139)ダイオウヤイト討伐-12(似た者同士)
ティアに対して謝罪の後、レナンの事を諦めろと言うマリアベルに激高するティア。
彼女の怒りは収まらず、マリアベルに盛大に噛み付く。
「何よ、黙って聞いてりゃレナンの事を諦めろだぁ!? ふっざけんじゃ無いわよ! 私はね! 絶対、ぜーったい! レナンの事は諦めないから!」
“ぎゅるるるるぅ!”
声を大にして宣言したティアだったが、気合いを入れ過ぎた為か、彼女のお腹も同時に鳴り響いた。
「ヤレヤレ……まだ腹が減っているのか? 干し肉はもう少ししか無いぞ……」
ティアの腹の音を聞いたマリアベルは苦笑いしながら、懐から最後の干し肉を差し出す。
残念ながらティアの宣言は腹の音のインパクトに負けて、マリアベルの印象には残らなかった様だ。
ティアは同情と共に差し出された干し肉を奪い取りながら、文句を言い続ける。
「……アンタがいらないって言うなら貰ってあげる。 でも勘違いしないで! 私が言いたいのは、お腹の事じゃ無い! 私はレナンを何が何でも取り戻すから!」
「私とて諦める心算は無い。 良いか? 奴の凄さは単にその強さだけに留まらぬ。天地を揺るがす程の力を持ちながら、澄んだ水晶の様に美しい心根を持っている。
レナンはこの王国を軽々と救う様な紛れもない最強無比の勇者でありながら、道端に屯する民草に、自ら進んで歩み寄る様な謙虚さを持っているのだ。
彼がこの国に仕える限り、この王国の未来は明るく輝くだろう! つまりは王家と所縁のある私と共に居る事が絶対に間違いないのだ! 何よりはっきりと言っておこう……。
長らく共に居ながらレナンの魅力に気づかぬ愚か者では、奴とは釣り合わん。……まぁ……そなたの様な、精神の幼いお子様ではレナンの素晴らしさ等、見つける事も出来ないか……」
レナンを諦めないと断言したティアに対し、マリアベルは興奮しながらレナンの魅力について熱く語り、最後はティアを謗る。
対してティアは黙っていられず猛烈に言い返す。
「何寝ぼけた事言ってんのよ! 姫様か、何か知らないけど……卑怯な手で掠め取った癖に、偉そうな事言ってんじゃないわ! レナンの良さに気付かない!? バカ言わないでよ、そんなの長くアイツとずっと居た私が一番知ってる!」
「……ほう? ならば聞かせて貰おう! お前が知るレナンの魅力について!」
マリアベルを非難しながら、きっぱりと言い切ったティアに対し、マリアベルは挑発した。
「良いわよ、教えてあげようじゃない! アレは……レナンが2歳の時……」
「なるほど……僅か2歳で、その片鱗を……実に興味深い……。だがな、私とて……現在の奴について……」
マリアベルの挑発に乗ったティアは幼少期のレナンについて熱く喋り出した。対してマリアベルも負けじと自分が知る最近のレナンについて話し出す。
こうして二人は互いにレナンの魅力について存分に語り合うのであった。
◇ ◇ ◇
一方、攫われたミミリ達が囚われている場所を探すべくギナルのアジトを探っていた白騎士オリビアとクマリ達は、偵察を終えてマリアベル達が居る場へと戻っていた。
「さぁ、急ぎマリアベル様の所に戻るぞ」
「ああ、それにしてもミミリ達無事で良かったな」
先頭で指揮するオリビアが一行に声を掛ける。対してバルドが恋人のミミリが無事だった事を魔道具による遠見にて確認出来た事を嬉しそうに話す。
「そうだな、酷い目に遭わされた様子は無いし……今の所、捕まった連中は寺院の奥に集められているだけ……ギナルの連中はどういう心算で、人攫いなんかしていたんだろうか」
「……その理由は、間違いなくダイオウヤイトだろうさ……」
ライラが不思議そうに呟いた後、クマリが神妙な声で答えた。
「何故、そう思う?」
「……理由は皆、集まった時に言うよ。余り気持ちの良い話じゃ無いからね」
ライラの問いにクマリはそれ以上答えなかった。そんなやりとりをしながら一行はティアとマリアベルの元へ進むんだ。
◇ ◇ ◇
白騎士オリビアやクマリ達の帰りを待つ間、レナンについて語り合うマリアベルとティアだったが……。
マリアベルが話す巨獣とレナンの戦いにティアは夢中になっていた。
「……そこで、レナンは最後の大技に出たのだ。光る右腕から光の刃を生み出してな!」
「そ、それで……レナンはどうしたの!?」
「まぁ、落ち着け。巨獣はもはやレナンしか見ていない。奴に取って脅威となるのはレナンだけだからな……。レナンも奴を真っ直ぐ見つめ……光る右腕を振り降ろした!」
「ゴクリ……」
熱っぽく語るマリアベルにティアは生唾を飲み込んで彼女の言葉を待つ。
「刹那、奴の右腕から放たれた光は一瞬で巨獣を貫通し……そのまま森を薙ぎ倒して……何と遥か遠方の山を切り崩したんだ!」
「キャアアア! さっすが私のレナン! 超強……」
“ボガン!”
「アイタ!! だ、誰? げ!」
マリアベルの話に興奮していたティアはイキナリ後頭部を殴られた。
「……良い身分だね、馬鹿弟子……。師匠の私に仕事させて?」
背後から聞こえる声にティアが振り返ると……両手を腰にやって怒るクマリが立っていたのだった……。
いつも読んで頂き有難う御座います! 色々考えてこの話は、こんな展開となりました! マリアベルとティアが楽しげに話し合う期間なんて、このタイミングしか有りませんので……。
次話は2/2(日)投稿予定です! よろしくお願いします!