しているクマリの判断だった。
クマリの言葉にオリビアは迷いなく答える。残されたティア達はオリビアを先頭に寺院奥まで駆け抜ける。
寺院奥の大部屋柵前には、外の混乱にも拘らず見張り役の二人のギナル兵が居た。
何が有っても持ち場から離れない様厳命されていたのだろう。突如現れたティア達に驚いた見張り役は大声で叫ぶ。
「な、何だ!? お前達は!」
「問答無用!!」
驚愕した見張り役の一人にに構わず抜刀しながらオリビアが叫んで、切り捨てた。
“ザシュ!!”
「ギイャアア!!」
オリビアにより右肩から脇腹まで斬られた見張り役は嫌な断末魔を上げ絶命した。
「こ、こいつ!」
「させるか!」
“ギイン!!”
仲間が切り捨てたのを見て慌てた残党がオリビアに切り掛かるが、すかさずバルドが剣で受ける。
「ガキが! 死ね!」
「バルド!」
残党とバルドが剣を交えている最中、バルドの横に居たライラが叫びながら剣で残党を薙いだ。
“ザン!”
「ウギャアア!」
ライラの剣で残党は事切れた。
「……助かった、バルドにライラ……礼を言う」
隙を付かれそうになったオリビアが二人に礼を言う。そんなオリビアにライラは手を挙げて答える。
対してバルドはそんなやり取りに構わず、柵の前に飛びついて恋人を呼ぶ。
「ミミリ! ミミリは何処だ!?」
「!? バ、バル君! バル君なの!」
バルドの呼び声にミミリが閉じ込められた人達を掻き分けて柵の前に飛び出し、彼に応える。
漸く出会えた二人……。
やっと再会出来た喜びにミミリは号泣し、対するバルドも涙を隠さなかった……。
いつも読んで頂き有難う御座います! この話ではちょっとだけ、バルドに見せ場を作りました。ティアの見せ場はこの後、ありますので!
次話は2/12(水)投稿予定です! よろしくお願いします!