134)ダイオウヤイト討伐-7(邂逅)
野盗に襲われ絶体絶命の危機に陥ったティアを救ったのは、黒騎士マリアベルだった――
吐き気が収まらず、両手を地に付けたままのティアにマリアベルが話し掛ける。
「……そなたがティア嬢か……色々想う所が有り……この場に居るのだろうが……今のそなたには、此処は相応しくない。……早々に立ち去るが良い」
マリアベルは顔全体を覆う恐ろしげな兜を被っており、その表情は分らない。
しかしティアに向けて掛ける言葉は穏やかで優しい。
だが、マリアベルの言葉を受けたティアは――
「……ア、アンタに……アンタなんかに言われる覚えは無い!!」
ティアはマリアベルの言葉を受けて激高し、汚れた口元を袖で拭いながら立ち上がる。
彼女の瞳はマリアベルに対する敵意で満ち、その心は激しい怒りに燃え上がっていた。
ティアが激高するのも当然だ。
彼女が安穏とした生活を捨て冒険者の道を選んだのも、命を賭けて右手に秘石を宿したのも……全てはマリアベル達からレナンを取り戻す為だ。
マリアベル達ロデリア王家の者による策略で、ティアは踊らされレナンは略奪されたのだ。
ティアは激しい怒りによりマリアベルの言葉を拒絶する。
「……確かに、私が言う事では無かったな。……だが、彼奴等は我々が始末を付ける。さらわれた者達も必ず助けよう。此処は我々、王国騎士団に任せて貰いたい」
「冗談じゃ無いわよ! アンタ達にミミリは任せられない! 私達自身の手で助けて見せるわ!」
「……忠告はしたぞ……。それではクマリ、我々は追撃を再開する」
あくまでマリアベルに反発するティア。対してマリアベルは淡々とクマリに声を掛け、バルド達を支援していた白騎士の元に向かった。
彼女達は野盗に扮したギナル皇国の者達を追う心算なのだろう。
マリアベルが去った後、クマリはティアに声を掛ける。
「……落ち着いたか、ティア……。彼女が……黒騎士マリアベルだ。たった一人で野盗を蹴散らす、その強さ……思い知ったろう?」
「はい……悔しいですが……私はアイツに……た、助けられて……しまいました……」
クマリは激しく怒っていたティアを落ち着かせる様に話す。
対してティアは漸く自分の立場が分った様で、悔しそうに涙を浮かべながら答える。
黒騎士マリアベルはティアにとっては宿敵だ。
英雄である黒騎士マリアベルを国王主催の武術大会でティアが圧倒して倒す……。
その為にティアはダイオウヤイトの討伐戦で華々しい結果を出す筈が、フタを開けて見れば……初めての実戦で狼狽しマトモに戦えないばかりか、倒すべきマリアベル助けて貰う始末……。
間違い無く、マリアベルがこの場に現れなければティアの命は無かっただろう。
その現実を噛みしめ悔しさと無力感にティアが打ちのめされていると……。
「大丈夫ですか、ティアお嬢様!」
離れた場所で野盗と戦っていたライラが駆けながらティアに叫ぶ。バルドもライラに次いでやって来た。全員が勢揃いした所でクマリが皆に話し掛ける。
「……お前達……危ない所だったな……。マリちゃん達が来てくれなかったら、全員死んでいたかも知れんぞ……」
「「「「…………」」」」
クマリは集まった仲間達に事実を淡々と話す。ティア達はクマリの言葉を黙って悔しそうに聞いている。
「だが、お前達は悪くない……敵の戦力を見誤った……私のミスだ……わ、悪かったな……」
「し、師匠……」
珍しく侘びるクマリにティアも驚いた。クマリが素直に謝罪した背景には、仕方ない状況とは言えこの危険な場に経験の浅いティア達を連れて来た自責の念が有るのだろう。
事実、ダイオウヤイト程度なら、クマリが過去の経験上、単独で狩っていた事より彼女も何の心配もしていなかった。
クマリが当初考えていたのは、適当にクマリ自身がダイオウヤイトを痛めつけて、仕上げはティア達に狩らせて実績を積ます予定だったが……、まさかギナル皇国が絡んでいるとは全く想定外だったのだ。
クマリの謝罪を聞いたバルドが申し訳なさそうに呟く。
「いや、元はと言えば……アンタの忠告を無視して、突っ走った俺が悪い……。だが、無茶でも何でもミミリを放って置く訳にはいかないんだ……」
「わ、私も……私自身の手で……ミミリを助けたいです……」
バルドとティアは自分達の気持ちをクマリに訴えた。命の危機に晒された彼等だったが、どうしても大切な仲間をこの手で助けたい想いが強かった。
そんなティアの気持ちにライラも答える。
「お嬢様……私も微力ながら、尽力させて頂きます!」
気持ちの折れないティア達を見たクマリは……。
「……全く懲りない連中だね……、だが相手はギナル皇国……、唯の魔獣とは訳が違う。お前達が束になったって無駄な事さ。お前達の気持ちは良く分るが……此処は私にやマリちゃんに任せて……大人しく引き下がるべきだ」
「いや、俺は一人でも行……」
「……師匠は……どうする心算何ですか?」
皆を諭すクマリの言葉にもバルドは即座に反論している最中に、ティアがクマリに問う。
ティアも納得は出来ない様子だ。
「ふむ……私はミミリを助ける為、マリちゃんと行動を共にする。……見た所、どういう訳かマリちゃんはオリビアとか言う、白騎士と二人きりだ。マリちゃんだって……戦力は欲しいだろうからな」
「……だったら、私も御一緒させて下さい! マリアベルに頼るのは嫌だけど……ミミルを助けるなら手段を選んでる場合じゃないから!」
クマリの言葉を受けたティアは、マリアベルとの共闘を望んだのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
この話は、その時々の場面でどう振舞うか考えて何度も書き直し……ティアらしく、マリアベルらしくに拘った心算です。
ティアは泥臭く残念で真っ直ぐに の心算です。上手く表現が出来ているか心配ですが。
次話は1/15(水)投稿予定です! よろしくお願いします!
追)一部見直しました!