141)ダイオウヤイト討伐-14(圧倒)
森に廃棄された古代の寺院……。その一室で野盗に扮したギナル兵達が集まり話し合っている。
「……追跡者は撃退出来たか?」
「迎撃には十分な数の兵力を当てました。まず問題は無いかと」
そこで話し合っている連中は、容姿こそ汚い皮鎧を纏い、如何にも野盗の様だが話している内容から話し合っているのは指揮官と側近らしい。
「まぁ、構わん……。ロデリアの愚か者達が、此処を狙うのなら丁度良い時間稼ぎになる。……作戦の進捗状況はどうだ?」
「既に本体が出立して時は経ております……。間もなく本格的に始まるでしょう」
「成程……白き神もお喜びに……」
“ガガガアン!!”
「ギャアアアア!」
彼等が話している最中に大きな音が響き、同時に叫ぶ声も聞こえた。
「な、何だ!?」「……外へ出るぞ!」
彼等が顔を見合わせて表に飛び出した。
すると、其処には……全身が漆黒の恐ろしい鎧を纏った騎士が大剣を構えて立っていたのだった……。
その騎士の周りには自軍のギナル兵達が取り囲んでいる。地面には黒騎士に倒されたのか、絶命したギナル兵が幾人も血を流して転がっていた。
駆け付けたギナル指揮官は、異形の鎧を纏う黒騎士に覚えが有り、忌々しそうに呟いた。
「その姿……そうか、お前が黒騎士か……!」
「お前達に名乗る心算は無い……。さっさと攫った者達を解放しろ」
ギナル指揮官の言葉に答えず、黒騎士マリアベルは要求を突き付ける。
「イヤだと言ったら?」
「ならば……切り捨てるまでだ!」
ギナル指揮官との交渉が決裂したマリアベルは、大声で叫び大剣を振り上げた。
「一気に片付ける! ウオオ!」
マリアベルは大剣を頭上にして咆哮を上げる。秘められた鬼の力を開放する気だ。
彼女の周りに赤黒い光が纏わり始め、体を覆う。
そしてマリアベルの体に纏われていた光が激しく輝いた後……其処には鬼の力を開放した黒騎士マリアベルが姿を現した。
「まさか、オーガ族か!?」
「……化け物め……! 取囲んで殺せ!!」
赤黒い光を纏っているマリアベルを見てギナル指揮官と側近が叫んだ。
「死にやがれぇ!」「相手は一人だ、ビビるな!」
するとマリアベルを取囲んでいたギナル兵達が、口々に叫んで一斉に切り掛かる。
対してマリアベルは頭上に掲げていた大剣を、片手で軽々と水平に薙ぎ払った。
“ズパン!!”
甲高い切断音が響いた後……。
“ズルゥ”“ドサァ”“ズン”
マリアベルを取囲んだ6名程のギナル兵達が一斉に体を切断されて崩れ落ちた。
「ひいぃ!」「ウワアア!!」
自軍の兵達が一度に切り殺された事に他のギナル兵達が恐怖で慄き叫ぶ。
対してギナル指揮官は大声で指示を飛ばす。
「狼狽えるな! 化け物には化け物だ、ダイオウヤイトを出せ!!」
「は、はい!」
指揮官の指示を受けた側近が呆けた状態から我に返り、ダイオウヤイトが入れられている柵の方に向かい走る。
その様子を見たマリアベルは静かに大剣を真っ直ぐ天に向けて掲げる。
すると大剣にも赤黒い光が纏わり始めた。
「……虫けら如き、我が剣技で叩き潰してくれる! 喰らえ、鬼刃裂破斬!!」
マリアベルはそう叫んで、赤黒く光る剣を振り降ろす。
“ブオン!! ガガガガガン!!”
すると振り降ろした大剣より赤黒い光が迸しり、剣の軸線上に居た側近やギナル兵達を纏めて薙ぎ払いながら大地を切り崩し……その先に囲われていたダイオウヤイトを砕いた。
“ギシャアアアア!!”
マリアベルが放った必殺の剣技により、ダイオウヤイトは頑強な柵ごと破壊され、漆黒の巨体は青い体液を大量に撒き散らして拉げてしまった。
鬼刃裂破斬が直撃した頭部は吹き飛ばされて原型を留めていない。
特徴的な巨大な2対の触肢もバラバラになり、この怪物はマリアベルにより一撃の元に絶命した。
その様子を見たギナル兵達は……。
「「「「…………」」」」
皆、言葉を失い恐怖により青い顏を浮かべている。マリアベルを見て後ずさりする者も居る。ギナル指揮官さえ余りの事に戸惑っている様だ。
そんな彼等を見たマリアベルは……。
「何だ、呆気ないモノだ……。彼の白き勇者に比べれば、何たる脆弱さよ。これでは本気になる意味は無いな……」
そう呟いた彼女は、自身に纏わせていた赤黒い光を収め、自身を鬼化を解いた。
マリアベルの一閃と彼女の剣技、鬼刃裂破斬により戦力が瓦解したギナル兵達に、もはや本気を出す必要は無いと判断した為だ。
相手にすらされていない、と理解したギナル指揮官は激高し叫ぶ。
「お、おのれぇ!! 白き神の御加護を受けた、我々ギナルを愚弄するか! 愚かなる異教徒め、神罰を受けるが良い!!」
怒りで我を忘れたギナル指揮官は剣を振り上げマリアベルに単身斬る掛かる。
しかし冷静さを欠いた浅慮な攻撃が黒騎士の彼女に通じる訳が無く……。
「痴れ者が……!」
“ザン!”
向かって来た指揮官に対しマリアベルは下らなそうに吐き捨て、迷う事無く大剣で突きを繰り出した。
目にも止まらぬ速さで突き出された大剣により、ギナルの指揮官の首は宙に舞い、血飛沫を撒き散らしたのだった。
一部見直しました。