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140)ダイオウヤイト討伐-13(彼女の後ろ姿)

 「……ほう、攫われた連中が居るのは一番奥の棟か……。ご苦労だったな、オリビア」


 「は、勿体なきお言葉」


 敵アジト視察状況を聞き、マリアベルは部下のオリビアに労いの言葉を掛ける。


 オリビアは膝まづいた姿勢で恐縮しながら主の言葉を受けた。そんな彼女達に声を掛ける者が居た。


 「……ちょっと、良い感じで話してるけど……、何で私だけ正座させられてんの!? マリアベルだって一緒に駄弁ってたじゃん!」


 「うっさい、馬鹿弟子! 反省しろ!」


 「だってな……相手は姫殿下だろ? 俺ら、そんな権限ねぇもん」


 「ううう……ティアお嬢様、御可哀そう」


 クマリに正座させられているティアは盛大に文句を言うが、そのクマリに叱られ、バルドやライラに見捨てられた。


 マリアベルが姫殿下と知れ渡った今では、悲しい事にティアを庇う者は居なかった。


 「……もうその辺で良いだろう……ティア嬢も反省している様だし、許してやれ」


 「おい……アンタも共犯でしょ!? どの口が言うのよ!」



 ティアとは視線を合わせずマリアベルは他人事の様に話すが、裏切られたティアはマリアベルを睨んで噛み付いた。


 「いい加減にしろ、小娘! 些細な事より、今はギナルの連中への対処が先だ! そうですよね、マリアベル様!」


 「うむ……私も同感だ、オリビア。ティア嬢も目を覚ましたし、攫われた者達が居る場所は分った……攻め込むなら今だろう」


 「こ、こいつら……!」


 ティアを窘めたオリビアと、あくまでシラを切るマリアベルにティアは歯噛みする。



 「そう言えば、クマリ……。先程お前は攫われた連中の件について、皆の前で説明すると言っていたな?」


 「……ああ、それを伝えてから、助けに行く方が良いな……」



 騒ぐティアを無視してオリビアはクマリに問う。対して彼女は同意して懐から遠見の魔道具を出して皆に見せながら話し出す。


 

 「……私はコイツでダイオウヤイトが入れられている柵内を覗いてみた……。そしたら見えたのさ、明らかに人の骨らしいのが大量に……。

 攫われてきた連中は皆……あのバケモンの餌にされるんだろう。ギナルの連中は意図的にダイオウヤイトに人の味を憶えさせてる。恐らくは兵器として使う為にな……。あの怪物は大喰いで有名だ。餌は幾ら有っても足りないだろうさ」



「「「「…………」」」」



 クマリの言葉を受けた皆は押し黙ったが、そんな中声を上げる者が居た。


 「……冗談じゃねぇよ、ミミリを喰われて堪るか!」


 「そうだよ、今すぐ助けなきゃ!」


 恋人の危機にバルドが声を上げ、次いでティアが立ち上がって叫んだ。

 

 「……私の部下と……王国民を化け物の餌になどさせん! 皆、今より攫われた者達を救出するぞ!」


 ティア達の声にマリアベルもも号令を出す。こうしてギナル兵に攫われた者達の救出作戦が始まった。



 

  ◇   ◇   ◇




 ギナル兵達が集う旧寺院を正面から見下ろす高台に、マリアベルとティア達一行は集まり、ミミリ達を救うべく今まさに駆け出す心算だった。


 そんな中クマリが救出作戦について問うた。


 「さて……どうする心算かな、マリちゃん? 此処は王道に従い全員で正面から殴り込み掛ける?」


 「いいや、騒ぎを大きくすれば捕まっている連中が危険だ。故に……囮役として私が奴らを引き付けよう。その間にお前達は、攫われた連中を救いだしてくれ」


 クマリに問われたマリアベルは事も無げに言う。ちなみに彼女は戦闘に入る為、あの厳めしい黒い兜を装着している為、表情は見えない。


 マリアベルの言葉を聞いてオリビアが制止した。


 「危険です、御身自ら囮役など! その役目、この私が!」


 「……いいや、この役は戦鬼で有る私こそ相応しい。それにオリビア……そなたには救出された者達を率いて貰いたい。攫われた連中は戦えぬ者達も多かろう。彼等を守りながらの脱出は危険を伴う。その役は実戦経験の多いそなたが適任だ。クマリは……オリビアの支援を頼む」


 必死なオリビアの声に、マリアベルは優しく答えながらスッと立ち上がった。



 捕まった連中を助ける為、敵陣の真っただ中に唯一人で斬り込む。



 どれ程危険な事かマリアベル自身も分っている筈だ。しかしその姿には一切の迷いなく、恐れも気負いも無かった。



 自身の危機も顧みず守るべき者に戦う、真の騎士――そんなマリアベルの姿にティアは、認めたくは無かったが幼少期から抱いていた憧れていた英雄の影とダブって見えた。



 だから……。


 「……私もアンタと行くわ。アンタ一人に良い恰好はさせられない」


 「フフフ……嬉しい申し出だが、そなたはオリビア達と共に行け。囮役は私一人で十分だ」


 ティアの申し出に、マリアベルは嬉しそうに笑いながら断った。


 「何で!? さっきアンタは私の魔法は凄いって言ってたでしょ!?」


 「……そなたは面と向かって敵を殺せぬ。どうだ、違うか? 魔法を放って遠くの敵を吹き飛ばすのとは訳が違う。己が剣で直接、敵の体を切り裂くのだ。

 呪詛の声を聞き、返り血を浴びながらな……。ティア、お前が戦う覚悟を持っている事は分る。そして強い女で有る事も知った。

 だが、進んで自ら手を汚すな。そんな事をしても……レナンは喜ばんぞ……? 此処は年かさの私に任せろ」


 「…………」


 叫ぶティアに、マリアベルは静かに問い返しながら諭した。対してティアは何も言い返せず、俯いて黙ってしまう。


 マリアベルの言う通り、ティアは剣で人を殺したくは無かった。


 最初にクマリの風魔法で切り刻まれた敵兵を見て、ティアには殺しに対し大きな恐れが生じたのだ。


 何も言い返せず涙目で俯くティアの肩を叩きながら、マリアベルは次いで背中の大剣を構えて悠々と前に進む。



 その後ろ姿を見送るティアにとって、それは逞しく遠い存在だった……。


いつも読んで頂きありがとうございます! この話から救出編に移ります。少し長くなるかな、と予想しています。


次話は2/5(水)予定です、宜しくお願いします!

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